41:その力への対抗策は?
するとクリスは「なるほど」と思わせる推理を披露した。
「この言葉を聞く前に、12という数字を聞いていたせいもあるけど……。十二使徒の中には裏切り者が一人いた。――ユダだ。聖なる力においては、ユダは裏切り者だ。でも『叛逆の力』においては、救世主となる。ユーリアに対し、唯一抵抗できる人物になるわけだ。この図式が頭に浮かんだ瞬間、ユーリアが使う力は、聖なる力を貶めた『叛逆の力』であると気づけたわけだ」
さすがクリス……。
そこでそれに気が付けるなんて。
「クリスはすごいわ。私はグレッグの話を聞いても、全くなんの力か思い当たらなかったもの。でもクリスはグレッグの話を聞いた直後から、その力が何であるか予想していた。そして予想したものが正しいか確認するため、禁書となっている魔術書で聖なる力について確認したのでしょう?」
思わず自分からクリスに抱きついて尋ねると。
クリスの瞳が瞬時に甘く輝く。
「ニーナから抱きしめられると、たまらないな……」
その声はさっきまでとは違い、甘えるような優しい声音に変わっている。
しばし、ユーリアの脅威は中断される。
代わりに甘美な時間が流れた。
随分緊張感がないと、ウィルやアミルがいたら叱られそうだが。
仕方ないのだ。
だってクリスも私もお互いが大好きなのだから!
それでもユーリアの脅威からは逃れられない。
再び話を再開させる。
「ユーリアが行使できる力、それは『叛逆の力』であると分かったのでしょう。それでその『叛逆の力』への対抗策は?」
クリスに抱きついたまま、その顔を見上げて尋ねると。
見ている私を幸せにしてくれるような笑みを、クリスが浮かべる。その上で私の額にキスをして、クリスは答えを口にした。
「聖なる力は魔法とは違う。そして『叛逆の力』に貶められて行使されても、それは絶対なんだ。だって『叛逆の力』となって行使されても、相手に与える影響は、あくまで憧憬、敬愛、崇拝だ。人を殺せと命じているわけではないのだから」
「それってつまり……抗うことは無理ということ?」
クリスは返事の代わりなのか。
私の額へまたも優しくキスをした。
さらにぎゅっと抱きしめる。
なんてことはないという顔を私はしているが。
実際はもう意識が吹き飛ぶ寸前だ。
2回も連続で額へキスをされているのだから。
いつ、気絶してもおかしくない。
一方のクリスは『叛逆の力』に抗うことができるのかどうかについて、こんな風に語る。
「謎の男は、『彼女を止めることは叶わない。打ち止めを待つか、彼女を目覚めさせる人物が現れるか。それを待つしかない』そう言ったが、それはその通りだ。その点を今日、あの持ち出し不可能な魔術書で確認した」
「え、それじゃあ、もしユーリアが……」
クリスの細い指が私の唇に触れた。
心臓がドクンと飛び跳ねる。
「もし、は考えないで、ニーナ。僕はちゃんと策を巡らしているから。大丈夫。問題はない」
きっぱりと言い切ると、実に優しく微笑む。
「謎の男の正体。それは分からない。ただ、『君のことは私が見守ろう。その時が来たら。最後の後始末は私が請け負う』そう、グレッグに言っているんだ。だからユーリアと対峙する場面にグレッグがいれば。その謎の男は必ず現れる。きっとそこで謎の男の正体も判明するだろう」
クリスがゆっくり私の唇から指をはなす。
唇から指が離れても、私の胸のドキドキは収まらない。
「ユーリアを目覚めさせる人物。これが何を意味するのか――。いくつか可能性は考えた。そしてこれに関して手は打った。でもこれは僕らにとっての切り札になる。だから絶対にバレるわけにはいかない。ごめんね、ニーナ。この人物に関しては、秘密にさせて。ニーナが誰かに話すとは思っていない。でもユーリアは『叛逆の力』だけを使うわけではない。魔法だって使える。ニーナを脅してその人物の名を聞き出す恐れはゼロではない。念のためで、秘密にしておきたいんだ」
そう言ったクリスは私に顔を近づけ、その唇が触れるギリギリで再度私に尋ねる。「分かってくれる、ニーナ?」と。この状況下で。「それはイヤ」なんて言えるわけはない。
それ以前に。私は自分がユーリアに対抗できる自信がない。クリスが私は知らない方がいいと判断するなら。それが最善策にしか思えなかった。
だから「うん」と小さく返事をする。
その瞬間、クリスは心をとかす笑顔となり、ふわりと私の唇に自身の唇を重ねる。
ドキドキしていた心臓が喜びと驚きでもう破裂寸前。
思わずクリスのシャツをぎゅっと掴んでしまう。
「打ち止めについても策を考えている。残り2回。2人に『叛逆の力』を行使させる。その上での切り札で、ユーリアを追い詰める。そしてそこに謎の男が現れ、後始末をしてくれる。これでユーリアの脅威は去るはずだ。『叛逆の力』は厄介だが、その力を失ったユーリアはただの魔法を使える人間だ。僕と同じ土俵にユーリアが戻って来る。そうなれば後はもう、何も心配はない。魔力と魔法における戦いで、僕は負けるつもりはないからね」
キスの余韻で。
まだ目がトロンとしたままで私が頷くと。
クリスの瞳が甘く輝く。
もうその後は……。
ケイトが来るまで溺愛モード一直線だ。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「ジンクス」を16時前後に公開します~
【一気読み派の読者様へ】
>>完 結<<
全てが詰んだ後の断罪終了後シリーズ第三弾!
『断罪終了後に覚醒した悪役令嬢
殿下の女性慣れの練習相手に?』
https://ncode.syosetu.com/n8557ig/
元悪役令嬢で暇人になった主人公は
完璧なのに自己評価が低い元引きこもり殿下の
女性慣れの相手に選ばれるが……。
●完結しているので一気読みできます!
●男女間の認識の違いなど恋愛お役立ち情報もあり!
●ハッピーエンドです!
●派手な事件やバトルはないです!
●「あ、そういうこと!」というサプライズ要素あり!
●終盤、読んでいるとじわ~と頬が緩みます!

























































