30:そんな、まさか、まさか。
第三王子相手にとんでもない言葉を発したと、慌てて謝罪する。
ウィルは「気にしてない」と笑うが……。
相手がウィルでなければ、不敬罪で死刑にだってなりかねない。
以後、注意しなければ。
「でも、どうして、そうなるのですか? 大人になったら迎えに行くって……つまり、プ、プロポーズですよね!?」
「そう。その通り。ネモフィラの花畑でニーナと会った彼は、一目惚れしたのか、何度か会って君を好きになったのか。ともかく結婚したいほど好きになっていた。でも当時の彼は12歳。今すぐ結婚するのは無理だ。それ以前にニーナも8歳だ。さらに彼もまだ子供だから、婚約すればいい、そんな考えまで浮かばなかったのだろう」
またも叫びそうになり、口を押さえる。
そんな、まさか、まさか。
「とにかく18歳になったら、ニーナのことを迎えに行くと約束した。でも彼は不安だった。ニーナは美しい。成長するにつれその美しさは増す。その美しさを見たら、ニーナを好きになる男性が現れてしまうかもしれない。離れ離れの間に、他の男にニーナを奪われたくない。だから魔法をかけた。遠視にして、眼鏡を必須にした。……僕は眼鏡のニーナも十分に可愛いと思うけど、彼はアンソニーに近い発想だったのかもしれない。そこは意外だったけど、恋は人を狂わせるからね。彼は魔力も強く、優れた人物だったが……男でもあったというわけだ」
驚き過ぎて口をパクパクさせながら、ウィルを見る。
ウィルは分かっているとばかりに頷き、話を続ける。
「遠視にするための魔法なんてなぜかける必要が?――そう思っていた。何かかける魔法を間違ったのかとも思ったが、これで解決だ。魔力を抑える魔法は、説明するまでもない。遠視にするより効果的だ。ニーナがどんなに美しくても、魔力が弱すぎれば結婚が難しくなるから」
そこでウィルは懐中時計を見て、時間を確認する。
その様子になぜか私は落ち着きを取り戻した。
今は昼休みで時間がない。
結婚を望むほど彼から愛されているらしいという事実を、受け入れたわけではない。
だが防犯カメラの写真、足取り、呪文など、ほとんど寝ずに調査をしたに違いないウィルの話を、ちゃんと最後まで聞かなければと思えたのだ。
パニックになるのはその後にしようと。
「ともかくこれで彼の目的は分かった。ニーナ、君は彼にとって、とんでもなく大切な存在ということだ。そして3年前、成人となり、君を迎えるために彼は再びこの地へ来たわけだが……。無論、再会までの6年の間に、彼だって婚約という制度の存在を知っただろう。だから再会したらプロポーズをして、君を婚約者に迎えるつもりだったと思う。そして君が18歳になったら、まあ、学校の卒業を以て、結婚しようと考えたのではないかと」
ウィルはそう言うと立ち上がり、ポケットから取り出した指示棒をのばすと、地図に向けた。
「3年前、この地に再び来た彼の姿をとらえた防犯カメラの写真のここ。ここは2年前まで理容室だった。さらにここ。ここには今も花屋がある。身だしなみを整え、花束を買う。ニーナにプロポーズする気だと伝わってくる。指輪も……用意していただろう。でもそれはさすがに現地調達ではなく、事前に手に入れていたと思う。だが……。ここからは謎だ。防犯カメラの写真の時間を追っていくと、この後、なぜかここに来ている」
ここ、というのは……コンカドール魔術学園だ。
「プロポーズをするために、学園にいる私に会いに来たということですね」
「そう思ったが、コンカドール魔術学園は高等部のみ。3年前、ニーナはここに通っていたはずだ」
……! 確かにそうだ。
前世の小学校と中学校を一緒にしたような、ブルンデルク魔術アカデミーにその頃は通っていた。
「でも、コンカドール魔術学園には、これがある」
コンカドール魔術学園の敷地は広い。地図で示されている校舎からかなり離れた場所についている印には……ネモフィラの花畑と書かれている。
「コンカドール魔術学園にも、ネモフィラの花畑があったのですね……」
私がそう言ったところで、チャイムが鳴った。
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