31:子猫、子ぎつね、子犬
拒むと思われる相手にだけ力を使う。そうなるとジェラルドに対し、ユーリアは力を行使していない可能性が高い。なぜなのだろう? その可能性について考え、一つの案が浮かぶ。それをクリスに話してみる。
「ジェラルドは舞踏会で『自分もそんな指輪を贈るような相手が欲しくなりましたよ』と言っていたぐらいだから、好きな女性や交際相手もいなかった。だから普通に告白して、OKされると思った……ということなのかしら? だから力を行使していない……?」
クリスはすぐに私の案に捕捉してくれる。
「そうだね。OKをもらえると思っていたから、力を使わず告白した。フラれたのは予想外だったのかもしれない。でもフラれた後に力を行使しなかったということは……。ユーリアにとってジェラルドは、そこまで魅力的ではなかった、ということなのかもしれないね。どうしても手に入れたいのなら、力を行使しただろうから」
これは……驚きだ。
白の軍服をまとうジェラルドのカッコよさは、ファン垂涎ものなのに。でもまあ、好みは人それぞれだ。ユーリアは、ジェラルドがものすごく好みではなかったということなのだろう。それよりも、後の二人――つまり、ウィルとフランシスはどうなのか?
「ねぇ、クリス。そうなるとウィルとフランシス王太子は、他に好きな人がいたということ? だからユーリアは力を行使したのかしら?」
するとクリスは考えむ仕草になる。
だがゆっくりと口を開く。
「うーん。ニーナ、それは何気に難しい質問だよ。まず、フランシス王太子は『恋多き王太子』と言われている。好きな子は……沢山いただろうね。その好きの真剣度合いがどれぐらいかは分からないけれど。でも、言い寄る女性が多いフランシス王太子を、自分だけに振り向くよう、力を使ったのなら……。妥当なことだよね」
確かにその通りだ。
恋多きフランシス王太子にこそ、ユーリアの力は有効に思える。
「ウィルは……。どうなのだろ。僕が知る限り、好きな女性がいたように思えないけどな。好きな女性がいないからといって、ユーリアに告白され、『そうか。僕のことが好きなのか。では付き合おうか』とはならないと思うな。ジェラルドの時のように振られた。でもジェラルド違い、ウィルには執着があった。だから力を行使した……のではないかな」
これもまた納得の推理だ。
何よりあの賢いウィルが力を行使されずにユーリアを好きになるとは思えない。
そこで不意にクリスが体ごとこちらに向き、私のことを改まった様子でじっと見る。突然、そんな風に見られたので、当然だが心臓が反応してしまう。
ドキドキしながらクリスの言葉を待つ。
「ウィルに好きな女性がいたかどうかだけど。ウィルは王族の一員だ。王都で開催される舞踏会に顔を出せば、それは女性が放っておかないんじゃないかな。……ニーナもウィルに会った時、少しぐらい『素敵だな』と思ったのでは? 僕との記憶は隠されていたのだから」
突然クリスが私の顎を持ち上げるので、ドクンと大きく心臓が反応してしまう。その様子を見たクリスは……。
「そうか、ニーナはやっぱり……」
瞬時にクリスの表情が寂しそうになるので、慌てて全否定する。その寂しそうな顔も激レアだが、そんな顔よりクリスには笑顔でいて欲しい!
「違うわ、クリス! 今、ドキッとしたのは、クリスが急に顎を持ち上げるからよ。突然王都からやってきたウィルのこと、私は警戒していたの。極力、関わりを持たないようにしていたのよ。ジェシカやアンソニーに聞いてみるといいわ。私がどれだけウィルを遠ざけようとしていたか、分かると思う。ウィル自身も『僕はニーナに嫌われている?』って、私に聞いたぐらいなのだから」
この言葉を聞いた瞬間。
クリスの表情が分かりやすく変化する。
これは……たまらない……!
だって推しが、他の攻略対象に対し、ジェラシーを感じ、嫉妬の炎を燃やした。でもそれが誤解と分かり、信じられないぐらい笑顔になっているのだから。
「そうか。ニーナは僕との記憶が隠されていたのに。ウィルにさえ、目をくれなかったんだね」
今のクリスに。
もし尻尾があるならば。
盛大に喜んで振っているだろうと思える。
さらに嬉しさを抑えきれないクリスの周囲には、沢山のハートマークが漂っていそうだ。
ああ、そうなると。尻尾だけとは言わず、耳もつけたいな。
脳内で私はクリスを獣人化し、それは子猫クリスにするか、子ぎつねクリスがいいか、それとも子犬クリスがいいか、大いに迷い、デレてしまう。
一方のクリスは嬉しい気持ちそのままに、ライラック色の瞳をキラキラと輝かせている。
甲乙つけがたいけれど、クリスは猫タイプだから、そうなると子猫クリスかしら。でも子ぎつねクリスも捨てがたいと思うのだけど。
「ニーナ……」
既に甘々スイッチが入ってしまったクリスは。
私がデレ顔であろうと関係なく、全身全霊で溺愛する気満々になっている。
甘々な声で私の名前を呼び、抱き寄せ、その後は……。
ユーリアのことが頭から吹き飛ぶぐらい、素敵なキスを沢山してくれた。
お読みいただき、ありがとうございます!
続きは明日の11時頃に『溺愛モードが止まらない』を更新します~

























































