26:眼鏡はつけるもはずすも勇気がいる
正面に座るウィルは「?」という顔で私を見る。
その反応を私はすぐ理解する。
昨日、私は瞳にかけられていた魔法をウィルに解術してもらい、遠視ではなくなっていた。もう眼鏡とはおさらばできた。それなのに眼鏡をかけている。でもこれは伊達メガネ。度は入っていない。
なぜ伊達メガネをかけたのか。
それはなんだか気恥しかったからだ。
眼鏡はかけ始めるにも、はずすにも勇気がいると思うのは、思春期だからだろうか?
前世で初めて眼鏡をかけることになった時も、なかなか眼鏡をかけて登校できなかった。眼鏡を急にかける。そのことで注目を集めるに違いなく、それが恥ずかしいと思ってしまったのだ。つまり、何かきっかけが欲しかった。
例えば夏休み明け。進級してクラス替えしたタイミング。
夏休み明けは、日焼けして真っ黒になった子もいれば、夏の間にぐんと身長がのびたり、髪型を変えたりする子もいる。変化が沢山あるから、突然眼鏡っ子になっても、注目が自分だけに集まることを避けられる。分散されてあまり目立たない、というわけだ。
クラス替えならなおさらだ。見知った顔が減り、リセットされるから、眼鏡をかけて登校しても目立たずに済む。
そんな風に前世でも考えていたから……。
すでにクラス替えは終わり、むしろクラスメイトの顔を見慣れてきたこのタイミングで眼鏡を外す勇気が、私にはなかった。
「昨晩は、アンソニー、ジェシカ、ニーナ、それぞれと話せてとてもよかった」
馬車が走り出すと、ウィルがまず口を開いた。そしてその場にいた全員が頷いた。
「王室の方だと緊張していましたが、親し気に話していただけて、本当に感動しました」
アンソニーがそう言えば、ジェシカも。
「地方貴族に過ぎない私達に親切にしてくださり、感謝しています」
うっとりと微笑む。
「ウィンスレット辺境伯家でお世話になっているのは僕の方だ。こちらこそ、仲良くしてもらえて嬉しいよ」
ウィルは微笑み、そして私を見る。
「でもニーナには驚いたな。二人は気づいていたかい? ニーナの目には魔法がかけられていた」
「えっ」「そうなの、ニーナ!?」
アンソニーとジェシカが驚いた顔で私を見る。
「誰かにいたずらでかけられたのか。でもそれは僕が解術した。だからもう、ニーナに眼鏡は必要ない」
そう言って身を乗り出したウィルが、私の顔から眼鏡をはずした。
「眼鏡姿のニーナも、それはそれで似合っていたけど。眼鏡がない方が、断然、ニーナらしくなる」
ウィルが私に折りたたんだ伊達メガネを渡す。
「アンソニー、素顔のニーナをどう思う?」
「! そ、それは……」
アンソニーの頬がぽっとピンク色になる。
一瞬喜び、でも少し不機嫌そうな顔になる。
「……ニーナの素顔は、子供の頃から一緒で、知っていますから……」
ウィルはその反応に目を丸くし、クスッと小さく笑い、今度はジェシカを見る。
「ジェシカはどう、ニーナの素顔?」
「そ、それはもちろん、可愛らしいと思いますわ」
ジェシカは笑みを浮かべているが、それはなんだか堅い。
「ふうーん。二人とも反応が薄いね」
ウィルの言葉にアンソニーとジェシカはハッとする。
「ニーナはドレスを着る時に、眼鏡が邪魔だと言っていました。解術いただけて、よかったと思いますわ」
ニッコリとジェシカが笑い、アンソニーも微笑む。
「ニーナの素顔に恋をしてしまう男子生徒が増えそうですよ」
「……なるほどね」とウィルは何度も頷くと……。
「僕は魔力が強いから、何か困っていることがあればいつでも相談に来てくれ。ところでジェシカ、君の守護霊獣だけど」
眼鏡の件はこれで終わり、話はジェシカの守護霊獣のスノーボールに移り、授業の話になり……。
気付けば学校に到着していた。
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