6:甘えてもいい?
オルゴールミュージアムを出ると、そこは大きな公園になっていた。芝生が綺麗に整備されており、案内板によると噴水広場や公園内を流れる川もあり、ボートに乗ることもできる。
「ニーナ、ボートにでも乗る?」
「それも考えたわ。でもボートに乗るとクリスが漕ぐことになるでしょう。ズルはできるかもしれないけど……。ボートを乗る機会はまたあると思うから、少し川を眺めながら休憩するのでどうかしら?」
私の提案を聞いたクリスは。
優しく私の腰を抱き寄せる。
「ニーナは本当に優しいね。ありがとう。愛しているよ、ニーナ」
クリスがキスをしようとした瞬間。
「お父様、見て! 王子様がお姫様にキスをしようとしているわ!」
幼い子供の声に、クリスも私も思わず目を見合わせ、動きが止まってしまう。
「こ、こら。そんなこと声に出して言ってはダメだよ。王子様もお姫様もビックリしてしまうだろう。それにそんなに見てはダメだよ」
お父さんらしき大人の男性の声がして「えー、でも見たい~。絵本みたいだもの」と可愛い声が聞こえる。
するとクリスは「期待に応えてあげないとね」と言い、軽く唇へとキスをした。
「わぁ、王子様がキスをしたよ~。すごく素敵。カッコいい~」
女の子は大喜びだった。
◇
クリスと恋人つなぎで手をつなぎ、ゆっくりと川を目指し、公園内を歩いて行く。ミルキーを背にのせた銀狼も、テクテクその後をついてくる。すれ違う人は、銀狼とミルキーを見て微笑み、そして女性であればクリスに目を奪われていた。
一方のクリスは。
3分に一回は私のことを情熱的に見つめ、そして恋人つなぎしている手を持ち上げ、甲へとキスをする。その瞬間を目撃した女性が頬を染め、クリスをウットリ見つめているのが分かった。さらにこの甲へのキスの後。
「ニーナ、今、とても幸せだよ」
「すごく癒されているよ、ニーナ」
「ニーナ、今日のデート本当に楽しいよ」などなど。
これでもかという甘く優しい言葉を囁く。
もう本当に。
熱い目線と手の甲へのキスと甘い言葉で。
既に夢見心地で雲の上を歩いている気分だ。
本来なら全身から力が抜け、意識も吹き飛んでいるだろう。
だが。
クリスの気付け魔法のおかげで。
意識は飛ばず、なんとか歩くこともできている。
腰砕けになり、歩けないとはならない。
それが分かっているから……。
クリスは抑えきれない私への気持ちを。
3分に一回、私へ伝えているのだ。
冷静に考えるととんでもない状況なのですが。
クリスの溺愛に対し、私はウエルカム状態なのだ。
よって今のこの事態になんの文句もない。
むしろ。
川辺に到着した時は、残念でならなかった。
「ニーナ、ここなら日陰になる。日傘もささないで大丈夫だよ」
「確かにそうね。川もよく見えるし、いい場所だわ」
クリスは魔法で大きな布を手に入れると、木の下の芝の上にフワリと広げる。
「これでワンピースも汚れないよ。さあ、座って、ニーナ」
「ありがとう、クリス」
気配りクリスに感謝して腰をおろす。
風も少し抜ける場所のようで、心地いい。
「はい、ニーナ、水分補給」
クリスは瞬時にグラスと水の入ったガラス瓶を召喚し、私によく冷えた水を渡してくれる。今日のクリスはアミルばりに魔法をフル活用だ。
「ありがとう、クリス」
しばし二人で川を眺めながら、冷たい水で喉を潤す。
この川はクリスによると、透明度が高く、沢山の野鳥の住処になっているという。特にカワセミが多く生息しているとか。連動してサギもよく見かけると、クリスは教えてくれた。
「ここは気持ちいいね。ニーナの提案に従って正解だ」
「リラックスできている、クリス?」
「うん。とても。でもなんだか少し眠くなってきたかな」
「昼寝でもする……?」
「そうだね。でもニーナは?」
「私は魔力も減っていないし、元気いっぱいよ」
するとクリスが!!
甘えるように上目遣いをした。
ウルウル瞳もドキンとするけれど。
このクリスの上目遣いは……。
破壊力が半端ないです。
「ねえ、ニーナ」
「な、何、クリス?」
「甘えてもいい?」
「もちろん」
この上目遣いクリスに対し、「ノー」と言える人がいれば挙手して欲しい。私は……絶対に「ノー」とは言えない。
「膝枕してほしいな……」
上目遣い+頬を少し桜色に染める+甘い囁き。
クリスが行使した三種の神器に抗う術を私は持たない。
元より抗う術を持っていたとしても。
行使するつもりなどない!
だってあのクリスが!
魔力の強さのみならず、頭脳明晰、運動神経抜群、容姿端麗、性格最高、料理上手、脱いでもスゴイと、非の打ち所がないあのクリスが!
最愛の推しが私に膝枕をリクエストしているのだ。
即決即断即行動あるのみ。
「クリス、私の膝でよければ、いくらでも休んで頂戴。こんな感じでいいかしら?」
既に膝枕受け入れ体勢は完了している。
そこで頬を上気させたクリスが笑顔になると……。
あああああ。
もう、クリス! なんて破壊力のある笑顔なの。
これからクリスが膝に頭をのせるのだから。
私はシャキッとしなければならないのに。
もうメロメロで、海水に揺れるワカメのようにヘナヘナだ。
お読みいただき、ありがとうございます!
次回は本日夜22時前後に『今の私は……感無量だ』を更新します。
遅い時間になりますので、ご無理せず翌朝ご覧くださいませ~

























































