61:あの件を話したい!でもその前に♡
クリスのおかげで早々にお風呂に入ることができ、ゆっくり休むことができた。よって私の目覚めは爽快だった。
きちんといつもの時間に起き、ウィンスレット辺境伯夫妻と食事をとり、そこで昨日の晩餐会について話した。どうやらフランシスは飲み物をとりにホールに戻った後は、ブルンデルクの上流貴族や避暑で王都へ来ていた貴族から、ひっぱりだこで大変だったらしい。そしてユーリアについては、実家で緊急な用事ができたということで、途中で退席したことが伝えられていた。クリスが言った通り、教会が動いたのだろう。
朝食を終え、部屋に戻ると、身支度を整えた。
昼食の外出を踏まえた今日のドレスは……。
淡いライラック色のスカートには、オーバースカートで夏の花がプリントされたサテン生地と、紫系統の色でグラデーションされたレースが、ドレープ状に重ねられている。
髪はポニーテールにして、オーバースカートと同じ花柄のサテン生地のリボンで留めた。
あと5分でクリスが部屋に来てくれることになっていた。
アミルと街で昼食をとるまでの時間は。
クリスと二人、部屋で過ごすことになっている。
実は。
そこで私はクリスと改めて話したいことがあった。
それは。
悪役令嬢の呪いの件だ。
ひとまずユーリアの脅威は去った。
『叛逆の力』はなくなり、ユーリアは問答無用でクリスを攻略することはない。そしてフィッツ教頭からキツそうな再教育を受けることで、愛する二人を引き裂くような行動もとらなくなる……と思うのだ。
そしてフィッツ教頭の再教育が終わり、王都に戻ったユーリアが、フランシスやグレッグとどのような関係になるのかは……未知数。
とはいえ、ユーリアがヒロインであることに変わりはなく。
私も未だ悪役令嬢のお役目御免ではないのだろう。
やはりクリスと11月に婚姻関係を結べば、いわゆるフラグは折れた、になるのか。
うん……。
ちょっと待って。
何か重要なことを見落としていない、私?
昨晩の出来事を頭の中で振り返る。
映画のように脳内で、ユーリアとの一幕が早送りで再生され、そして……。
――「クリストファー、あなたの誓いを受け入れるわ。あなたこそ、私が待ち望んだ存在。これで完成。私の計画は完璧だったわ。それに悪役令嬢の手に堕ちずに済んでよかったわね、クリストファー」
ユーリアのこの言葉を思い出していた。
それを思い出した瞬間。
心臓が……。
信じられない程、バクバクし始めていた。
私のことをユーリアは知らないはずだ。
知っていたとしても、クリスの婚約者であり、ノヴァ伯爵家の長女で、ブルンデルクに住んでいる――ぐらいのはずだ。
それなのに……。
――「悪役令嬢の手に堕ちずに済んでよかったわね」
えっ、どういうこと?
悪役令嬢の話はクリスにしかしていない。そしてクリスは絶対にこの話を誰にも漏らしていない。アンジェラにクリスは一度だけ記憶を見られたというが、私との記憶は見られていないと断言している。
それなのに……。
なぜ知っているの? 私が悪役令嬢だと。
いや、待って。
この世界で悪役令嬢という言葉は、一般的だったりする……?
考えるが、過去に一度も聞いたことはない。
令嬢という言葉は存在するが、それに悪役をつけて使うことはなかった。
そこで扉がノックされ、クリスが来たと分かる。
膝にのせていたミルキーを肩にのせ、扉へと向かうと。
「ニーナ、おはよう!」
「おはよう、クリス!」
クリスは朝から清涼感のある笑顔を見せ、そしてふわりと私を抱きしめる。優しく抱きしめる間にミルキーは肩からジャンプし、銀狼の背にしっかり移動した。
一方の私は、透明感のある清楚なクリスの香りを思いっきり吸い込み、心身共に満たされる。
その間。
一切のことが頭から吹き飛び、クリスのことしか考えられなくなる。昨晩もあんなにラブラブしていたのに。そのことはまるでなかったかのように、あたかも久方ぶりに再会できた二人、みたいに抱き合っていた。
そして当然抱き合うだけでは収まらず。
クリスは抱きしめる時と同じように、ふわふわと甘いキスを落とす。
昨晩のあの嵐のような激しいキスもいいが。
今の私はこのふわふわで甘々なキスが丁度いい。
あんなに情熱的なキスをされては。理性が吹き飛びそうだから。
ということでしばらくは、溺愛モードのスイッチが入ったクリスと甘々で過ごした。
そして今、ようやくソファに落ち着いた。
既に銀狼とミルキーはソファの足元で寛いでいる。
「ねえ、クリス、私ね、ユーリアが言ったことでで、すごく気になっている言葉があるの」
「その言葉、なんであるか当ててもいい? 僕が気になっている言葉と一致しているかもしれない。アミルやグレッグとは関係のない言葉だ。だから僕も昨晩の謎解きの場面では話題にあげることはなかった」
「……! クリス、当てるまでもないわ。今のヒントで、クリスと私が考えていることは、間違いなく一致していると思うの!」
クリスと私は顔を見合わせて笑う。
するとクリスは。
「では、せーので一緒に言う?」
私は頷いた。そして。
二人して「せーの」と言った後に。
「「悪役令嬢!」」
二人の声が揃い、それが嬉しくなり、私はクリスに抱きついた。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「「え、まさか」と三回繰り返す」を16時前後に公開します~

























































