37:みんなクリスが大好き
あのプルミエ・ブルタンのオーナーシェフのレノー・ブルタンが、クリスがしている研究の支持者だなんて……。もう驚くばかりだ。
「そ、そうだったのね。まさかオーナーシェフとクリスが知り合いなんて……。クリスの交友関係は幅広いのね。でも、まさかお店がブルンデルクに出店しているなんて驚いたわ」
「僕が王都を離れ、ブルンデルクに来ていることをブルタン氏は知っているからね。普段は王都から動けないが、夏は避暑で王都を離れる貴族も多い。だから夏季限定で、初めて王都以外に店を出すことにしたらしいんだ。夏の初めの一カ月間はブルンデルクのお店にブルタン氏が顔を出し、王都の方はスーシェフに任せるそうだよ」
クリスは私に笑顔で説明してくれたのだが。
それはつまり……。
「えっと、ブルタン氏はクリスに会うためにブルンデルクに期間限定店を出したわけではないのよね……?」
「まさか。違うと思うよ。ただ、夏季休暇に入ってからは、毎日店に来ないかってカードは届いているけど」
違うわけがない。ブルタン氏はクリスに会いたくて、会いたくて仕方ない……のだと思う。そう思ったまさにその時。
「やあ、クリス! ようやく来てくれたか!! おっ、美人の婚約者も一緒か。さあ、中へ入ってくれ」
店から出てきた、ザ・シェフとも言える白い調理服姿のこの方は……!
間違いない。
レノー・ブルタン、その人だ……!
多忙で知られるブルタン氏がわざわざクリスを迎えに出てくるなんて。もう、驚くしかない。しかも、クリスにエスコートされながら店内へ進むと。
「いやー、クリス。君が僕の店に来てくれるって連絡をもらっただろう。それをまあ、ちょっと仲間に自慢したら……。すまないね。みんな君に会いたがってね。何せ、クリス。君はいつも忙しいから。滅多に会えないだろう。でも君の研究の支持者の間では、クリスがブルンデルクにいると知れ渡っていたから……。みんな今年の夏はブルンデルクに期間限定店を出していてね。それでまあ、詰めかけてしまったんだよ」
ブルタン氏がすまなさそうにそう言い、個室のドアを開けると……。
そこに座る老若男女が笑顔で一斉にこちらを見た。
その顔は知っている人ばかりだ。
だって。
普通にニュースペーパーで顔を見かける王都の有名人ばかりだから。
王室御用達のチョコレート店のオーナー、王都のみならず様々な都市でワインバーを経営するオーナー、王都で大人気のフラワーショップのオーナー、他にも……とにかくそれぞれの業界で知らない人はいない、とんでもない重鎮がクリスに笑顔を向けていた。
こ、この人達がみんなクリスの研究の支持者なの!?
しかもクリスに会うため、ブルンデルクに期間限定店を出してくれているの!?
衝撃とお店をはしごしたいとテンションが上がる私に、クリスがすまなさそうな顔で尋ねる。
「ニーナ、二人きりで昼食を……と考えていたのだけど、こんな大人数になってしまったけど、大丈夫かな?」
「大丈夫! 問題ないわ。み、みんな、雲の上の人ばかり。一緒に食事をできるなんて、光栄だわ」
本当に、驚きだ。ここにジェシカがいたら、二人で悲鳴をあげるところだ。
嬉しさと緊張感で着席したのだが。
みんな気さくに私に話しかけ、さらに。
なんと、婚約祝いをプレゼントされたのだ!
王室御用達のチョコレート店のオーナーからは、今朝、クリスと私のために作ってくれた、店頭に並ぶことのないスペシャルチョコレート。
ワインバーを経営するオーナーからは、お酒は飲めないだろうからと、黄金の船が収められたボトルシップ。
フラワーショップのオーナーからは、婚約を祝した華やかなプリザーブドフラワー。
他にも本当にいろいろなものを受け取ることになった。それはとても膝の上には収まらず、店員さんが預かり、馬車へ届けてくれることに。
クリスと私の婚約を祝い、トリュフのコース料理に舌鼓を打ちながら。クリスの研究とそれぞれのオーナーが手掛けるお店で、どんなことをしたいのかが熱く語られる。気づけば3時間近くが経っていた。
みんなまだ、話足りないようで、別れを惜しみながら馬車に戻ることになった。馬車に戻るとそこには沢山のギフトの山。それを見るにつけしみじみ思う。
クリスがこの国で本当に必要とされている人材であるのだと。皆、クリスが大魔法使いに就任することを心待ちにしている。クリスはまさに未来を嘱望されている若者だと実感できた。
「ニーナ、ごめんね。銀狼も、ミルキーにも申し訳ないな。馬車の中が……座席が、ギフトで一杯になってしまったね」
かろうじて残されたスペースで銀狼が丸くなっている。ミルキーは私の膝の上で周囲に置かれたギフトを不思議そうに眺めていた。
「ううん。構わないわ。だってこれは全部、クリスと私の婚約を祝って贈ってくださったものだから。お返しを何にするかちゃんと考えなきゃ」
「ニーナは二人きりのはずがあんなに大勢になってしまったことも、沢山のギフトで窮屈になったことも、問題ないと言ってくれて、その上で、みんなへのお返しを考えてくれているの……?」
クリスが瞳をキラキラとさせながら私を見た。
「それぐらいしか私にはできることがないから……。みんな、クリスの研究を応援している。魔力の回復やサポートのために、自身の商品を役立てたいと考えているわ。とても志が高いと思うの。最初は有名店のオーナーばかりで、ミーハー心で喜んでしまったけど、話を聞いたら……。私も何かできないかって気持ちになれたし、これからもクリスのことを応援してもらいたいと思ったの。だから、そう。明日、百貨店へ行かない、クリス?」
ふわりと。
クリスに抱きしめられていた。
「ニーナ、ありがとう。そういう優しいところ、そして自分から考え動こうとしてくれるところ。とても素敵だと思うよ。何よりニーナが僕の良き理解者であることが……一番嬉しいな」
「クリス……」
沢山の祝福のギフトに囲まれ、クリスと交わすキスは、いつもより幸福感が強く思える。何より、クリスが本当に嬉しそうにしていることが伝わってきた。
クリスが嬉しいと、私もとても嬉しくなった。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は「ど、どうして……!」を16時前後に公開します~

























































