66:僕の心はニーナのもの。ずっとそばにいるよ
クリスはおもむろに温泉について話し出す。
「屋敷のお風呂に比べ、開放感のある空間で入るから、とてもリラックスできるよね。それにいつもの仲間と会話しながら入れるのもいい。ある意味、社交空間になっていると思う。そして体の芯から温まったと実感できた。血流もよくなったと思うし、一日の疲れが癒されたと感じる」
これを聞いていたみんなも、クリスの感想に同意のようで、しきりに頷いている。
ジェシカも勿論、クリスに同意だ。
「私もニーナと二人で入浴して、とてもリラックスできました。今晩はぐっすり眠れる、そんな風に感じています。あとは……温泉から出たあと、いつもより食欲がわいた気がします」
これは全員が感じていたようだ。「普段より食べ過ぎてしまった気がする」と笑っていた。そこで私はすかさず尋ねる。
「みんなが食べ過ぎたと感じるぐらい、食が進んだ夕食は、温泉を活用して作られたもの。温泉卵、ゆで野菜、ゆで卵、どうだったかしら?」
皆、口々に美味しかったと答える。
そこで最後に私は畳みかけた。
「宝探しのゴールが、この温泉だった。黄金や宝石があったわけではない。でも温泉を体験してみて、温泉こそ宝だと思えたのでは……?」
するとクリスが即答する。
「僕は元々、宝の地図が示すものは、この地でしか楽しめないものだと予想していた。温泉はまさにここだから楽しめるもの。その温泉を活用した料理も、まさにここでしか食べられないもの。僕は温泉=宝で、正解だと思うな」
「僕もそう思う」「オレもそう思う」「僕もそう思います」「私もそう思います」
ウィル、アミル、アンソニー、ジェシカ。
みんな一斉に、クリスの言葉に賛同を示す。
「温泉は究極の『男のロマン』だと思う。冒険をして辿り着ける場所、そこが温泉だ。宝の地図が僕達を導いた先。それは温泉という宝で間違いない!」
ウィルの言葉に、アミルとアンソニーが「うん、うん」と深く頷く。
温泉が「男のロマン」なんて初耳。でも三人がそれでいいと思っているなら、それでいいのだろう。何より、温泉=宝だとみんな意見が一致したのだ。
無事、宝が見つかったということで、改めて乾杯し、アミルがギターの演奏を始めた。
焚火を囲んでこのギターの音を聞くと、確かになんだか「男のロマン」を感じる。
!!
気づくとクリスが、隣に移動してきていた。
「ニーナのおかげで、みんなが温泉の素晴らしさに気づいてくれたよ。ウィルなんて、もっとアクセスがいい場所に温泉があるなら、アンジェラの寄付金を使い、温泉を楽しめる施設を作ろうと言ってくれている。それに温泉について研究するなら、寄付金で温泉研究の組織を作ろうと言ってくれた。本当にニーナに感謝だよ。ありがとう」
「そんな……」
クリスに褒められたことが嬉しくて、思わず顔が赤くなる。
ウィルがクリスにそんな提案をしたのも、クリスが研究していると分かったからだ。私なんてただ、自分が食べたいものを用意したに過ぎないのに。
「それにしてもニーナはすごいね」
「え?」
「温泉を活用した料理。昆布と醤油を使ったソース。そしてあのライスボールと、昆布の佃煮という食べ物。すべて僕が知らないものばかりだった」
改めて指摘されると……。
前世の知識を総動員し、あれこれ動いてしまった。
「悪役令嬢の呪い。予知夢。温泉。ニーナはまるで、僕とは違う世界とつながり、そこから沢山の知識を手に入れているように思えてしまう」
うわぁ……、クリスは勘が鋭いから!!
でもさすがにここがマジパラという乙女ゲーの世界です、なんて話せない。
「ニーナ」
ぎくり。
「例え僕の知らない世界とつながっていても、絶対に僕のそばから離れないで。ずっとそばにいると約束して」
……!
まさかそんな反応になるなんて!!
いろいろ追及されると思ったから、この反応には驚き、そして嬉しくなってしまう。
「ニーナ」
クリスの伸ばした手が、私の頬に触れた。
慌てて私はその手を掴み、答えを口にする。
「別の世界になんて、つながっていないわ。大丈夫よ、クリス。ずっとあなたのそばにいる。むしろクリスこそ、ちゃんと私のそばにいてくれるの?」
「もちろんだよ。僕の心はニーナのものだ。ずっとニーナのそばにいるよ」
クリスは自身の手をつかんでいる私の手に、唇を押し当てる。
その瞬間、心臓がドクンと大きく高鳴り、慌てて周りを見てしまう。
アンソニーは、ギターをひくアミルのそばで体をゆらしながら、目を閉じて演奏を聞いている。ウィルの隣にはジェシカがいて、二人は楽しそうに何か話している。
よかった。
誰にも見られていない。
続きとなる『まさか、クリスの黒歴史!?』は12時台に公開します~!

























































