57:誰にも邪魔できない絆
グレッグが自身の髪をかきあげ、ため息をついた。
「ユーリアに再び自分に『叛逆の力』を行使させる。そこまでは良かったのだが……。すっかり『叛逆の力』にやられてしまい、クリストファー、君の魔法に対抗してしまった。すまなかった」
「対抗ねぇ。あれはどう見ても手加減ありだろう、クリス」
グレッグの言葉に反応したアミルが、すかさずクリスに尋ねる。
「魔法合戦をグレッグと僕がしていると、ユーリアに思わせることが重要だった。あそこで僕が本気を出して倒しては、意味がないだろう」
クリスに指摘されたアミルは肩をすくめている。
あの場にいるのは本物のクリスであり、変身魔法で姿を変えたオリヴァーだとバレないようにする必要があった。だからこそ魔法合戦をしている姿をユーリアに見せた。そしてグレッグとユーリアに押されていると思わせ、チャンスとばかりに『叛逆の力』を使わせたのだろう。
一方のグレッグは、なぜかため息をついている。
「一応、自分は王立イエローウィン魔法学園でそれなりの魔力の強さで知られているが……。いや、未来の大魔法使いなんだ、クリストファーは。仕方ない」
「そう落ち込むなよ、グレッグ。お前は筆頭魔法騎士になるつもりではないのだろう?」
「そうだな……」
生真面目なグレッグ。自由奔放なアミル。
対極にいるような二人だが、なんだかいい感じで意志疎通が図られている。
「それで二人目だけど」
クリスの声に、グレッグとアミルがこちらを見た。
ソファにはクリスと私が並んで座り、その対面にグレッグとアミルが座っていたのだ。
「『叛逆の力』は元を正せば、聖なる力。そして聖なる力は神の力にも等しい。これに抗う魔法はないに等しいことが調べて分かった。つまり、ユーリアに『叛逆の力』を行使されたら、それはもうその力を受け入れるしかない。例え僕であっても。でもそれではユーリアの思うツボだ。そこでもう一人の僕、オリヴァーの登場となる」
クリスはそこで紅茶を飲み、再び話を始める。
「オリヴァーには既に『叛逆の力』が行使されている。だから再び行使したところで、何もない。何もないし、『叛逆の力』は使われたことにはならない。でもユーリアはまさかオリヴァーが僕に変身しているとは思っていない。つまりオリヴァーに二度目の『叛逆の力』を行使させることで、ユーリアには残りの『叛逆の力』も使い切ったと思わせることができた」
そこでクリスが再び、私の頭を優しく撫でた。
さらに愛のこもった眼差しを向けるので、もう心臓が大変なことになっている。
「僕に『叛逆の力』が行使された、それを見てニーナが絶望する。それを見たユーリアは『叛逆の力』が確かに行使されたと実感したはずだ。そう、残り2回あった『叛逆の力』はすべて使い切ったと。そうなるためにはニーナが本気で悲しむ姿を、ユーリアに見せる必要があった」
そこでクリスはふわりと私を抱き寄せる。
「ごめんね、ニーナ。作戦のためとはいえ、悲しい気持ちにさせてしまい」
あの瞬間のことを思い出すと……。
本当に絶望的な気持ちだった。
現実のことと思えず、立っていることもできない状態。
ただ……。
どこかで。
心のどこかで、クリスを信じる気持ちは残っていた。
だってクリスは私にこう言っていたのだ。
――「次で間違いなく、ユーリアは動く。その時に何が起きても、ニーナ。僕を信じて、落ち着くんだよ」
このことを話すと……。
「そうか。そういう意味で言ったことではなかったのだけど……。とりあえず落ち着いて行動しようと意味だった。ニーナには僕を信じて欲しい反面、あの時だけは、僕が裏切ったと思い、存分に動揺した姿をユーリアに見せて欲しかったのだけど……。でも、ニーナが僕を信じてくれた。それは……とても嬉しいことだね。ニーナと僕の間には、誰にも邪魔できない絆が築かれているということだから」
ライラック色の瞳が甘く輝いて私を見つめる。
瞬時に心を溶かされ、そのまま……。
「クリス!」「コホン」
アミルがクリスの名を呼び、グレッグが顔を赤くして咳ばらいをした。
今日はなんだかみんながいるのに、ついクリスに甘えたくなってしまう。これは……ユーリアという脅威をなんとか回避することができた喜びで、ついそうしてしまうのだろうか? 頬が熱いと思いながら、ゆっくりクリスから離れた。
「それでフィッツ教頭と顔を合わせ、お互いに分かったわけだろう? 禁書をいじったのはクリスだと、フィッツ教頭は分かった。クリスは禁書にかけられた特別な魔法が、フィッツ教頭のものだと。それで今回の作戦を打ち明けたのか?」
アミルの問いにクリスは首を振る。
「フィッツ教頭から挨拶以外の質問が来た時、『あ、彼が禁書の魔法の術者なのか』と理解した。さらに『その禁じ手の魔法への興味は、学生ゆえの探求心ですか。それとも大魔法使い見習いとしての知識の収集のためですか』という質問から、ただ個人としてこの件に関わっているのか、王命を受け動いているのかと問われていると理解した。だから大魔法使い見習いとしての知識の収集――つまりは王命で動いていると答えた」
「「「え!」」」
これはグレッグ、アミル、私の声が揃った。
王命で動いた……!?
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次回は「抱きしめたのが正解よね?」を16時前後に公開します~

























































