13:私だけの王子様で騎士(ナイト)
落ち着いたところでクリスが切り出す。
「それでニーナ、舞踏会の招待状だけど」
クリスに促され、私はグレッグがこのブルンデルクにいること。グレッグはウィンスレット辺境伯に舞踏会の招待状を託したこと。ディクソン家は筆頭公爵家であり、ウィンスレット辺境伯からは、舞踏会の招待を受けるよう求められ、それを快諾したこと。舞踏会は明後日なので、クリスにエスコートして欲しいことを話した。
「ニーナ、勿論、僕がエスコートするよ。ニーナは僕の大切な婚約者なのだから。当然の義務だよ」
そう言ったクリスは私を抱き寄せる。
抱き寄せられていることも。
エスコートしてもらえることも。
その両方が嬉しくて、私は笑顔でクリスに抱きつく。
「ありがとう、クリス! とっても嬉しいわ」
私が抱きついたことを喜ぶクリスは、さらに私を抱き寄せる。
透明感のある清楚な香りに包まれ、思わずミルキーみたいにその素敵な香りをくんくんとかいでしまう。クリスのこの香り、大好き♡
「それにしてもなぜ突然、ニーナを招待することにしたのだろうね。グレッグは顔見知りではあるけど、そこまで深い付き合いはない。でも彼はとても真面目な性格だ。フランシス王太子様とは違い、ニーナにちょっかいを出すつもりはないと思うのだけど」
「手紙が同封されていたの。どうも何か私に伝えたいことがあるみたいなのよ。思い当たることは何もないのだけど」
「なるほど……。グレッグの意図はさっぱり分からないな。でも大丈夫。僕がいるから。何かあったら僕がニーナを必ず守るから」
うううんんんん!
クリスはやっぱり私だけの王子様で騎士だ。
嬉しくてその胸に顔をすり寄せると、クリスも笑顔で応えてくれる。しばらくはラブラブタイムが続いたが。
残りの舞踏会の招待状の確認を行い、いくつか面白そうな舞踏会に顔を出してみることになった。仮面舞踏会、花火の打ち上げ予定している舞踏会、王都から招いたパティシエによるスイーツの提供を謳っている舞踏会などだ。
舞踏会の招待状の選定が片付くと。
クリスはこんな提案をする。
「宝探しの旅で、ニーナが押し花を作っている話が出ただろう。見せてもらえる? ニーナの押し花コレクション」
クリスはほんの些細な会話のこともちゃんと覚えていてくれる! その事実にキュンキュンしながら私は頷く。
「じゃあ、今度はちゃんと歩いてニーナの部屋まで行こうか」
クリスと恋人つなぎで。
銀狼とミルキーを連れ、私の部屋へと向かった。
◇
クリスに押し花コレクションを披露していると、あっという間にお昼の時間だ。ケイトによると、ウィンスレット辺境伯は仕事、ウィンスレット辺境伯夫人は王都から来ている貴族に招かれ、昼食会に向かったという。
そこでケイトに頼み、クリスと私の二人分の昼食を部屋に運んでもらった。思いがけず、部屋で二人きりで昼食をとることになり、テンションは上がりまくりだ。昼食後は、クリスの提案で庭園に花を摘みに行った。押し花作りにクリスが挑戦するためだ。
夕方まで二人で押し花づくりをして、夕食は。
ウィンスレット辺境伯が、クリスも同席してはと提案してくれた。その結果、ウィンスレット辺境伯夫妻、クリス、私の四人で夕食をとることができたのだ!
クリスは大魔法使い見習いという立場で、客人扱いになる。本来おもてなしを込めた夕食会に招く必要があるのだが。クリス本人もそんなに堅苦しくなく、皆と食事をしたいと提案し、ウィンスレット辺境伯もそれを受け入れ、四人での夕食となった。
こうやって大人と食事をする時のクリスは。私と同学年とは思えない程、社交的になる。ウィル同様の社交性を発揮し、ユーモアもあり、ウィンスレット辺境伯夫妻を喜ばせる話を披露するのだ。おかげで夕食の席は笑いが絶えず、感嘆の声がたえなかった。
夕食の後は。
クリスが私の部屋に来てくれる。寝る準備をするまで。再びのラブラブタイムだ。甘々な時間を過ごし、自身の部屋へ戻る前に、クリスはこんなサプライズ情報を私に伝えてくれた。
「ニーナ、明日はプルツィクで観光をして、夜はオペラだろう。でもオペラに行くからにはドレスを着替える必要があるよね。着替えをできるよう、劇場近くのホテルの部屋を予約しておいたから。ドレスとアクセサリーも部屋に届けるよう、手配も終えているよ。だから明日は身軽にして出掛けて大丈夫だから」
「!! そうなのね。ありがとう、クリス! 着替えのための部屋もそうだけど、ドレスやアクセサリーも用意してくれたなんて……!!」
クリスの気遣いと優しさに、喜びで胸がいっぱいになる。
どんなドレスだろう。
今から楽しみでならない。
しかもちゃんとドレスや髪をセットしてくれるメイドの手配までしてくれているというのだから。至れり尽くせりだ。
オペラを観劇するにあたり。
ドレスの着替えは必要だと思っていたけれど。
それこそそこは魔法で着ているドレスをアレンジすればいいかと思っていた。それなのにちゃんとドレスと、しかもアクセサリーも用意してくれるなんて。
クリスは宝探しの旅をしていた時に。
――「ニーナが輝いていなかったから、婚約者は何をやっているんだ、ってなってしまう。ニーナがちゃんと綺麗でいたら、彼女の婚約者は甲斐性がある男だね、って」
こう言っていたが。
本当にそれを実践してくれる。
ああ、幸せ。
完全にデレデレの私の頭を、クリスは「よし、よし」という感じで撫でると、ライラック色の瞳を煌めかせながら、さらにこんなことを言う。
「ニーナならきっとあのドレス、似合うと思うよ。ドレスに着替えたニーナを見るのが楽しみだな」
クリスは嬉しそうに私を抱きしめる。
「私はクリスの衣装が楽しみだわ。軍服を着るのか、テールコートを着るのか」
「ニーナはどっちの僕を見たいの?」
え、どっち!?
それは……。
「クリス専用の、ロイヤルパープルの儀礼用の軍服。あれは……とても素敵だったわ。でも王都で宮殿の舞踏会に行った時に着ていたテールコートも、素晴らしかった。あと初めてあった時に着ていた軍服もとても似合っていたわ。それに学校の制服だってクリスが着ていると、とんでもなくかっこよく見えて……」
ヤバイ。
クリスの様々な衣装が脳裏で展開され、しかもそれのどれもがイケている! あの砂漠の町での、露出多めの衣装やナイトガウン姿まで思い出され……。
「ニーナ!? 顔が赤くて、目を回しているみたいだけど、大丈夫!?」
「だ、大丈夫……。とにかくクリスはなんでも似合うから」
クリスの顔は、私の言葉でパアァァァッと光り輝くような笑顔になる。その笑顔の美しさはもう拝みたいぐらいに神々しい。
「ニーナにそう言ってもらえると嬉しいな」
甘々なキスが始まったが。
ドアをノックする音が聞こえる。
ケイトが入浴の支度に来たのだ。
クリスは名残惜しそうに部屋へと戻っていった。
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次回は「芸術の街へ」を16時前後に公開します~

























































