58:抱きしめたのが正解よね?
まさかユーリアの脅威に立ち向かうことが、王命だったというの!?
「……国王陛下はユーリアのことをご存知だった。ウィルに婚約を求め、それなのに短期間でフランシス王太子様に心変わりし、筆頭魔法騎士であるジェラルドにも告白したことをご存知だった。それに……王妃様の侍従の次女が、オリヴァーとの仲をユーリアに壊されたエリだった。それもあり、国王陛下はユーリアのことを秘かに警戒されていた。僕にユーリアの関心があると知った国王陛下は、まあ、いつも通りだね。頼んだよ、って」
……!
国王陛下は……まだ大魔法使い見習いなのに。クリスに対する信頼感が半端ない。
「クリストファー、では殿下がブルンデルクに来たのは、国王陛下の計らいもあるのだろうか?」
グレッグの問いにクリスは静かに頷く。
「それもあるだろうね。ただ……フランシス王太子様は僕にちょっかいを出したいという気持ちもあり、そこに国王陛下からブルンデルクに行くことをすすめられ、やってきたのだろうね。……グレッグ、ディクソン公爵は前々からこの夏をブルンデルクで過ごすことを決めていたのかい?」
問われたグレッグは首を振る。
「いや、夏季休暇が始まる1週間ぐらい前にブルンデルクへ行くことを提案された。本当は海外の別荘に行く予定だったが……。もしかすると父上がブルンデルクへ行くことを決めたのは、国王陛下が……」
「そうだと僕は思っているよ。……国王陛下はウィルとそっくりのタイプだ。王太子の頃は随分とやんちゃもしていたみたいだ。本当は王都でドンと構えているより、自分が動き回りたいタイプ。それができないから、昔は大魔法使いメイズ様をあちこち行かせていたみたいだけど。さすがにお年だからね。今は僕が代わりに動いているかな? でも僕はじっとしているより動きたいタイプだから、それで問題ないのだけどね」
そうなのか。
あのダンディな国王陛下はウィルタイプ。
親近感がわくなぁ。一体王太子時代はどんなやんちゃをしていたのだろう。
「それでフィッツ教頭は僕が王命を受け動いていると分かり、干渉はしないと示した。同時に、手助けもできないと。『熱心なのは結構なことですが。無茶は禁物ですよ』という言葉でね。結局、教会では役者を揃えることができないから、ユーリアが打ち止めになるか、彼女を目覚めさせる人物が現れるか、待つしかなかったから」
古文書図書館へ向かう途中。
フィッツ教頭とまたもバッタリ会った時。
私は「クリスとキスをしようとすると……フィッツ教頭に遭遇する。何か法則が成立している」なんて考えていたが。
クリスとフィッツ教頭の間では、私の知らぬ意図を含んだ会話がなされていたのか……。これにはもう、驚くしかない。
そんなことを思っていると、アミルの嬉しそうな声が聞こえる。
「まあ、つまりはオレだろう、クリス」
アミルがドヤ顔を向けたが、クリスはすんなり笑顔でそれに応じる。クリスがそんな態度だからアミルは増々調子に乗り「だろう!」とニヤニヤ笑いが止まらない。
この「だろう」の応酬の意味が分からなかったが、グレッグの説明で理解する。
「役者……つまり、打ち止めとなる2人の『叛逆の力』を行使されることになる人間――それは自分とオリヴァーだ。ユーリアに『叛逆の力』の力がクリスに行使されたと信じさせるためのニーナ嬢。そしてユーリアを目覚めさせる人物であり切り札……それがアミル第六王子だったということか。さらに不測の事態に備えつつ、もう一人の自分をコントロールするクリストファー。最後の後始末にフィッツ教頭。これで全ての役者が揃ったと」
必要な役者の中でも、切り札が果たした役割は特に重要。だから切り札となったアミルは「どうだ」とドヤ顔なのだろう。でもそれだけではないようだ。
「違うよ、グレッグ! オレは瞬時にグレッグとユーリアの魔力も奪った。そんなことできる人間、オレぐらいだろう、なあ、ニーナ!」
アミルが瞳をキラキラ輝かせ私を見る。
確かにそんなこと瞬時にできるのは、後はクリスか大魔法使いメイズぐらいしか思いつかない。だから……。
「そうね。アミルのような役者を、教会は揃えることができないわ。それだけアミルは特別だったと思う。ところでユーリアを目覚めさせるって……つまりは本来のユーリアに目覚めさせるということよね? 聖なる力を使えるのは、本来は聖女。例えそれが『叛逆の力』に穢れたとしても、ユーリアが聖女であることに変わりはなかった。本来のユーリアを目覚めさせ、ユーリアが聖女ではなくなる――そのためにアミルが必要だったし、その役目をアミルが果たしたのよね。……アミルはユーリアに何をしたの? 丁度、クリスが現れたから、見ていなかったのだけど?」
するとグレッグと、アミル自身も顔を赤くした。
そこで私はフィッツ教頭の言葉を思い出す。確か彼はこう言っていた
――「もう、あなたは聖女ではなくなった。聖女は異性との触れ合いが禁じられています。でもそれはたった今、こちらの男子との接触により破られた」
つまり……。
「え、もしかしてアミルはユーリアを抱きしめたの? もしくは手を握ったとか? それで禁止されている触れ合いをしたから、ユーリアは聖女ではなくなったのかしら?」
「ニーナ嬢……あなたはなんてピュアなんだ」とグレッグはさらに顔が赤くなる。「ニーナってやっぱり初心だよな」とアミルは顔を赤くしながらもぶっきらぼうに答え、クリスから「アミル、その言い方は聞き捨てならないな」と叱られている。
多分、抱きしめたが正解だと思うけど、違うのかしら? でもこの様子だとあまりつっこまない方がいいように思えた。だから別の質問をする。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「熱烈に抱きしめられ……」を20時前後に公開します~

























































