10:突然の……
チョコレートキスの魔法による甘々の時間を終えると。
屋敷へ帰ることになった。
帰ると言っても馬車で帰るわけではない。
馬車で帰ればとんでもない時間に屋敷に着くことになってしまう。
普通の人は無理だ。でもクリスが一緒なのだ。
そう。
転移魔法であっという間に帰宅できた。
まずはクリスの部屋に転移して。
そこで先に転移させていたお土産を手に、自室に戻ることになったのだが。
「ニーナ、部屋には転移魔法で送るから……ね」
瞳を輝かせながらそう言ったクリスは私を抱きしめ……。
もし転移魔法を使わなければかかった時間の分だけ、私に甘える。
その後は、転移魔法で自室まで送ってくれたが……。
これまた自身が徒歩で部屋まで戻ったらかかる時間分のだけ、私に甘えた。
その後は。
「明日、またニーナに会えると分かっているけれど……。今日は一日ずっとニーナと一緒だったから、離れがたく感じるよ」
大変切なそうにそんなことを言い出すので、私もクリスから離れられなくなってしまう。二人で抱き合ったまましばらく熱い抱擁を交わしていたら。物音と部屋の明かりに気づいたケイトがやってきて、「クリストファーさま、あと数時間後にまた会えますから。ニーナさまはこれから入浴をして寝る準備もあります。今日のところはお部屋へお戻りください」とバッサリ言われてしまう。苦笑しながらクリスは、転移魔法で自室へ戻っていった。
確かにケイトの言う通り。
ぐっすり眠って起きたらクリスに会える。
しかも明日は特に予定をいれていないので、のんびり二人で過ごすことが出来るのだから。
今は我慢して寝る準備をしよう。
「さあ、ニーナさま、お風呂に入ってさっぱりしてください」
ケイトに促され、入浴をして。
お風呂の後は、ケイトに髪を整えてもらいながら、お土産のオルゴールとチョコレートを渡すと……。
「まあ、ニーナさま! わざわざお土産、ありがとうございます! しかもなんて可愛らしいオルゴールと、美味しそうな香りのチョコレートでしょう。どちらの施設もお屋敷からは遠いので、足を運ぶことができません。なかなか手に入れることができないものです。とても嬉しいですよ。本当にニーナさま、ありがとうございます」
ケイトは大喜びだ。
そしてしみじみ思う。
本来。
転移魔法で行けるような距離ではない。
それがクリスの魔法により。
行きは馬車だったが、帰りはあっという間に帰ってくることができた。これは本当にスゴイことであると。
クリスのすごさを改めて実感し、そして部屋に戻る直前の彼の切なそうな表情を思い出し、胸をキュンキュンさせながら眠りについた。
◇
翌朝。
既にウィンスレット辺境伯夫妻にはお土産を届けていたので、朝食の席ではまずその御礼を言われた。そしてチョコレートファクトリー、オルゴールミュージアムはどうだったかと聞かれ、それぞれでどんな展示を見たのかを話す。クリスが100人目の来場者だったことやオルゴールの自作体験をしたことを話すと、ウィンスレット辺境伯夫妻は興味深げな顔で聞いてくれた。
一通り私が話し終えると、ウィンスレット辺境伯がテーブルに招待状を並べた。招待状。それはウィンスレット辺境伯家に届いている舞踏会や晩餐会のお誘いだ。
この時期、王都に住む貴族が避暑のためブルンデルクへ訪れる。彼らは別荘で舞踏会を頻繁に開き、ウィンスレット辺境伯家には山のように招待状が届く。
職務上または社交上、必要な舞踏会は勿論、ウィンスレット辺境伯夫妻は足を運んでいる。それ以外の舞踏会は、アンソニーやジェシカ、私で好きに行くといいというのが毎夏のことなのだが……。いつも招待状の山を渡されるのは、アンソニーやジェシカが王都から戻ってからだ。
「今年はクリストファー様がいるから、ニーナも一人ではないだろう。もう舞踏会の招待状はこれだけ届いているから、二人で顔を出してみるといい。ただ私宛とは別に、ニーナ宛に一件、招待状が届いていた」
ウィンスレット辺境伯が目配せすると、バトラーのジルが私に一通の招待状を渡してくれる。封蝋を見て思わず息を飲む。これは……。
「ディクソン公爵家……筆頭公爵家からニーナ指名の招待状を預かった。ニーナは現当主のルーカス様と知り合いなのかな?」
「いえ、ウィンスレット辺境伯、私はルーカス公爵とは会ったことがありません。ただ……ご子息のグレッグ・M・ディクソン様とは、春に王都に行った折に、お会いすることがあったのですが……」
そう、アンジェラの事件の後。
国王陛下に謁見するため、王都へ帰った際、私は偶然、グレッグ・M・ディクソンと会っている。マジパラの攻略対象である彼の窮地を救う形になったのだが……。名乗ることなく彼の前から立ち去ったのに、グレッグはノヴァ伯爵家に御礼を携えやってきて、宮殿で開催される舞踏会に私をエスコートしようとしたのだ。
あの時はフランシス王太子やクリスもいたから、グレッグは私のエスコートをあきらめ、それっきりなんの音沙汰もなかったのに……。
「ディクソン公爵は三日前、家族を連れ、ブルンデルクに着ている。私とローゼは昨晩、晩餐会に招かれ、顔を出した。その帰り際、バトラーからこの招待状を預かったわけだが。ディクソン公爵は筆頭公爵だ。ニーナ、特に予定がなければクリストファー様と顔を出してはどうだろうか?」
お読みいただき、ありがとうございます!
まさかディクソンがブルンデルクに!
次回は「彼の目的は?」を20時前後に公開します~

























































