54:アミルとクリスの攻防
水中にいる時間の方が長かった。
だからそんなに見られていないと自分を鼓舞したが。
「あの滝壺、透明度が半端なかったから。よく見えていたよ。むしろ、水の中の方が、白いブラウスがゆらゆら揺れて、なおのこと色っぽかった」
アミルの言葉にとどめを刺される。
最悪だ。
本当に最悪だ。
他の男子も気づいていたのだろうか……?
もう、お嫁に行けない……。
「やっぱあれだな。透けて見える、あれはたまらないよ」
……!
言葉が出ない……。
「でもさ、すぐにクリスの奴が気づいてさ。魔法で隠すから。オレがすぐに解術した」
「アミル!?」
「そしたらクリスってば大人気ないの。魔法の重ねがけのオンパレード。あんな魔法かけられたら、解術に何百年かかるんだって感じ。あー、もっと見たかったな。ニーナの色っぽい姿」
アミルがブツブツ言っているが、もはやそれは聞いていない。
クリスが私を守ってくれた……!
もうその事実で、胸がキュンキュンしていた。
多分、アミルは目ざといから、いち早く私のブラウスが透けていることに気づいた。気づくと同時に、ここぞとばかりに見た。でもきっとウィルとアンソニーは、気づいていない。気づいても、気づいた瞬間に、視線を逸らしてくれた――そう思う。
クリスは間違いない。紳士だから。見ていないはず。
でもアミルの視線に気づき、事態に気づいた。
そしてブラウスが透けないようにしてくれたに違いない!
今すぐクリスに、感謝の気持ちを伝えたくなっていたまさにその時。
視線を感じる。
まさか、クリスが私を見ている!?
そう一瞬胸がときめいたが。
この視線は、後方にいるクリスではなく、前方から感じる。
「ウゥゥー……」
この声は……。
初めて聞いた。
プラジュが、低い唸り声で鳴いている。
肩にいるミルキーも、落ち着かない。
「ニーナ」と言い、アミルが私の腕を掴む。
な、何!? 何がいるの?
前方のかなり離れた場所で。
何かが動いた。
「どうしたの?」
後ろをついてきていたジェシカとアンソニーが追いついた。アンソニーはアミルと私の様子を見ると、すぐに「ジェシカ、静かに」と声をかける。
その瞬間。
え、猫!?
いや、あれ、銀狼ぐらいのサイズがある気がする。
いくら食生活がよくても、あんなにがたいはよくならないでしょう。
それにデブ猫ではなく、体全体と手足のバランスもとれているし、これは……。
「ヤマネコ……?」
私の声に、その場にいた全員から肩の力が抜ける。
「どうしたんだ、みんな?」
ウィルとクリスも追いついてきた。
「ヤマネコがいるみたい」
私の言葉に、ウィルとクリスが瞳を輝かせる。
ウィルはこう見えて(?)猫派らしい。
クリスは多分、学術的興味だろう。
ヤマネコは、凜とした様子でこちらを見ている。
錆色っぽい毛色に、黒の縞模様。
尻尾は長く、ふさっとしていた。
さっきまで警戒していたプラジュだが、ハッキリ相手の姿見えたことで、落ち着いている。ミルキーは、初めて見るヤマネコに興味をひかれるのか、鼻をひくひくさせていた。
「あれ、子猫じゃないかしら?」
ジェシカの囁き声に、よく目を凝らすと。
いた!
ヤマネコの子猫が三匹もいる。
愛くるしい姿は、普通に家猫みたいだ。
互いの尻尾にじゃれたり、草に猫パンチをしている。
「可愛い~」
ジェシカと二人、メロメロになる。
しばらくヤマネコの親子は、愛らしい姿を見せてくれていた。だが、ゆっくり動き出し、姿を消してしまった。

























































