32:溺愛モードが止まらない
途中からクリスとラブラブし過ぎてしまい、ユーリアの脅威が頭から抜け落ちてしまった。だって部屋まで私を送ったクリスは……。溺愛モードが止まらなくなっていたのだ。何度も耳元で「ニーナのそばを離れたくない。ニーナのそばにいたい」と囁かれ、抱きしめられ、頬に鼻を摺り寄せられるのだ。そしてかすれた声で名前を呼びながら、キスなんてされたら……。もう、本当に……。
もはや自分がどうやってベッドに潜り込んだか記憶にない。
何度かケイトに「ニーナ様! 背骨がなくなったのですか!? ちゃんと立ってください!」とか「ニーナ様! それでは湯船で溺死ですよ!」とか、いろいろ言われた気がするが。
頭の中はクリスのことでいっぱい。他は何も考えられません。という状態で眠りについた。
今朝目覚めて思う。
これはクリスが、私が眠れるようにしてくれたのだと。
クリスが部屋に戻り、部屋で一人になったら。
私は絶対にユーリアのことを考え、眠ることができなかっただろう。
クリスの配慮に気づいてしまうと。
その優しさに涙が出そうになる。
心から愛されていると実感してしまう。
クリスだったら。
これだけ強い愛があるなら。
ユーリアの力にも負けない。
そんな風に思えた。
クリスの愛を噛みしめながらダイニングルームへと向かう。
朝食の席ではウィンスレット辺境伯夫妻と昨晩のディクソン公爵家での舞踏会の話をしたのだが。本当に驚いてしまった。クリスはあの時、とんでもない魔法を使っていた。
幻影魔法。
そこにいない人や生き物、様々な物が、あたかもそこにいるかのように見せる魔法だ。幻影魔法はあくまで視覚・聴覚・嗅覚のみに作用する。
だがクリスが使う幻影魔法は、すべてにおいて破格だった。まず、グレッグ、私、自身の幻影を舞踏会が行われるホールに生み出していた。そして幻影の3人は、普通にダンスをし、飲食を行い、会話を楽しんでいたのだ。
ウィンスレット辺境伯夫妻は幻影と気づかず、「ニーナとクリストファー様のダンスは実に優雅で素晴らしかった」とか「グレッグ様はしっかりした若者ですね。とても礼儀が正しく、好感が持てましたわ」と、大絶賛しているのだ。
もしあの舞踏会にオリヴァーが偵察のために来ていたとしても。私達三人が中庭で話し込んでいたなんて、掴むことはできなかっただろう。普通に舞踏会を楽しんでいる。そうとしか思わないはずだ。
改めてクリスのすごさを実感してしまう。
こうして朝食を終え、部屋に戻ると。
ケイトからユリの花とメッセージカードを渡された。
もちろんクリスからだ。
メッセージカードに書かれていたことは……。
――「ニーナ! 学校へ行こう!!」
「えええ、学校!?」
私が素っ頓狂な声を出すので、ケイトが驚いている。
「ど、どうされたのですか? 学校で何かあるのですか?」
「分からないの。でもクリスが学校へ行こうって。30分後に馬車で迎えに行くからって」
「えええ、夏季休暇中に学校ですか!? ニーナさま、まさか補習が終わっていなかったのですか!?」
そんなはずはない。
夏季休暇を満喫するため、アミルにさらわれ、ブルンデルクに戻った後。私は補習をちゃんと受けている。なぜに学校に行くのか、クリスの意図は分からない。だがとりあえず、制服に着替えることにした。休暇中の校内に入るためには、制服は必須だった。
夏服は、半袖のパフスリーブのブラウスに、襟元には黒いリボン、ピンクと黒のチェック柄の、ハイウエストのジャンパースカートだ。
髪はどうするか考え、ツインテールにした。スカートと同柄のリボンがあるのでそれをつける。ツインテールはジェシカがするととても可愛い。巻き髪のツインテールなのだから破格の愛らしさ。私のこの直毛ストレートでは、巻き毛は無理だ。
馬車がくるまでまだ時間があったので、ミルキーと遊んでいると。ドアがノックされた。ケイトと目を合わせ「誰?」と思い、扉を開けると。
「ニーナ、ケイト、おはよう! もう準備はできている?」
「クリス!」
部屋に入ってきたクリスはおはようのハグ……ぎゅっと熱烈に私を抱きしめた。透明感のある清楚な香りに胸が高鳴る。
「昨晩はぐっすり休めた、ニーナ?」
「うん。クリスのことしか考えられない魔法にかかっていたみたいで。余計なことを何も考えずに熟睡できたわ」
「そうか。それは良かった」
優美な笑顔のクリスが、私のおでこにキスをする。
「ニーナの制服姿。久々だな。それにその髪型。なんだかとても可愛いね」
「え、本当!? 私の髪はジェシカみたいに巻き髪じゃないから、この髪型、どうかなーと思っていたのだけど」
するとクリスは私の髪をひと房手に取り、優しくキスをする。その仕草がなんとも雅で、もう心臓が大騒ぎ。
「ニーナの髪はシルクみたいにサラサラで美しいよ。こんなに綺麗なストレートの子、王都でも見たことがない。ニーナらしくて僕は大好きだよ」
ライラック色の瞳を輝かせ、笑顔でそんなことを言われたら……。もうまさに天にも昇る気持ちだ。クリス、大好き! 大好き!
嬉しくてクリスに抱きつていると。
「ニーナさま、クリストファーさま、学校へ、行かれるのですよね……?」
ケイトに言われ、我に返る。
まだ部屋にケイトがいるのに。
思いっきりクリスに甘えていた。
「そ、そう。学校に。クリス、学校へ行きましょう」
ミルキーを肩にのせ、銀狼はクリスの後を追い、私はクリスにエスコートされ、エントランスへ向かった。
お読みいただき、ありがとうございます!
続きは12時頃に「昨晩のクリス」を更新します~

























































