43:ニーナと僕は永遠
時間を見ずに11時ピッタリにオルゴールにあわせキスをする。それができると二人の愛は永遠。このジンクスを達成するため、今からキスをすることをクリスは提案した。
確かにこの方法なら間違いはない。
あとは……。
私は今、自分が座るベンチを確認する。
クリスが選んだベンチは大きな柱の影、かつ観葉植物も周辺にあるから、そこまで目立つ場所ではない。本当は。百貨店のホールという人通りもある場所でキスをするなんて……という気持ちはなくもない。
でもクリスとの永遠の愛が手に入るなら……。
前向きなメッセージの占いやジンクスは、つい信じたくなる質なので、クリスが頬を手で包み込んだ瞬間。静かに瞼を閉じる。
そこからは……。
もう夢のような時間。
今日初めてのクリスとのキスだ。
ふわりふわりと優しいキスを重ねられると、ぽわっぽわっと気持ちが高まる。急激に心臓が反応するのではなく、緩やかにトクン、トクンと鼓動している。
あぁ。なんだか温泉に入って、芯から気持ち良さが全身に染みわたっていくみたい。クリスの愛情が唇から全身に広がって、とっても幸せな気分になれる……。
すっかりクリスのキスに酔っていたまさにその時。
オルゴールが音楽を奏で始めた。
クリスの作戦は大成功。
音楽が開始したその時、クリスと私の唇はちゃんと重なっていた。
そのまま音楽が終わるまでの3分間。
キスを続けていた。
音楽が終わるとクリスは。
「ジンクスは達成だね、ニーナ。でもジンクスに関係なく、ニーナと僕は永遠だけどね」
甘く耳元で囁き、私を抱きしめる。
もう本当にとろけてしまった私は、そのまましばらくクリスの腕の中で夢見心地だった。
◇
百貨店を出て、再び馬車に乗り込み、アニカのお店アクア・ラウンジへ向かう。アフタヌーンティーが始まれば。当然だがラブラブすることはできない。と言っても、さっきまでジンクス達成のために、沢山のキスをしていたのだけど……。
クリスも私もそれでは足りなくて。
アニカのお店につくまで、馬車の中ではやっぱり甘々で過ごしてしまう。
こうなると本当に。
ユーリアの脅威を忘れそうになる。
そして秘かに願う。
これだけクリスと私は愛し合っているのだ。
ここがマジパラという乙女ゲームの世界であることはよく分かる。自分が悪役令嬢であることも理解していた。それでも……。どうかクリスと私の愛を認めてください。そんな風に願わずにはいられなかった。
そうこうしているうちに、馬車は目的地に到着する。
馬車を降りると、クリスは私をエスコートし、離れの個室へ向かう。
そこは、なんとも風流な場所だった。
中華風と和風を融合させたような池のある庭園があり、その池に母屋となる建物からアーチ型の橋がかかっており、そこに離れがあった。六角形の建物で、屋根は青い瓦。その姿は上野公園の不忍池で見た辯天堂みたいだ。
ドレスへの着物生地の利用といい、じわじわと東方の文化が、西洋風のマジパラの世界に入り込んできている気がした。
建物の中に入ると、こちらは中華風。
黒いテーブルと椅子は、前世の高級中華料理のお店で見たことがある。たしか……紅木。でもって黒っぽくなるのは……老紅木。そう、酸化してく黒くなるとお店の人が言っていた。ちょこんと椅子に座ると、銀狼とミルキーは、そばにあるソファにのって寛いでいる。荷物置き兼守護霊獣が休むことができるように用意されているソファだ。
「アニカは既成概念にとらわれない思考の持ち主で、自分が見ていいと思ったものをすぐに取り入れる。だから王都でもいつも最先端を行くし、みんなを驚かせているんだよ。このお店も離れも、庭園も、僕が旅した限りでは見たことがないものばかりだ。文献や美術館では見たことがあるけど……。面白いね。いつかニーナと海外も旅したいな」
そう言って微笑むクリスは……。
なんて素敵なのだろう。
なんというか、脳内でクリスの着せ替えをしてしまう。
例えば中国の皇帝風の衣装。
絶対似合うわ~。
日本だと……あ、やっぱり平安貴族の装束とか。
この美貌であればどんな衣装でも様になるに違いない。
しばし脳裏の中でクリスの着せ替えは続き。
様々な姿のクリスから溺愛されたい……という夢のような願望が広がる。これがゲームだったら簡単に衣装を着替えさせることができるのに。もちろん、その衣装を手に入れるのは大変なのですが。
「ニーナ、また楽しそうな想像をしているようだね。そこには僕も含まれている?」
クリスがニコニコと尋ねる。
「勿論! クリスがいろいろな文化の衣装を着る姿を想像したの。きっとどれも似合うと思うわ」
「へぇ……ニーナはそんなにいろいろな文化の衣装を知っているの?」
あ……。
また私はやらかしてしまった。
つい気が緩むと前世の知識を話してしまう。
クリスに深追いされないよう、必死に思考を巡らす。
!
閃いた。
「そ、そうね。オシャレを楽しみたいから、他の国のドレスがどんなものか調べたことがあるのよ。ところでクリス、この離れに魔法をかけるのでしょう?」
「うん。それはね、ニーナが楽しそうに想像力を発揮している時に、やっておいたから大丈夫だよ」
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続きは明日の11時頃に『フランシスの目的』を更新します~
着せ替えクリスの絵が見たいー。絵師さま求む!

























































