39:大自然の中でティータイム
チェストツリーの花をモチーフにした、カチューシャが入っている! しかもちゃんと宝石が使われており、お土産にしては、かなり高級そうだ。
「クリス、ありがとう……! なんだかいつも高いものをいただいてしまい、申し訳ないわ」
「ニーナは伯爵令嬢なのに、謙虚だね。これでも大魔法使い見習いとして、王宮から手当が出ているから安心して。それにニーナは、僕の婚約者だ。そのニーナが輝いていなかったから、婚約者は何をやっているんだ、ってなってしまう。ニーナがちゃんと綺麗でいたら、彼女の婚約者は甲斐性がある男だね、って」
クリスは……なんてできた人間なのだろう。
今すぐ抱きつきたくなるのを我慢し、もう一度感謝の気持ちを伝える。
「おーい、そろそろ出発するぞ」
アミルの声が聞こえ、アミルの隣にいるアンソニーが手を振る。
ウィル、ジェシカ、クリス、私の四人は、幌馬車のお店へ離れ、二人の元へ向かった。
◇
ネズの木に囲まれた草原を出発してしばらくは。観光客が歩きやすいように、木の板が敷かれた遊歩道があったので、歩きやすかった。でも30分も歩くと、それもなくなり、本格的に大自然の中を進むことになる。道なき道をゆくので、一列で進むことになった。アミルを先頭に、ウィル、ジェシカ、私、クリス、アンソニーが続く。まだ森の中ではなく、草原なのだが、自然のままに伸びた草は、私の背丈に迫る勢いだ。
一時間ほど歩き、休憩をとることにする。休憩をするにもスペースがないので、男性陣が草を倒し、スペースを作った。ブランケットを敷き、座るスペースを確保する。水筒の水を小型のやかんに入れ、お湯を沸かす。お湯が沸くと、ティーストレーナーを使い、紅茶を入れる。ジェシカがみんなにチョコレートを配る間に、私が紅茶を入れたカップを渡していく。
用意が終わり、皆でお茶を飲み始めた。
みんな無言だから、自然の音に包まれる。
草が風に揺れる音、虫や鳥の声。
学校のキャンプやピクニックで、外で食事をしたり、お茶をしたりする機会はある。でもここまでの大自然ではない。
「すごいエネルギーだな」
唐突にアミルが呟くと、すぐにクリスが反応する。
「ここは本当に人の手が入っていないからね。土、草、空、そのすべてに純度100%のエネルギーが満ちている」
「クリスって、魔力が並ではないと分かっていたけど……。大地のエネルギーも、まさか魔力に変換できるのか?」
アミルが驚いた顔で、クリスを見る。
クリスが『奇跡の子』であることは、公になっていない。アミルになら話してもと思うのだが。そこは国王陛下の判断で、まだアミルには話していない。アンジェラも、クリスが『奇跡の子』であることを、アミルに話していなかった。
「そうだね。これでも大魔法使い見習いだからね」
「それはそうだけど……。ギリス王国の大魔術師は、大地のエネルギーを魔力に変えるなんて、できないぞ」
ウィルの眉がピクリと動き、クリスは表情を変えないが、視線を下に向ける。
今、アミルは国防にまつわる重大情報を、簡単に明かしていた。
無防備に明かされた機密情報をどう扱うか、ウィルが思案している様子が見てとれる。
「気づいたか?」
アミルの言葉に、プラジュと銀狼が、同時に耳をピクリとさせる。
「ええ。間もなく僕の転移魔法で、ここに転移してきますよ」
「な、クリス、オレの防御魔法は!?」
「アミル、君の防御魔法だと、襲撃者は死亡してしまう。だから」
クリスがそう言った瞬間。
さっき歩いてきた道に、突然6人組の男達が現れた。
初夏に相応しくない、全員黒ずくめの装い。
どう考えても……刺客の類に思える。
「くそっ、どういうことだ!?」
男の一人が悪態をつき、残りの五人は、無言で体勢を整えようとする。
だがまるで底なし沼にいるように、地面の中へと体が沈んでいく。
これは……アミルがブルンデルクに突然現れた時に、クリスが街の広場で使っていた魔法だ!
「アミル、クリス、これは!?」
ウィルが困惑気味に、二人を見比べる。
目の前にいる敵より、二人の方を気にするということは……。
「まあ、そういうことだ。美味しいとところはクリスに持ってかれたが。もうコイツらに魔力はない」
アミルがそう言うとクリスは。
「見ての通り、拘束は完了しているよ、ウィル」
ジェシカ、アンソニー、そして私はもう息を飲んで見守るしかない。
ウィンスレット辺境伯は、安全面を留意するようにと言ったが……。
アミルとクリスがいれば、護衛なんて不要としか思えない。
クリスとアミル、さすが!
果たして怪しい奴らの正体は?
続きは明日の11時「またもクリスがとんでもないことを」を公開します~


























































