19:10時になった!クリスに会える
今日はのんびり過ごそう。
オルゴールミュージアムに行った時みたいに。
庭園でクリスを膝枕して、ゆっくり画集を眺めるのでもいいかな。
そんなことを思っていると。
10時になった。
心臓がクリスに会える期待感から、ドキドキしている。
だが。
10時5分になっても。
クリスが来ない。
どうしたのだろう……?
4回目となるオルゴールのネジを回し、ミルキーはオルゴールの周りをふんふんと動き回っている。エルガーの『愛の挨拶』が部屋に流れる。
15分が経過した。
おかしい。
クリスはいつも待ち合わせに早く来ることはあっても、こんなふうに遅刻したことはない。
もしかして、昨晩、課題や自習を頑張り過ぎて、部屋で倒れているとか……!?
急に心配になり、心臓もドキドキし始めた。
「ミルキー、クリスの部屋に行くわよ」
気が急いているので、ミルキーを連れ、転移魔法でクリスの部屋のドアの前まで来た。ドアをノックし、何度か呼びかけるが。反応はない。いよいよ心配になり、ドアノブをつかむが。開かない。
もしかして過労で部屋の中で倒れていたら……。
マナー違反であるとは分かっているが。
転移魔法で部屋の中に入れないか試す。
クリスだったら防御魔法を展開している可能性もあると考えたのが。あっさり部屋に入ることが出来た。部屋に入ったものの。そこは応接室だがクリスの姿はない。そうなると勉強部屋にいる可能性が高いと思った。そこでミルキーを連れ、勉強部屋に向かうが。そこにクリスの姿はない。というか、初めてクリスの勉強部屋に入ってしまったが……。
とても綺麗に整えられている。
本棚にはビッシリ本が埋まっていた。
見るからに高度そうな魔術書ばかりで、思わず息を飲んでしまう。
勉強机に置かれている羊皮紙に書かれている呪文……らしきものは解読不可能だ。
ここでクリスが真剣に机に向き合っている姿を想像すると……なんだかドキドキしてしまう。
いや、そんなことを考えている場合ではない。
勉強部屋にいないとなると……。
寝室? まさか、まだ寝ている……?
ドキドキしながら寝室へと向かう。
幸いないことに。母屋と離れは間取りが同じだから。
迷うことなく寝室の前に辿り着けた。
既にクリスの部屋に無断で入っておいて今更だが。
男子の寝室に入るって……。
これまで以上に心臓がバクバク言い始めた。
いや、変なことを考えてはいけない。クリスは過労で倒れている可能性もあるのだ。もしそうなら早く助けないといけないのだから。
「ミルキー、行くわよ」
肩にいるミルキーに声をかけ、寝室のドアを開ける。
明るい。
既にカーテンは開けられている。
が!
ベッドがこんもり膨らんでいる。
それを見てなんだか安心した。
過労で絨毯の上にでも倒れていたらと青ざめていたが。
とりあえずベッドで休んでいるのならば。
ただの朝寝坊なだけだ。
疲れているのだろう。このまま寝かせておいてあげよう。
そう思い、部屋を出ようとしたが。
カタッと物音がした気がして驚いて振り返る。
すると。
ベッドのそばに銀狼がいる。
銀狼を見つけたミルキーは。
大喜びで私の肩から降り、銀狼の方へと向かって行く。
「ミルキー!」
押し殺した声でその名を呼び、慌てて後を追いかける。
それは結果的にベッドで眠るクリスに近づくことになった。
クリスは。
頭まですっぽり掛け布にくるまっているようで、あの綺麗なアイスシルバー色の髪も見えない。
それにしても。
そんなに掛け布にくるまっているなんて。
なんだか愛らしく感じてしまう。
愛らしく感じてしまうと……寝顔を見たくなる。
膝枕をした時。
クリスの寝顔は既に見ているけど。
あの美しい寝顔は何度見ても……いい。
寝顔を見たい。
でも。
掛け布をめくったら、クリスは起きてしまうかもしれない。
疲れて寝ているのだ。
起こしたら可哀そうすぎる。
ここは…我慢だ。
既に銀狼にぺったりくっついているミルキーに手を伸ばそうとした瞬間。
「!!」
後ろから突然抱きしめられ、驚き過ぎて声が出ない。
でもこの透明感のある清楚な香りは……間違いなくクリス。
チラッと見るが、掛け布はこんもりと膨らんでいる。
こ、これは!?
「ニーナ、驚いた? ちょっと悪戯したくなって」
「そうなの!? ちゃんとクリス、起きていたの?」
「もちろん。毎朝、ウィンスレット辺境伯にも訓練をつけてもらっているからね」
そうだった……!
ケイトが教えてくれたのに。
すっかり忘れていた。
「時間になってもクリスが来ないから、過労で倒れているのではって心配しちゃったわ」
「ごめん。心配させるつもりはなくて……。ただ驚かせたくて、ふざけてつい……やり過ぎだったね。ごめんよ、ニーナ」
クリスは真面目。
真面目なのに、気まぐれな猫タイプだから。
こんな茶目っ気のある悪戯もする。
悪戯をしているのだから、そこは押し切ればいいのに。
私に心配をかけたと真剣に申し訳なくなっている。
なんだか不器用でたまらないな。可愛い!
「クリス、大丈夫よ。こんなサプライズされたのは子供の時以来だわ。お兄様が私の部屋に小さな蛇を持ってきて。驚き過ぎて私、絶叫して気絶しちゃったのだから。それに比べたら、クリスの今の悪戯は可愛いものよ」
「……気絶したの、ニーナ!? 蛇は驚くよ。それは悪戯にしてはやり過ぎだね」
クリスは心配そうに私をぎゅっと抱きしめる。
透明感のある清楚な香りにさらに感じ、キュンとなってしまう。
お読みいただき、ありがとうございます!
続きは明日の11時頃に『朝からの甘々モード』を更新します~
 

























































