64:まさかこんなことを問われるなんて
私が転生者なのか。
まさかクリスに問われることになるとは――。
一度も想定していなかった。
でも、この極上の笑顔を前に、嘘をつけるわけがない。
「……そう、転生者なの。私も。悪役令嬢と言われるニーナ・コンスタンティ・ノヴァに転生してしまったの。元の世界では21歳の大学生だった。車の事故で死亡して、その時に、マジパラをプレイしていたの。だからなのかな。私の魂はマジパラの世界に引き込まれてしまったみたい」
「ニーナ」
クリスが私のことをぎゅっと抱きしめた。
透明感のある清楚な香り。
素敵なクリスの香り。
「……事故で亡くなった時の記憶があるなんて……。それは痛くて怖いことだっただろう。ごめんね、ニーナ、辛い記憶を思い出せてしまって」
そこでさらにクリスが私をきつく抱きしめる。
「ニーナが一度死を経験しているなんて。ニーナが……」
クリスは泣きそうな声になってしまっていた。
慌ててクリスに声をかける。
「ク、クリス、私はちゃんとここにいるから。生きているわ。大丈夫」
クリスは……。
まるで私の存在を確認するように、何度も抱きしめ、手を握り、頬に触れ……。
そして何回も何回もキスをして。
そこでようやく落ち着いてくれた。
ここまで心配してくれるなんて……。
クリスの深い愛に心が打たれていた。
「ニーナのことが好き過ぎて。でもニーナがどこか知らない世界とつながっているように思えて、ずっと不安だった。ただ、これは僕の思い違いだったんだね。ニーナはこの世界に転生してきてくれた。もうどこにもいかず、ここで僕と生きてくれるんだね?」
「勿論よ。クリスのこと大好きだから、離れたくない。ずっと一緒がいい」
「良かった……」
この時のクリスの笑顔。
ずっとこの素敵な笑顔を。
私は自分の寿命を全うする最期の瞬間まで忘れないだろうと思えた。
「しかし、ここがニーナの知るゲームの世界なんて驚きだな」
「私が元いた世界では魔法なんて使える人はいないから」
「それは不便で大変だね」
不思議だった。
クリスと元の世界について話すなんて。
マジパラのクリスがどんなクリスだったか話すなんて。
でも、マジパラのクリスがいかに素晴らしいか話していると……。
「ニーナ、そのマジパラの僕だけど……。僕は自分と同一と思えないな。まるでもう一人の僕……変身魔法で変身させたオリヴァーみたいだ。マジパラの僕を褒められても……。オリヴァーの僕が褒められているみたいだ。なんだか寂しいな。ニーナ、マジパラの僕より、今、目の前にいる僕を見て」
「へっ!?」
驚き過ぎて変な声が出てしまう。
これって、これって。
クリスがクリス自身に嫉妬しているということ!?
とってもシュールだし、激レアな状況なのですが!!
「ニーナ、マジパラの僕のことは忘れて」
!?
マジパラのクリスを忘れる!?
でも今私を抱きしめているのはマジパラのクリスなのに~~~。
とはいえ。
確かに私がゲーム画面越しに見ていたクリストファーは、本当に360度隙が無い、完璧で無敵の大魔法使いだった。もしこのままのクリストファーが目の前に現れたら……。
とんでもなく緊張するし、恋愛するなんて……無理な気がする。何かドジをしたら嫌われるのではと余計な緊張をして、疲れ切ってしまうと思う。何よりも近寄りがたく感じてしまいそうだ。遠くから鑑賞するので十分です、と。
そう考えると今、こうして私に甘えまくりのクリスは……。人間味がある。もちろん限りなく完璧に近いけど、時々うっかりなこともしてくれるし。
だから間違いない。
私はゲーム画面の中で見ていた大魔法使いクリストファーより、間違いなく目の前にいるクリスが好き。大好き。
よってクリスは何も心配する必要なんてないのに。
マジパラの自分のことをよっぽど忘れて欲しかったのだろう。私がメロメロになるまで、あの甘くてふわふわするキスを繰り返した。
◇
アミルとは母屋のエントランスで待ち合わしていた。
クリスと手をつなぎ部屋を出ると、エントランスへ向かった。銀狼はミルキーをのせ、てくてく後をついてくる。
「ニーナ、アミルもいたの、マジパラに?」
クリスが「マジパラ」と言うことにも慣れてきた。
慣れたものの、不思議だ、という感覚は未だに残っている。
「ううん。いないわ。アンジェラもいない。だから本当に驚いたの。アンジェラとアミル、この二人に出会った……というか、さらわれた時は。それにクリスの子供時代もマジパラには登場していないのよ。だから初めて会った時は、まさかクリスだとは思わなかったもの」
するとクリスはニコニコと嬉しそうにしている。
「ちゃんと子供時代もあるんだ。何より僕はニーナに子供の頃に会ったのだから。僕が本物のクリスだよ、ニーナ。マジパラの僕を好きになってはダメだよ」
可愛いなぁ、クリスは。
さっきも散々ふわふわなキスを繰り返し「僕だけを見てニーナ」って言って、私も「うん。私も今一緒にいるクリスが大好きよ。こうやってキスをして、抱きしめて、私を大切にしてくれるクリスを愛しているわ」と何度も伝えているのに。
どうしたって私ラブなんだ、クリスは。
たまらないなぁ。幸せだなぁ。
もう頬が緩みまくってしまう。
お読みいただき、ありがとうございます!
続きは12時頃に「ラブラブが止まらない」を更新します!

























































