44:こんな将来有望な若者がいたとは……
アミルから「気の強いニーナも可愛い」と言われ、私が顔を真っ赤にしたところで、クリスが声をあげてくれた。
「アミルが話さないようだから、僕が正解を言おう」
そうクリスは宣言し、アミルの部屋の謎を解き明かす。
「あの部屋に簡単に侵入する方法。それは鍵を開け、ドアから入る、だ。もちろん、鍵を開け、ドアから侵入したとはバレるだろう。魔力を検知する魔法も、かけられていたから。でも発動する魔法は、それぐらいだ。あの部屋の扉の鍵は、特殊に作られている。扉の鍵を使った時だけ、防御魔法やその他の魔法を発動しないようにしている。恐らくはアミルの二人の弟にでも、その鍵を用意させたのだろう。その頃まだ弟たちは、アミルが実の兄であるとは知らなかったから。魔力暴走を起こした危険人物を部屋に閉じ込めるため、手を貸したのだろう」
なるほど……!
これは……アミルがドヤ顔をしたくなるのも分かる。
誰も気づいていなかった。このことに。
「なぜそんなことをしたのか。あの部屋はアミルが用意したものではない。アミルを閉じ込めるために、王族が指示して用意させた部屋だ。基本的にアミルを閉じ込めておくが、王族や王族の指示に従った人間が、部屋に入る必要性も生じるかもしれない。だから鍵を用意した。特別な鍵を。これを使えば、難攻不落に思える、魔法でガチガチにかためられた部屋にも、王族や王族の指示を受けた人間は、入ることができるということだ」
クリスがすべてを話したので、アミルは「ちぇ~っ」とつまらなさそうな顔をしている。でも残りのメンバーは皆、「なるほど」と感心している。砂漠の民のアサシン(暗殺者)は、完全に置いてきぼり状態だが……。そんなことはない。ここから狂喜乱舞するはずだ。
「すまなかったな。内輪話で盛り上がってしまい。だが、これは君たちにも関係のある話だ」
ウィルの言葉にトゥルは「はあ」と怪訝そうな顔をしている。
「今、彼らが話していた部屋、それこそ、君たちが言う『箱』のことだ」
トゥルを含む、砂漠の民のアサシン(暗殺者)の顔色が変わる。
「暗殺のために行動を開始して、まだ1日目だ。成果が出なくても、咎められることはないだろう。ギリス王国のローワン国王には、暗殺のために動いていると思わせろ。ローワンの目をあざむき、箱の扉の鍵を探し出せ。そして頭領と息子を救い出すんだ。もちろん、魔力を検知され、ギリス王国の兵が駆け付けるだろうが、そんなの返り討ちできるだろう、カリナトゥス(狂った毒蛇)であれば」
ウィルの言葉にトゥルの黒い瞳が輝いた。
そして皆の顔を順番に見る。
「我々は……第六王子の暗殺を企て、メリア魔法国とギリス王国が戦争になるような悪事に加担した。それなのに、咎めることなく……解放するのか?」
ウィルはアミルを見る。
「彼らの処遇は……ターゲット(標的)にされたアミルが決めるのが筋だと思うが、どうだ? ちなみに僕に一任してくれるなら、メリア魔法国のために、有効的に活用するが」
「いいよ、ウィルに任せるよ。母さんには、刺客に狙われたけど、返り討ちしておいたと追って報告するから。オレを狙った刺客より、注視すべきは国王のローワンなわけで。とりあえず殺さず、ただ恐怖は植え付けた方がいいだろうな、ローワン国王には。それはまあ、母さんが得意そうだから、まかせるよ」
アミルの答えを聞いたウィルは「では僕に一任してもらったということで」と言うと、トゥルを見た。
「トゥル、君は自身の名を明かした。信頼できる男だと僕は判断する。だから今回は見逃す。ただ、これは貸しが一つできたことになる。この先、僕やここにいるメンバーの誰かが、メリア魔法国から何か一つ、お願いごとをしたら、頼まれてくれるか?」
「それは勿論だ。これを君に渡しておく」
トゥルは首につけていたチョーカーを外した。
それは濃い深緑色のペリドットがついたチョーカーだ。
「自分にとっては命の次に大切にするように言われている、砂漠の民のアサシン(暗殺者)に代々伝わる石だ。これを見せられたら、砂漠の民のアサシン(暗殺者)であれば、どんな願いでも叶える。でもそれは一度きりだ。その願いを叶え終えたら、これは返してもらう。でもその時までは、君に預けよう」
トゥルからペリドットのチョーカーを受け取ったウィルは「分かった」と深く頷く。
トゥルはさらに「ここにいる自分の部下五人が生き証人」だと微笑んだ。
「よし。ではこれで終了だ。アミル、彼らに魔力を戻してやれ」
「オッケー」
アミルが返事をした次の瞬間、砂漠の民のアサシン(暗殺者)は、ハッとした表情になり、腕の紋章を見たり、円陣を出現させ、魔力が戻ったことを確認した。
「ではそれぞれのすべきことへ邁進しよう」
ウィルの言葉に、皆が一斉に動き出す。
トゥルはクリスに声をかける。
「すまないが、我らの守護霊獣はどこに?」
「転移前にいた場所で、待機していますよ。一切の危害は加えていませんから」
「そうか。ありがとう。……しかし君はとてつもない魔力の持ち主だ。感服したよ。魔力もそうだが、驚くべき観察眼、頭脳の明晰さ、勘の鋭さ……。メリア魔法国に、こんな将来有望な若者がいたとは……」
トゥルの称賛に、クリスは天使のように微笑む。そして自身の右手を左胸に当て、優雅にお辞儀する。
「お褒めのお言葉、ありがとうございます。このような形での出会いでしたが。今後は敵ではなく、味方であることを願います」
「それは……。ああ、我々としても君だけは……敵に回したくないよ」
そこでトゥルが快活に笑うと、部下達に「行くぞ」と声をかけた。
砂漠の民のアサシン(暗殺者)の足元に、次々と転移のための円陣が現れる。
「では、友よ、さらば」
トゥルの声と共に、転移魔法の呪文が唱えられ、その姿は一斉に消えた。
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やっぱりクリスは最強~☆
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