41:名探偵みたいなクリス
凛とした声でクリスは告げる。
「今回の襲撃者のターゲットはアミル、君だ。依頼主は……君なら思い当たるだろう」
「王族の奴らか……。国王か第一王子か、その辺だろうな」
「ち、違う! 我々はメリア魔法国の人間だ! ギリス王国の王族を殺しにきた!」
髭男が叫ぶと、クリスがニコリと笑った。
優美で落ち着いた笑顔。
だが次の瞬間。
髭男の瞳を、クリスの瞳が射抜くように見つめた。
クリスの目を見た髭男の顔が、凍り付く。
これまで穏やかだったクリスから、ピリピリするような殺気が感じられた。
「嘘はダメだよ。君たちが着ている、その黒に見える衣装。それはメリア魔法国でも産出される、ムラサキガイで染められたものではない。その発色は、紫根で染めたもの。つまり、君たちは異国の者だ。そしてその紫根の染め物は、砂漠の民がよく利用している。君たちは砂漠の民であり、アサシン(暗殺者)なのだろう?」
「な……」
髭男は絶句し、他の仲間も目を丸くしている。
そんな襲撃者にアミルが近づき、髭男の着ている服を手で掴む。
「本当だ。確かにこれは、紫根で染めたものだ。でも……クリス、よく分かったな」
「アミルにそう言われると、困ってしまうな……。つい最近、アミルのおかげで、砂漠の町に行くことになったからね。短い時間だったけど、フィールドワークさせてもらった成果かな」
既にクリスからは殺気が消え、いつもの優しいクリスに戻っている。
だが、みんなは……。
「クリストファー様! もしかしてあなたには、影武者でもいるのですか!? あの時、砂漠の町であなたは、ニーナを見守り、部屋にかけられた魔法の解析をし、大魔法使いメイズ様の案件も対応し、その上でフィールドワークまで……」
アンソニーが絶句している。ジェシカはアンソニーの言葉を聞いて目を丸くしていた。
ウィルは……なんだか嬉しそうにクリスを見ている。
私は……まるで名探偵みたいなクリスに痺れ、今すぐ抱きつきたい状態だ。
「まあ、お前たち、観念しろよ。砂漠の民のアサシン(暗殺者)なら、腕は一流だと思う。でも相手が悪かったわけだ。洗いざらい、吐いてもらおうか」
しゃがんだアミルにでこぴんされた髭男は、顔をゆがめている。
そのアミルに、クリスがさらに声をかけた。
「解毒薬は用意できるかい?」
「もちろん。こいつらが砂漠の民のアサシン(暗殺者)とクリスが明かした瞬間に、召喚済みだ」
アミルはポケットから黒っぽい瓶を取り出す。中にはなにか液体が入っている。
しかし、なぜ解毒薬?
そう思ったら。
「砂漠の民のアサシン(暗殺者)を、一流と言わしめている理由。それは自らの死を厭わない点だ。一流だから基本的に失敗はない。逆に失敗すれば、それはアサシンとしての名を汚すことになる。だから自ら死を選ぶ。広く知られているのは、歯に仕込んだ毒での自死。でも解毒薬はある。死の苦しみを味わった上で、解毒され、自白したければ、それはそれでどうぞということだ」
ウィルの説明に、アミルとクリス以外はもう「そうなの……」と唖然とするしかない。
襲撃者たちでさえ、私と同じように口をぽかんと開けている。
「クリス、この底なし沼みたいな魔法、最終的にどうなるんだ?」
「アミル、それは分からないんだ。落ちた先がどこにつながっているかが。だから、もし僕がもう一度魔法を発動させたら……。この6人はどうなるのだろう。ただ、言えることは一つ。この世界からは消える。完全に」
そう言ったクリスは、腕組みをして「本当に、どうなるのだろうね?」と朗らかに呟いている。一方の襲撃者6人は、青ざめた顔でクリスを見ていた。そんな6人の襲撃者に、クリスはとどめのような一言を放つ。
「でも落ちた先でどんな恐怖が待っているかは……分からないな。そこは生きていることを後悔するような、地獄のような場所かもしれない。死んで落ちたはずなのに、そこは地獄だった気づいて目覚めるかもしれない。落ちてから死んでも、目が覚めて、そこが本当の地獄と気づくのかもしれない。」
「クリス、つまり、生きて落ちようが、死んで落ちようが、落ちてから死のうが、そこは地獄なんじゃないのか? どのみち、地獄での裁きが待っていると」
アミルが肩をすくめると、クリスは困った顔で「うん。そうかもしれないね。どのみち僕も落ちたことがないから、本当のところは何も分からない」と答える。そんなクリスとアミルの会話を見守っていたウィルが、ついに口を開く。
「では、改めて問う。依頼主は誰だ?」
ウィルが髭男を見ると。
その顔は蒼白だ。
死んで終わりにできない。
どうしたって地獄が待っている。
それを回避するには自白するしかない。
それを悟った髭男は、ついに観念したようだ。
クリスの推理が冴えわたる!
一体依頼主は誰なのか!?
その続きは明日、明らかに!
次回は「そんな未来、絶対に回避!」を11時に公開!
引き続きよろしくお願い致します~
【完結のお知らせ】
>>一気読み派の読者様へ<<
『乙女ゲームに召喚、即エンディング!?
~悪役令嬢?ヒロイン?モブ?
立ち位置が分かりません~』
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展開の予想は不可能
×
次に何が起きる?
×
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すべての謎が解ける!
序盤、中盤、終盤で物語の印象が
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読み応えのある物語を楽しみたい読者様。
ご覧になってみてください。
ハッピーエンドです。

























































