22:二人で甘々ケーキ
拍手が起き、カーテンが開くと同時に、楽団の演奏が始まり……。なんとクリスはそのまま、ワルツ曲を奏で始めた。
その姿はもう……。
想像していた通りの、まさに優雅や優美さに溢れていた。技巧だけではない、表現力溢れる演奏に、感涙しそうになる。だが。バースディーケーキは、アミルが招待客一人一人に手渡すことになっていた。だからジェシカと共に、手伝いに加わる。
ケーキ受け渡しの流れは、こんな感じ。
招待客は、アミルにプレゼントを渡す。アミルは一旦プレゼントをテーブルに置く。そのプレゼントは、アンソニーやウィルにより、別のテーブルに並べられる。一方のアミルは、ジェシカと私が切り分けたケーキが乗るお皿を、感謝の気持ちと共に、招待客に渡す――という流れだ。
バースディーケーキの受け渡しをしている最中も、クリスの演奏は続いている。ケーキを既に食べ終えた招待客は、楽団とクリスのピアノにあわせ、楽しそうにダンスを踊っていた。その様子をチラチラと確認しながら。クリスの演奏で、クリスとダンスをしたいという、矛盾をはらんだ願望にかられた。現実では無理だが、妄想と夢でなら、実現できる。絶対に、いつか夢で見ようと誓う。
こうして無事、バースディーケーキの受け渡しも済み、アミル、アンソニー、ウィルにもケーキを渡す。
「ニーナ、はい、これ」
ジェシカが、ケーキののったお皿を二つ、私に差し出す。
もしかして、バースディーケーキを作った特典で、二つ食べていいのかしら?
「右手のケーキ、これはニーナが作ったバースディーケーキよ。クリストファー様に食べてもらうのでしょう」
そう言ってニッコリ微笑むジェシカは……女神様だ。
「ありがとう、ジェシカ! でも、私のケーキで大丈夫かしら……。ジェシカのケーキの方が、美味しい気がするわ……」
「ニーナ、それは違うわ。お店で販売するケーキなら、そうね。作り慣れている私のケーキの方が、見た目も整っているから、売れるかもしれない。でも、今日のケーキは、愛する人に食べてもらうものよ。見た目が一番じゃないのよ、ニーナ。大切なのはどれだけ愛情を込めたか、でしょう。アミル様に美味しく食べて欲しいという思いと一緒に、クリストファー様にも食べていただきたい、そう思って作ったはずよ。大丈夫。ニーナの愛を感じ、クリストファー様は、笑顔で召し上がってくださるわ」
ジェシカは……本当に女神だった。
こんな言葉をかけてくれるなんて……。
本当は抱きつきたいところだが、両手が塞がっている。
「ジェシカ、ありがとう! 想いはたっぷり込めたわ。……クリスに渡してくる!」
ジェシカはニッコリ頷く。
クリスのところへと思い、振り返ると。
アミルへの巨大プレゼントを抱えるクリスがいた。
そうだ、自分達のプレゼントをまだ、アミルへ渡していなかった!
それを思い出し、皆、一度ケーキを食べるのを止め、アミルへプレゼントを渡す。プレゼントの箱の上にのっていた花束は私が受け取り、ジェシカと二人でアミルへ渡した。
アミルは喜び、巨大な箱に興味津々のようだった。
無事、プレゼントと花束を渡せたので、早速ケーキを……。
ハッ! しまった!
どっちがクリスに渡すケーキだった!?
アミルにプレゼントを渡すため、ケーキがのるお皿は、近くのテーブルに置いていた。その際、どちらがクリスに渡すケーキかを、覚えることなく、置いてしまった。見た目はジェシカの方が美しいから、判断がつくと思っていた。でも常温状態で、ある程度時間が経っていたので……。どちらのケーキのクリームも、少し緩くなってしまい、区別がつかない。
ど、どうしよう……(焦)
「ニーナ。そこのケーキは、もしかして、僕とニーナの分かな?」
クリス……!
「そ、そうなの……」
えー、どっち!? こっちの方がちょっと下手かな? いや、でもそっちの方が……。
「じゃあ、ニーナ、一緒にケーキを食べよう」
クリスは、ケーキがのる二つのお皿を、両手でそれぞれ持ち上げた。
「ニーナ、どっちがいい?」
ええええええ。
分からない!
