55:うわぁ、二人に見られていた!
クリスの甘いキスに力が抜け、その私の体をクリスが優しく支える。
「おい、クリス!」
アミルの声に我に返る。同時にクリスの唇が離れた。
瞬時に今のキスをアミルに見られたと分かり、猛烈な恥ずかしさに襲われたが。クリスがふわっと私を抱きしめ、その胸の中に私を庇ってくれる。
「ごめん、ごめん。ニーナがね、僕が二人いるからって混乱しているから」
「はあっ!? だからって……キスで確認なんて……羨ましいことをするなよ」
なぜかアミルの声は最後の方が小さくなっている。
そして顔は真っ赤だ。
「すまない。全く状況が読めないのだが……」
この声はグレッグ!
途中から完全に存在を忘れていた。
ううんんんん!
ということは、今のキスはグレッグにも見られていた!?
羞恥に震える私をクリスはさらに優しく抱きしめる。
大丈夫だよ、ニーナと言うように。
「アミル、グレッグ。二人ともよく僕の計画通りに動いてくれた。この作戦がうまくいったのは二人のおかげだよ。アミルは本当に、切り札として最高の動きをしてくれた。……明かしていない種明かしをしないといけないね。まずはそこにいるのは、僕を演じてくれたオリヴァーだ」
「「えっ!」」と叫んだのはグレッグと私。
クリスの胸から顔と体をはなし、アミルのいる方を見る。
すると。
そこには黒のテールコート姿のオリヴァーが確かにそこにいる。
「……なるほど。晩餐会の席で、オリヴァーを近くに着席させてくれと言ったのは、このためだったのか。つまり変身魔法でオリヴァーをクリストファー……君自身に変えたのか」
グレッグの言葉にアミルが反応する。
「変身魔法だけじゃないよな? 意図した通りの動きをしている。魅了の魔法だって使われている」
「なるほど。確かにそうだ。それに自分はオリヴァーと魔法合戦を行ったが……。オリヴァーの魔力で自分に対抗できるわけがない。ということは……」
グレッグの呟きにまたもアミルが反応した。
「あれはクリスが遠隔で使った魔法だろう。クリスはここを俯瞰できる場所にいたのだと思う。そこで君の詠唱する魔法にあわせ、魔法を使った。口に出さずとも、頭の中で魔法の詠唱をクリスはできるから」
なるほど。だからクリスは……オリヴァーが変身していたクリスは、私を背に庇ったまま、ずっと無言だったのか。グレッグは離れた場所にいた本物クリスと、魔法合戦を繰り広げていたわけだ。
アミルの解説を聞いたグレッグは。
「……自己紹介がまだだった。自分はグレッグ・M・ディクソン。ディクソン公爵家の嫡男で、住まいは王都にあり、王立イエローウィン魔法学園に通っている3年生だ。君のことはニュースペーパーで見て知っている。ギリス王国のアミル第六王子、初めまして」
二人の様子が気になった私は、再びクリスの胸から顔をあげた。
見るとグレッグの丁寧な挨拶にアミルの頬は緩んでいる。そして二人はお互いに近い場所にいたから、握手を交わした。
「しかし。自分以外にも協力者がいると聞いていたが、まさかギリス王国のアミル第六王子だったとは……驚いたよ、クリストファー、」
「そうだね。今回の作戦の全貌は僕しか把握していない。作戦決行前に、もしユーリアに気づかれ、誰か一人でも作戦をはくことになっても、全貌が分からなければ完全阻止はできないはずだからね。アミルへの連絡も誰にも気づかれないよう行ったし、アミルの協力を得たことは誰にも話さなかった……さて。僕が立てた作戦について少し話そうか。グレッグ、屋敷の一室を借りても?」
問われたグレッグは「もちろんだ」と返事をして、私達を応接室へ案内してくれた。その応接室のソファに腰をおろすと、紅茶が運ばれてきた。その紅茶を飲みながら、話をすることになった。
「クリストファー、君は全てを分かっていたのだろうか? 謎の男の正体も分かった上で、この作戦を立てたのか?」
グレッグが紅茶を口に運びながらクリスを見た。
クリスはカップにゆっくりミルク注ぎながら答える。
「謎の男の正体は確信まで持てなかったが、フィッツ教頭である可能性は高い――とは思っていた。フィッツ教頭というのは、ニーナ、アミル、僕が通うコンカドール魔術学園の教頭だ。彼は古代魔法の教師をしていたし、過去に発表した論文などからも、その方面の権威であることがすぐに分かった。彼が今回の件に関わっているかどうか、それを確認したくて、メッセージを残した」
グレッグ、アミル、そして私の三人は「メッセージ?」という顔でクリスを見た。
「聖なる力について調べるには、コンカドール魔術学園にある古文書図書館の地下にある本を閲覧する必要があった。そこには沢山の禁書が保管されているのだが……グレッグはその件は知っているかい?」
「ああ。ブルンデルクは北方の防衛の要だったからな。かつてギリス王国と戦をした時、様々な魔法が使われ、それは平和な今の時代では行使することが禁じられることになった。その禁じられた魔法、古代魔法などについて書かれた書物は、コンカドール魔術学園にある古文書図書館の地下で保管されていると聞いている」
さすがグレッグ。筆頭公爵の嫡男として、知っておくべきことは知っている。一方のアミルは当然そんなことは知らないので、グレッグの話を聞き、そうなのかと感心していた。
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続きは明日の11時頃に『謎の男を突き止める』を更新します~
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