24:いきなりその名が登場
完全にクリスしか見えないモードになりかけたが。
グレッグの声になんとか我に返る。
「ここなら大丈夫だろう」
そう言ったグレッグが連れてきたのは。
ホールから結構離れた場所だ。
テラス……の範囲を超え、もう庭園の中だった。
しかも。
「防音魔法展開 全方位 <五の陣形>」
グレッグは突然、周囲に会話の音を漏らさないための防音魔法を展開した。これにクリスは反応する。
「グレッグ、これは誰かが盗聴するリスクがあるということかい?」
「そう、だな。そのリスクもある。遮蔽魔法も展開した方がいいかな……」
真剣な顔のグレッグに、クリスの顔がキリリっとする。
キリッとした顔のクリスも……当然、素敵だ。
見惚れてしまう。
「一体何をニーナに話すつもりか知らないが、これから話すことは他の誰かには聞かれたくない。でも盗聴と魔法を解術されるリスクもあるということだね。僕に任せて欲しい。少しだけ時間を。すぐにここを安全な場所に変えるから」
クリスは無言だが。
間違いない。
頭の中で魔法の詠唱をしている。
声に出さないのは、十の陣形や特殊陣形など、聞いたグレッグが腰を抜かしかねない魔法を使っているからだろう。
一方のグレッグは。
任せて欲しいと言った後、無言のクリスに困惑している。
「ねえ、グレッグ様。ブルンデルクにはどれぐらい滞在するのですか?」
クリスを見ていたグレッグは、突然私に話しかけられ、かなり驚いたようだが、すぐに口を開く。
「両親は2週間ほどですが、自分は一カ月、こちらへいようかと」
「一カ月……。随分、長いですね。他の都市にも別荘をお持ちなのに」
マジパラにおいて。グレッグはパリピな設定だったので。よくみんなを別荘に誘い、そこで舞踏会を開いてくれた。メリア魔法国以外にも別荘を持ち、それこそ海外旅行まで提案することもあった。
それを思うと、避暑地で過ごしやすいとはいえ、ブルンデルクで夏季休暇の半分を過ごすのは意外だ。勿論、グレッグは軟派ではなく硬派にキャラ変しているから、ゲームの尺度で捉えてはいけないのかもしれないが。
「……そうですね。ニーナ嬢は……よく知っていますね。確かに別荘は他にもありますが……。ここでしたらあなたもいらっしゃるから……いえ、失礼しました。ブルンデルクは暑すぎず、過ごしやすいので」
「さて、準備は整ったよ。話を聞かせてもらおうか、グレッグ」
クリスが自然な仕草ではあったが。
ぐいっと私の腰を抱き寄せる。
抱き寄せた上で、なぜか額へキスをした。
まさかここでキスをされると思わず、完全な不意打ちに、まるで甘えるようにクリスの胸にすがってしまう。絶対にグレッグに見られていると思うが、力が入らないのだ。どうにもできない。
「ではそこのベンチで」
グレッグに言われ、ベンチに腰かけた。
そこは電車のボックスシートのように大理石のベンチが置かれ、テーブルまで設置されていた。座ると右手の方角には、遠くに舞踏会をしているホールが見えている。左手の方角には、少し離れた場所の噴水がよく見えていた。ここで休憩をしてお茶をするには、最適に思える。
着席したグレッグは、一応周囲をぐるりと見て、そしてため息を一つつくと。ようやく口を開いた。
「二人とも、王立イエローウィン魔法学園に通っているわけではないので、そこに通う生徒のことは当然知らないと思う」
知らないと思う――と言いつつも、「知りませんよね?」という顔でクリスと私の顔を交互に見るので「知らないな」「知りません」とクリスと二人で返事をする。
「自分と同学年の生徒に、ユーリア・ブランデという女生徒がいるのだが……」
いきなりヒロインの名を出され、当然だが驚きで身を固くすることになった。それに気づいたクリスが、私の手をぎゅっと握る。
「彼女は……ユーリアは……。とても魅力的な女性だ。フランシス殿下とも婚約するかもしれない女性。……クリストファー、ニーナ嬢、二人は本当に彼女のことを知らないのだろうか?」
「グレッグ。まずニーナは8歳の時に王都から離れ、この春に約10年ぶりで王都へ戻ったぐらいだ。君が言う大変魅力的な女性のことも、ニーナは当然知らない。そして僕についてだが。僕は王都以外で過ごす時間も長く、王立イエローウィン魔法学園に通わず、騎士養成学校を卒業している。あいにくだが、その女性のことは知らないな」
クリス……!
私に代わって答えてくれた。
ありがとうの意味でクリスの手をぎゅっと握る。
「そうか……。まあ、確かにそうだろう。二人が知るはずもない。だが、ユーリアは違う。二人のことを……なんだか知っているようだった。クリストファーのことは知り合った当初から聞かれていた。『大魔法使いのクリストファーはいないのか』と。今はまだ、大魔法使いはメイズ様だ。クリストファーはまだ見習い。そのことを伝えると、とても驚いていた。驚いてそれで終わるかと思ったら……。どうやったら会えるのか、どこに行けば会えるのか? そんなことを自分だけではない。ウィリアム様やフランシス殿下にまで尋ねていた」
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続きは12時頃に「静かな怒り」を更新します~


























