どっちも私が作ったもののような気もする……!
「迷っているの、ニーナ?」
クリスが可愛らしく首を傾げ、それを見た私は降参する。
つまり、どちらかが私の手作りケーキだが、どっちなのか分からなくなってしまった。そう、素直に打ち明けた。
「なんだ、ニーナ、そんなことで悩んでいたの? 大丈夫だよ、おいで」
クリスは私を促し、窓際に置かれた椅子に、腰を下ろす。
私にも座るよう促すと、手に持っていたケーキのお皿を渡した。
「アイスケーキの時みたいに、このケーキを食べさせあいっこしよう。そうすればどちらのケーキも食べられるから」
「クリス……!」
「さあ、ニーナ、口を開けて」
優しくクリスに囁かれ、胸をキュンキュンさせながら、口を開ける。
ぱくっと食べたそのケーキは……!
美味しい! スポンジの柔らかさと弾力、生クリームの甘さ、各種ベリーの酸味。お口の中で、見事なハーモニーを奏でてくれています。きっとこれは……ジェシカのケーキだろう。
ならば私の持っているこのケーキが……。
「クリスも、はい!」
ああああああ。
少し口を開けたクリスは、本当に無防備というか……。
キュンキュンしながらケーキを口元に運ぶと。
「うん! 美味しいね。まるでケーキ屋さんで売っているみたいだ。すべてのバランスが完璧だよ」
え、えええ!?
それは……だったら私が作ったケーキじゃない……と思う。
「ねえ、クリス、こっちのケーキも食べて!」
さっきクリスが食べさせてくれたケーキをフォークですくい、口元へと運ぶ。
クリスはすぐにパクリと頬張り……。
「え……」
クリスの頬が、ぽっと色づく。
ライラック色の瞳を細め、これ以上ないというぐらいの嬉しそうな顔になる。
そんなクリスを見てしまった私は……心臓が異常事態になっている。
「……ニーナ、よく頑張ったね。とても美味しいよ」
「!? え、どういうこと!?」
するとクリスは……。
「ごめん、ニーナ。僕は見ていたんだよ。ジェシカとニーナが会話をするのを。何を話しているかは分からなかったけど。でも話をしている最中から、ニーナが右手に持っているケーキにチラチラ視線を向けていたから……。あのケーキに何かあるのかな?と思って、ニーナがテーブルに置く時も、見ていたんだ。そしてニーナから話を聞いて……。つまり僕が今持っているケーキが、ニーナの手作りケーキであると、僕は分かっていたわけだ」
「……! そ、そうだったのね」
そう返事をした後に、驚いてしまう。
だって、私、自分で作ったケーキだと知らずに食べて、美味しいと感じてしまった……。
いや、でも、ジェシカのケーキを食べれば……。
自分の手に持つお皿のケーキを食べようとすると。
「ニーナ、食べさせあいっこする約束だよ」
すっと手を伸ばしたクリスが、私の持つお皿からケーキをすくい、口元へと運んでくれる。
その動作にキュンとしながら、パクリと食べると……。
さすが、ジェシカ。
クリスの言うことが分かる。
これは……お店クオリティだ。
「ジェシカのケーキは、本当に上手だと思うよ。ただ、僕はニーナが大好きだから。僕がニーナを好きだという気持ち。ニーナが僕を好きだという気持ち。二人の愛情の分だけ、ケーキに魔法がかかり、信じられないぐらい、美味しく感じてしまうんだ。ニーナのケーキに対して」
クリスの言葉を聞いた瞬間。
世界が輝いたように感じた。
隣にいるクリスも、窓からの陽光を受け、さらにキラキラ輝いている。
あああああ、もう、どうしたらいいの……。
幸せ過ぎて、天にも昇る気持ちだ。
「ニーナ、食べさせて」
クリスの甘い囁きに促され、私はウットリした顔でケーキをすくい、その口元へと運んだ。
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明日は11時台に『推しフィルターが異常起動』を公開します!
引き続きよろしくお願い致します~

























































