62:イチャイチャしていないで、早くこい!
直球でウィルの口から「クリスはニーナが大好きだからな」なんて言われたら、もう恥ずかしいやら嬉しいやら。今の私は全身真っ赤だ。もう完熟トマト並みに。
「まあ、ニーナは王冠が行方不明だから、宝の在り処に王冠があると予想したわけだろう。もしかすると奇跡的に、本当にそこにあるかもしれない。もしそうなったら……本物の宝探しの旅だ」
ウィルはとても朗らかに笑う。
その笑顔を見たら、もしそうであればと思ってしまう。
でも実際は、フィアマールにあるわけで……。
「みんな、止まれ、下がってくれ」
アミルが叫び、ジェシカがこちらへ向かって駆けてくる。
アミルと並び、先頭を歩いているのは、ジェシカだった。
「どうした!? 何があった!?」
ウィルがジェシカを抱き寄せ、自身の背で庇うようにするその姿……。
愛する姫君を守る王子様そのものだ。
いや、実際、ウィルは王子様なわけで。
思わずニマニマしていると。
ふわりと優しい風に、全身が包まれるように感じた。
「アミル、何があった? 僕は何も検知していないが」
クリス!
かなり距離があいていたはずなのに、駆け付けてくれた!
そう、クリスとアンソニーは一番後ろを歩いていたのに。
「前方を見てくれ、なんだかものすごい蒸気が漂っている。それにこの匂い……。まさか野生のドラゴンでもいるのか!?」
「何、ドラゴン!?」
アミルの言葉にウィルは驚きながらも、足元にはすでに円陣が出現しており、いつでも霊獣を召喚できる体勢を整えている。
一方のクリスは、私のことを自身の胸の中で守るようにしながらも、まだ円陣を展開していない。さらにこんなことも言い出した。
「アミル、ウィル。野生のドラゴンは、数百年前に失われている。召喚でもしない限り、ドラゴンが現れることはない。それに僕は危険を示す現象を、何一つ感知していないよ」
「クリス、こっちまできて見てみろよ。ものすごい蒸気が見えるから。それにオレが魔法を展開しているから、匂いが分からないかもしれないが、とんでもない匂いがしたんだぞ。なあ、ジェシカ」
アミルにふられたジェシカは、大きく頷く。
「もくもくと白い蒸気が、ものすごい勢いで広がっていて……。あの匂いはなんというか、刺激のある、独特の匂いでした」
「分かった。では僕も前に出て、その匂いと蒸気を確認しよう。ニーナ、一緒に行くかい?」
ジェシカの言葉を聞いたクリスは、アミルの方に行こうとして、私に同行するかと尋ねてくれた。
「え、クリス、私、同行してもいいの?」
てっきり、「安全確認ができるまで、ここで待っていて、ニーナ」と言われるのかと思っていた。同行していいのなら……。行きたい! だって私は、クリスと片時も離れたくないのだから。
「僕は異常を検知していない。だから問題はないと思っているよ」
「おい、クリス、本当にいいのか!? 僕とアンソニーで、ニーナの安全は確保するが」
ウィルの声に振り返ると。
ジェシカを抱きしめるウィルのそばに、アンソニーがいた。
「ウィル、大丈夫だよ。ニーナのことは、僕が守る」
そう言って私を抱き寄せたクリスは、額に優しくキスをした。
その瞬間、私の心臓はいろいろな意味で大変なことになり、ウィルは「!!」と固まり、ジェシカは「まぁ」と頬を赤くした。アンソニーは、困ったなという表情をしている。
「おい、クリス!! イチャイチャしていないで、早くこい!」
アミルが若干キレ気味で叫ぶので、クリスはゆっくり私から体を離す。そして私の手をとり早足で歩き出す。一方の私はもう心臓が大変な状態。みんなの前で額へのキス! なんだか緊急事態なのに。ときめいている場合ではないのに!
なんとか心臓を落ち着かせる。
おや?
平原を進んでいると思ったが、緩やかな傾斜があったようだ。アミルの方に向かうと、勾配を感じ、その近くにたどりついた時は、坂道を登り切ったような感じだった。
「本当にすごい蒸気ね。でもこれって……」
思わず呟いてしまう。
まるで地表から雲がわき出しているように見えるが、この景色に見覚えがあった。
「部分的な解除なんて、できないからな。オレの魔法を解除した瞬間、すごい匂いがくるから、覚悟しろよ」
アミルの言葉に、緊張が高まる。
でも私の肩を抱くクリスは、落ち着いていた。
そして「分かったよ、アミル。魔法を解除してくれて構わない」と答える。
アミルが魔法を解除した瞬間。
「!!」
これは間違いない。私はこの匂いを知っている。
温泉街に行くと、必ずのように、この匂いを感じていた。
そう、いわゆる卵が腐ったような匂い、というやつだ。
「ねえ、クリス、この匂いは」
「ニーナも分かった?」
「え!? クリスとニーナは、これがなんであるか、分かるのか!?」
アミルが驚愕している。
クリスと私は、顔を見合わせ、笑ってしまった。
もうみんなの前でもニーナ愛が止まらないクリス♡
溺愛ルート万歳!
続きは明日の11時台に「この素晴らしさは体験したら分かるはず!」を公開します~

























































