46:恥ずかしいが……嬉しい。
私が妄想の翼を広げていると。
「ニーナはまた楽しい想像をしているのかな?」
「そう。でも今、クリスと一緒にいるのだから。本人に思いっきり甘えないと」
その胸に顔を寄せると。
クリスが私をぎゅっと抱き寄せる。
「ニーナ、大好きだよ。愛している」
もうマーブルおばさんのバームクーヘンに。
生クリームと蜂蜜とチョコソースをたっぷりトッピングしたみたいに。甘~い、甘~いクリスの言葉にとろけていたその時。
急に馬車が止まった。
クリスが私を抱きしめたまま、窓から外を見る。
ライラック色の瞳が前方を見て細められた。
「……フランシス王太子様だ。車でいらしている。今、先導の護衛の魔法騎士が乗った車が通過している。ジェラルドが乗る車も通過した。間もなく、フランシス王太子様が乗った車も通過するだろう」
つまりその車にはユーリアも……。
これまでとは違う意味で心臓がドクドクと深い不安の音を刻む。
「大丈夫だよ、ニーナ。問題はない。僕がいるから。安心して」
クリスが私をぎゅっと抱きしめた。
◇
こうして。
ついにその時が来た。
そう、フランシスのブルンデルク滞在を祝う、ディクソン公爵家の晩餐会に参加するため、屋敷を出る時間が。
深呼吸をして、姿見で出発前に身だしなみを確認する。
ユーリアはきっと。
妖艶で大人っぽいドレスを着るだろう。
それに対抗するつもりはないので、いつも通り。
クリスが「ニーナ、可愛いよ」と言ってくれそうなドレスを選んだ。
色はクリスの瞳と同じ、ライラック色のドレス。
でもとても優しい色味で、ニュアンスカラーになっている。
シルク・オーガンジーのスカートには、グラデーションになるようにグリッターが飾られていた。さらに胸元からウエストラインにかけ、ビーズレースで編まれたユリの花も重ねられている。ウエストはロイヤルパープルのリボンベルト。濃い色がウエストにくることで、ボディラインが引き締まって見える。
髪はサイドで三つ編みにし、それをお団子にしてまとめた。結び目に花の髪飾りをつける。さらにクリスにプレゼントしてもらった蝶の形のイヤリング、蝶の飾りがついたチョーカーをつけて完成だ。
ウィンスレット辺境伯夫人は、ウィンスレット辺境伯の仕事場の近くで待ち合わせ、そのまま晩餐会が行われるディクソン公爵家の別荘へ向かうという。
だから私はクリスと一緒にディクソン公爵家への別荘へ向かうことになる。
「ニーナさま、なんだか今日は緊張されていませんか?」
着替えを終え、ソファに座る私を眺め、ケイトがドキリとする指摘をする。ぎこちなくミルキーを撫でながら微笑む。
「そ、そうね。何せ王太子様がいらっしゃる晩餐会だから緊張するわよね」
「でもニーナさまにクリストファーさまがいるではないですか。大丈夫ですよ」
これから何が起きるか知らないケイトは。
笑顔でエールを送ってくれる。
でもここはマジパラの世界。
私がプレイしていた乙女ゲームの世界なのだ。
攻略対象もヒロインもキャラ変しているが。
私が悪役令嬢という役割を与えられていることに変わりはない。
クリスは万全の対策と切り札を用意したと言っていた。
勿論、クリスのことは信頼している。
それでも……。
どうしても不安は拭い去れない。
そこで扉をノックする音がした。
ケイトが扉に向かい、私はソファから立ち上がる。
「ニーナ!」
「クリス!」
驚いた。今日のクリスはなんだか……新郎みたいだ。
ロイヤルパープルのシャツにシルバーのタイ、ライラック色のシルクのベスト、白のテールコートに白ズボン。夢で見たクリスとの結婚式のことを思い出してしまい、必要以上にドキドキしてしまう。
「今日のニーナのドレスも愛らしくて素敵だね。ニーナは本当に、僕の瞳のドレスが似合うね」
私の両手を持ち上げると、左右の手の甲に嬉しそうに何度もキスを落とす。いきなり甘々モード全開なので、倒れそうになり、ケイトに後ろから支えてもらう事態に。
「晩餐会の会場に足を踏み入れたら。そこからは気持ちを引き締めないといけないからね。それまでは……いいよね、ニーナ」
最後の一言を尋ねるクリスの表情。この顔を見て「ダメ」なんて言えるわけがない!! ラーメン屋の定員みたいに「喜んで!」と大声を出しそうになり、それを飲み込む。そしてケイトからの「ニーナさま、しっかり」という声に励まされ、伯爵令嬢らしく微笑む。
「そうね。クリス。晩餐会の会場につくまでは、二人だけの時間よ」
なんとかそう言えたが、もう頬が緩んで仕方ない。
「嬉しいな。ニーナ。じゃあ、行こうか」
そう言って私に手を差し出すクリスは……。
あああああ、なんてカッコいいの!
もう既に全身から力が……「ニーナさま、しっかり!」――ケイトの声に我に返る。
馬車に乗るまで。
腰が3度ぐらい砕けそうになった。
クリスはこのままでは階段を私が降りられないと判断したようだ。
つまり。
階段はまさかのクリスによるお姫様抱っこで降りることになった。
恥ずかしいが……嬉しい。
そのまま馬車に乗せてもらった。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「いよいよ晩餐会へ」を20時前後に公開します!

























































