63:何が明かされたのか
一方のクリスは笑顔で私に提案する。
「ではフィッツ教頭に電話してみよう、ニーナ」
クリスはそう言うとソファから立ち上がり、部屋の中にある電話機へと向かう。
「え、ク、クリス、何か魔法を使い、連絡をとるのではないの?」
「昨晩のあの場では教頭と生徒ではなく、共に教会と王室の代理人という立場だったけど……。さすがにそれを引きずるのを、フィッツ教頭は良しとしないだろうからね」
なるほど。
確かにお友達でも仲間でもない。
あくまで教頭と生徒という関係なのだ。
ということでクリスは自室から教員の連絡簿を持ってくると、早速、電話をした。
すると……。
すぐに終わると思った電話は、長引いている。
聞き耳を立てるのもなんだろうと思い、私はソファに戻り、ミルキーと銀狼を愛でることにした。それでも話は終わりそうにないので、紅茶をいれることにした。セイロンティーをいれ、テーブルに運ぶと。
クリスが電話を終え、私のところへ戻ってきた。
「ニーナ、長引いて待たせてしまったね」
「大丈夫よ、クリス。丁度、紅茶をいれたの」
「うん。セイロンティーだね。とても華やぐ香りがしているよ」
クリスと二人、紅茶を飲む。
二人で「ふう」と息をつき、同時に顔を見合わせて笑ってしまう。
同じように行動しているのだ。
同じタイミングで同じ行動をしてもおかしくはないのだが。それでも行動が重なると、なんだか嬉しくなる。
「フィッツ教頭から何か聞けた?」
「そうだね。とても興味深い話を聞けたよ」
そう言ってクリスが話し出したことに、私は驚愕をすることになる。
◇
ユーリアは……。
転生者だった。
それは……あっさり解明した。
なぜなら。
フィッツ教頭に自分が転生者であると明かしたのだ……!
なぜ明かすことになったのか。
それは、ユーリアが聖杯の存在をなぜ知っていたのか、聖杯の在り処をどうやって知ったのか。それを問われたからだ。問われたユーリアは、あっさりこう言った。
「どうせ言っても信じないと思いますが、私は転生者なんです。こことは違う世界で生きていて、死んでこの世界に転生した。そしてこの世界は私がプレイしていたゲームの世界なのです」
そう。
まさかの転生者のセオリーを覆し、自分の正体を明かしたのだ。その後は滔々と乙女ゲームのこと、マジパラのこと、攻略対象やゲーム内イベントなどについて語り出す。
これを聞かされたフィッツ教頭ほか、多くの教会関係者は困惑することになる。
そもそも、おとめゲーム? マジパラ? 攻略対象? ゲーム内イベント?
そしてここがおとめゲームの世界? ユーリアはヒロイン? 王太子達は攻略対象?
それはもう、みんなユーリアが異国の言葉を話し出したと思うぐらい、困惑した。それでも昨晩から今朝にかけ、聞いた話をまとめながら、少しずつ理解したのだという。
そして聖杯の存在知った理由、聖杯の在り処を知った経緯も明らかになったが……そこの詳細は教会の秘密に迫るもののため、詳しくは言えない。ただ、「乙女ゲームというものの中で聖杯に関するイベントが行われ、そこで存在と在り処を知ったらしい」とだけ教えてもらえたのだという。
「それでユーリアはニーナのことを名指しで『悪役令嬢』だと言っていたらしいよ。そしてその悪役令嬢の定義もね。フィッツ教頭はそれを聞いて、ニーナがさっぱり当てはまらないから、『リーヴスくんの婚約者であるノヴァ伯爵令嬢への妬み、嫉妬、羨望からの戯言でしょう』と言っていた。つまり、悪役令嬢に関しては信じるに足らずと判断されたということだね」
そこでクリスはニッコリ素敵な笑顔で私に向ける。
「ユーリアから直接聞いたわけではない。フィッツ教頭たち教会の人間が理解した範囲で話してくれたことをまとめると……。ユーリアは好きな物語があった。五人の男性が登場し、そこに主人公となる女性が別の世界から物語の世界にやってくる。そこで五人の男性のいずれかを攻略……恋愛関係になり、結ばれて幸せになると。そしてユーリアはある事故で死亡し、その魂が物語の世界にやってきた。現実の世界から異次元とも言える物語の世界へ。主人公として。そういうことなんだろうね、その乙女ゲームのマジパラ……『マジカル・パラダイム』の世界に転生したということは」
私は……口をパクパクさせることしかできない。
大魔法使いクリストファーが「マジパラ」と言った。『マジカル・パラダイム』とゲームタイトルを口にした。「乙女ゲーム」と口にした。
これは……もう、いろいろな意味でパニックだ。
「フィッツ教頭達は教会の人間だからね。主に対する懺悔のため、嘘をついていないか判定するような魔法も行使できる。古代魔法の一つ、聖なる力と同列と言われる『枢機卿の力』の一つとしてね。その結果、荒唐無稽と思われる話だが、ユーリアは嘘をついていないと判定された。少なくともユーリアは嘘をついていない。ただ、ユーリアがそうだと信じこんでいる絵空事の可能性もあるとフィッツ教頭は言っていたけど……」
クリスはゆっくり私を抱き寄せる。
「僕はニーナのことを知っているから。ニーナから悪役令嬢の呪いことも聞いていたから。とても絵空事とは思えなかった。……ニーナもユーリアと同じ、転生者なのかい?」
宝石のように煌めくライラック色の瞳を向けられ、その上で、史上最強の笑顔を見せられ、嘘をつけるはずが……ない。
お読みいただき、ありがとうございます!
続きは明日の11時頃に『まさかこんなことを問われるなんて』を更新します~


























































