35:学生生活最後の夏季休暇、スタート
学生生活最後の夏季休暇、その初日の朝がやってきた。
学校に行く時よりさらに30分早起きして、宝探しのための準備をすすめる。
部屋には、アンソニー達が用意してくれた装備が、届けられている。騎士の皆さんが遠征用に使うリュックサックには、今回の宝探しの旅に必要なものが、既にいろいろと詰め込まれている。
水筒、少量の食料、ランタンと燃料、雨合羽、ザックカバー、タオル、地図とコンパス、筆記用具、ロープ、折りたたみナイフ、カトラリー、小型の鍋、アルミ製の食器、ブランケット、応急セットなどだ。ここに選んだ着替えと、防寒服をしまう。テントは男性陣が、運んでくれることになっている。
コンカドール魔術学園では、毎年春にキャンプがある。新しいクラスメイトと、一気に親睦を深めるために設定されたイベントで、主目的は交流。だからキャンプといいつつも、身一つで行っても問題ないぐらい、現地にすべてが整えられている。さらに魔法の使用もOKなので、今回のような装備で、出掛けるわけではなかった。つまり学校のキャンプは、名ばかりキャンプ。
でも今回の宝探しは違う。本格的なキャンプになる。
あの魔法使うの大好きアミルが、極力魔法に頼らないと宣言したのだ。だから魔法で用意できそうなものまで、ちゃんと持っていくことになっている。リュックサックを背負ってみると、なかなかの重さだ。
服は白のブラウス、ミモレ丈のライラック色のスカート、登山用の焦げ茶色のブーツ。出発前に帽子を被り、腕には日焼け対策と虫よけのため、レースで出来たロンググローブをつける。
ひとまず準備が整ったので、朝食をとるため部屋を出る。ダイニングルームには、既にアンソニーとジェシカもいる。アンソニーは、白シャツにスカイブルーのジレとズボン。ジェシカはアクアグリーンのブラウスに、ベージュのミモレ丈のスカート。二人とも足元は、登山用のブーツだ。
ウィンスレット辺境伯は、私達に「怪我などに気をつけるように」と言いつつ、「楽しい夏の思い出を作るといい」と応援してくれた。ウィンスレット辺境伯夫人は、皆のサンドイッチを用意したと言い、エントランスで渡してくれることになった。
こうして朝食を終え、一旦自室に戻り、出発前の準備を整える。リュックサックを背負い、エントランスに向かった。
エントランスに全員集合すると、まずは馬車に乗り、宝のある山――クロンシュ連山の麓にある町・ヴュルテンへと向かう。ウィンスレット辺境伯家からは、馬車で2時間ほどかかる。車を使えば早いのにと思うが、馬車で行くことが「男のロマン」らしい。本当はそこに行くのも、アミルは徒歩にしたかったらしい。でもジェシカと私のことを考え、ウィルが却下してくれたという。
「クロンシュ連山は、黒い森の近くでは、標高が高くなる。だがこれから向かうヴュルテンの町付近では、標高が1215メートルほどしかない。剥き出しの岩山というより、森林が多い。観光客が訪れることで有名な、ネズの木に囲まれた草原など、比較的歩きやすいと思う」
馬車が走り出すと、ウィルがこれから向かうヴュルテンの町とその辺りのクロンシュ連山について説明してくれた。ちなみに今日のウィルは羽のついたカーキ色の帽子に、ベージュのシャツ、明るいグリーンのズボンと、これから森に入るのにピッタリの服装をしている。
「ただ、宝がある場所は、普段観光客が訪れるような場所ではない。クリスも調べてくれたけど、宝がある場所周辺の詳しい情報は……ないに等しい。唯一ある情報は、隕石で出来たクレーターに雨水がたまり、湖ができたらしい。でもこれも絵も写真も残っていないから、真偽のほどは未知数だ。あとは……昔はこれから向かう辺り一帯に、ヤマネコやオオカミが多くいたらしい。だから山の方ではなく、町の内陸の方の開拓が進み、山の方は放置されたようだ」
どうやら宝がある場所は未開の地。なんだか本格的にアドベンチャーな雰囲気になりそうだ。
時間差でもう1話公開します~

























































