33:もう意識が吹き飛ぶ寸前
改めて。
ドアを軽くノックする。
あれ、反応がない。
寝ている……?
あ、仮眠をとっている?
そう思ったまさにその時、ドアが開いた。
「ウィルか? どうした?」
そう声をかけながら姿を現したクリスは……。
髪は乾きっておらず、普段とは違う髪型になっている。
胸元が大きく開いたナイトガウンからは、入浴の直後だからだろう。うっすらとバラ色に染まる肌が見えていた。手にはタオルも持っている。
クリスの素肌は、砂漠の町でも見たことがあった。あの時も、とんでもなくドキドキした。でも今は、その比ではない。なんというか、お風呂上り直後の艶っぽさが、強烈な色気につながっている気がした。
そんな姿を見たら当然だが。
顔を含めた全身が一気に真っ赤になり、腰が抜けそうになる。
「ニーナ!?」
本当は大声を出したかったのだろうが、みんなに聞こえてしまう。それを瞬時に理解したクリスは、押し殺した声で短く私の名を呼んだ。そしてすぐさまタオルをはなし、腰に腕を回すと、落ちそうになる私を支える。同時に、トレンチを持ち、ヨーグルトが廊下にぶちまけられる事態を阻止した。
ミルキーは必死に肩につかまり、落下を免れてくれている。
ふうっと大きく息をはいたクリスは「ビックリしたよ、ニーナ」と言い、優しく微笑む。
「とりあえず、中に入って。歩ける?」
優しく尋ねられ、破裂しそうな心臓をなんとか落ち着かせ、頷く。でもとても歩けるような状態ではなく、ゆっくり、ゆっくり、なんとかクリスの部屋の中に入る。
夜に初めて入るクリスの部屋。
その事実に、立て直し中の私の体が反応してしまい、またも腰が砕けそうになる。クリスは歩くのを止め、そのまま私の体を支え、甘く微笑む。
すると次の瞬間。
私はソファの前にいて、そのままストンと腰をおろすことになった。一方のクリスは。ヨーグルトをのせたトレンチを、テーブルにようやく置くことができた。ソファの近くにいた銀狼が、不思議そうにこちらを見ている。その銀狼の方に、肩に乗っていたミルキーが移動していく。
やってしまった。
クリスにときめき過ぎた。
無駄に魔法を使わせてしまった……。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「クリス、ご、ごめんなさい、私……」
「大丈夫だよ、ニーナ。僕がこんな姿だったから、驚いてしまったのだろう。ごめん。すぐに服を」
「い、いいの、そのままで」
「……え?」
「初めて見るナイトガウン姿のクリスだから。目に焼き付けておきたいの」
私の言葉に、一瞬きょとんとしたクリスだったが、すぐにクスクスと笑う。笑いながら、でも、頭の中では魔法を詠唱していたようだ。扉の前に落ちていたタオルが、クリスの手元に移動している。
「ニーナが卒業したら、一緒に暮らすんだよ。そうしたらナイトガウン姿なんて、毎日見ることができるのに」
「それは……」
それは、その通りだ。
そう、だってクリスと私は卒業したら……。
一緒に暮らす。
一緒に……。
自分で言うのもなんだが、私は想像力が豊かだ。
一緒に暮らす、というただその一言だけで、クリスとのあんなシーンやこんなシーンを想像できる。それは大魔法使いとして宮殿へと向かうクリスを送り出す姿。夕食を共に食べる姿。銀狼やミルキーと一緒に、庭園を二人で散歩する姿――そんなほのぼのとした姿と共に。
ナイトガウン姿のクリスと過ごす自分を、想像していた。ナイトガウンを着ているということは、お風呂上りかまさに寝る前。寝る……寝室。クリスと結婚している私。つまり……。
寝室で夫婦として過ごす二人。
そんなことまで想像してしまった。
それは……とても言葉にできない。
言葉にしては……いけないと思います。
「ニーナ、さっき以上に顔が真っ赤だけど、大丈夫?」
私が想像の翼を広げている間に。
クリスはタオルを片付け、髪を乾かし(魔法で)、でもナイトガウン姿のままで、隣に腰をおろしていた。
つい数秒前に。
このナイトガウン姿のクリスとの、あれやこれやを想像していた。そしてそのクリスが、触れられる距離にいる……。もう意識が吹き飛ぶ寸前だ。
続きは明日、11時台に『完璧気配り男子』を公開します~
完璧クリスなのに、なんだか甘え足りないようで……
(*/▽\*)
明日もプチサプライズ☆
引き続きよろしくお願い致しますっ!
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