2:悪役令嬢完全回避プラン(のはずが)
現在の私は17歳。
ウィンスレット辺境伯家からほど近い場所にある、コンカドール魔術学園3年生に進級したばかりだ。
そう。
8歳で王都から遥か北にあるブルンデルクという地方都市にやってきた私は、ウィンスレット辺境伯家にどっぷりお世話になり、マジパラの舞台になる王立イエローウィン魔法学園に入学することなく、卒業式まであと1年を切るというところまで辿り着けたのである。
もう、悪役令嬢のフラグは、まさに折れる寸前だと思う。
最初は見えざるゲームの抑止力でも働き、王都に連れ戻されるかと思った。
だから本当に最初の一年は警戒しまくりだった。
「ニューイヤーは家族水入らずで過ごさないか」という母親の手紙にもノーと返信した。
「夏休みは王都でみんなと遊ばないか」という兄弟の誘いも断った。
「誕生日ぐらい家に帰ってこないか」と父親から電話が来ても、頑なに拒否した。
そうして月日を重ね、私はここまで来た。
これで無事卒業できれば、悪役令嬢のフラグは折れたことになるだろう。
王都で、王立イエローウィン魔法学園で、5人の攻略対象とヒロインがどうなっているかは分からない。とにかく関わらないようにしていた。
もし悪役令嬢に転生してしまい、フラグを回避したいと願うなら、すべての原点となる場所から逃げる。これをおすすめしたいところなのだが……。
おすすめです!と断言できない理由もある。
というのも、ゲーム設定から逸脱しすぎる行動をとり過ぎたせいか、どうもおかしなことになっているのである。
ニーナ・コンスタンティ・ノヴァは、とても美しく、スタイル抜群で魔力も強いという存在のはずなのだが……。
ゲームのパッケージで見たニーナは、悪役令嬢にしておくにはもったいない美貌だった。
緩くウェーブを描く、輝くようなブロンドに、パッチリとしたヘーゼル色の瞳。
雪のような白い肌にローズ色の唇と頬。
小顔で、ほっそりとした首と手足。
ウエストはくびれ、胸はふっくらとしてドレスを着こなすには抜群のサイズ。
私はニーナなのだし、成長すれば勝手にこの姿になると思っていたのだが……。
髪は輝くようなブロンドではなく、ゴールドダークブロンド。しかもあの美しいウェーブはなく、直毛ストレート。
さらになぜか王都を離れてから、遠視になってしまった。おかげで今は眼鏡をかけている。ニーナが眼鏡をかけているカットなんて、見たことがない。
前世では近視で眼鏡をかけていたから、悪役令嬢になって眼鏡とおさらばできると思ったのに。それに前世ではコンタクトレンズがあったが、ここにコンタクトレンズなんてない。
治癒魔法というものもあるが、これは傷や病気を、傷や病気ではない状態に戻す魔法。遠視はなんというか老化(?)みたいな形で自然となってしまったようなので、治癒魔法ではどうにもならない。
ただ、反射魔法というものがある。
これを眼鏡のレンズ以外にかけると、光の反射で見えなくなり、一見すれば眼鏡をかけていないように見えるのだが……。毎回かける必要があるし、面倒なので、今は眼鏡で通している。
肌の白さは今いる場所が北方の地であるせいか、設定通りだし、首や手足、バストについては……。運動をするに越したことはないと思うが、一応今の所、パッケージの見た目から逸脱していないが、気を抜くとヤバそうである。
しかし最もヤバイことは……。
魔力である。
ニーナは魔力が強いはずだった。
実際8歳にて、魅了の魔法が使えたのに。
今はとても魔力が弱くなっている。
どれぐらい弱いかというと……。
3年生に進級し、守護霊獣を召喚することになった。
守護霊獣とは、今後の人生を共に歩むパートナーのような存在であり、魔法を使う際のサポートをしてくれる霊獣だ。足りない魔力を補ってくれたり、魔力を補給してくれたり。
召喚する時に使う魔力の強さにより、召喚できる霊獣も異なる。
多くが小型で肩にのるようなサイズなので、必要とされる魔力はそこまで多くないのだが……。
守護霊獣の召喚は、初めてで成功する人もいれば、失敗する人もいる。
通常の魔力を有している者であれば、難なく召喚できるのだが、授業だと緊張してうまくいかない場合もある。だから守護霊獣の召喚の授業は3回行われた。
それなのに。
3回目となる守護霊獣の召喚の授業でも、私は召喚に失敗した。
乙女ゲーをプレイしていた時。
守護霊獣の召喚は、ガチャのように、条件が揃えば何度でもできた。
でもこの世界では、3回の授業の中で召喚を成功させなければならなかった。3回やって召喚できなければ……守護霊獣とのご縁はなかったとみなされる。
その一方で、一度でも召喚できれば、守護霊獣を失っても、もう一度召喚できるというのだから……この世界も競争化社会だと思ってしまう。
守護霊獣は魔法を使う時にサポートをしてくれるし、いてくれると心強い。
でも必須ではない。必須ではないのだが……。
ここは魔法を使える人間が暮らす世界で、魔力というのは遺伝する。だから強い魔力を持つ者は、ただそれだけでステータスになる。
私のように守護霊獣もいない魔力の弱い令嬢は……。
一応は伯爵家という肩書はあるが、嫁の貰い手がつかない可能性が非常に高くなる。でもって嫁にも行けない貴族の令嬢の末路は……修道院送り……。
なんというか、悪役令嬢は回避できそうだった。でもその代償がこの状態?
冷静に考えると、マジパラのニーナの末路に、修道院送りも当然あったわけで。
結局、フラグは回避できていなかったのでは……?
ただ、処刑や追放は免れることができただけ……。
マジパラで悪役令嬢のニーナが修道院送りになるのは、確か心優しいこの国の第三王子をヒロインが攻略した時だったと思う。ということは、もしや遥か南にある王都で、ヒロインが第三王子を攻略しつつあるということか。
うまくフラグを回避できたと思っていたのに。
ダメだったのか。
そう思っていたのだが……。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
次回は「モブなのに超美少女!憧れのいとこ」を公開します。
明日もよろしくお願いいたします。
★★女性読者も楽しめる物語★★
『異世界召喚されたら供物だった件~俺、生き残れる?~』
https://ncode.syosetu.com/n0117hx/
現在、【Episode2】テルギア魔法国捜索編が更新中ですが
5話に渡る回想があるので、こちらを読めば
【Episode1】未読でもお楽しみいただけます!
試し読みのご検討、お願いします。
【Episode1】死亡フラグ遂行寸前編
婚約者に襲われた美少女ヴァンパイアのベリル。
大量出血したベリルは、失った血を補給するため、
拓海を召喚していた。
召喚者のベリルと供物の拓海。
童貞のまま死にたくないという拓海にベリルは
「吸血時に注入する魔力は全身に強い快感をもたらす。
例え童貞だったとしてもめくるめく快楽で、
あたかもそれを喪失したかのような気持ちで逝ける」
と言うのだが……。
【Episode2】テルギア魔法国捜索編
レッド家次期当主は、本当はベリルの兄・カーネリアン。
でも彼は魔女にさらわれ行方不明に。
現状次期当主であるベリルと拓海の関係は、
カーネリアンが次期当主に就任しない限り、
変えることはできない。
拓海は旅の仲間を集め、
魔女とカーネリアンがいると目される
テルギア魔法国へ向け旅立つが……。