21:クリスとピアノ
アミルが始めたとんでもない宣言、それは……。
「オレはここにいるニーナに一目惚れして、そしてフラれてしまった。だから16歳になった今年こそ、妻となる女を見つけたいと思う。ニーナが悔しがるような、とびっきりのイイ女を妻にしたい!」
すぐにウィルが、妻と言っているがそれは婚約者であること、18歳になるまでは結婚しないことなどを付け加える。
とんでも宣言の後は、次々と料理が運ばれてきた。
既にドリンクは用意され、温める必要のないオードブルは、テーブルに並んでいた。だから今、運ばれてきているのは……湯気をあげる肉料理やグラタン、マッシュポテトなどだ。
ホールに、食欲をそそる香りが広がった。
食事を始める者もいれば、ダンスを続ける者もいる。
私は何人かの招待客のダンスの相手をし、その後、ジェシカと二人で料理を楽しむことにした。
まず、手に取ったのはローストビーフ。
ホールで待機する調理人が、その場で切り分けてくれる。
このローストビーフを作ったのは、クリスだと聞いていた。
ワクワクしながら口へ運ぶと……。
外側は香ばしく、中はしっとり。
肉の一番美味しい状態に、絶品ソースが絡んでいる。
もちろんソースも、クリスの手作り。
実は前日から仕込んでいただけあり、もう絶品。
クリス料理上手、万歳!
ジェシカはもちろん、周囲にいる女生徒も、これがクリスの手料理と知り、感動の涙を浮かべている。その気持ち、よく分かる!
続けてアンソニーが作ったキッシュを手に取る。
これはフィリングに、刻んだベーコンがたっぷり入っており、同じく刻んだパセリが、いいアクセントになっている。バターの風味も感じられ、料理経験がゼロに等しいアンソニーが作ったとは、とても思えない。素晴らしい出来栄えだ。周囲の女生徒は「あのアンソニー様が……」と、ため息をついている。
アミルが指導し、調理人が火を通した串焼きの肉料理は、前世でも食べたことがある。そう、ケバブそっくり。いや、多分、ケバブでは? これはソースが5種類あり、そのソースは、アミルの指示で作られたもの。そしてこのソースが、とてもいい仕事を、してくれている。特に美味しかったのは、ガーリックソース! あとヨーグルトを使ったソースも美味しい。5種類のソースで味変して楽しめるのが、最高だった。
他にも、様々な種類の焼き立てのソーセージ、かりっと揚げたてのポテト、ホロホロで食べやすい、塩漬けにした豚すね肉の煮込みなど、沢山の料理を楽しんだ。
そしていよいよ。
ジェシカと私が作り上げた、バースディーケーキが運ばれてきた。召使いが厚手のカーテンを閉じると、ホールは薄暗くなった。ケーキに灯されたキャンドルの明かりが際立つ。
そこでなんと……。
「皆で、アミルにバースディソングを贈ろう」
そう提案したクリスは、自らピアノに向かった。
まさか、このタイミングでピアノの演奏をするとは!
この薄暗さでの写真撮影は無理なので、まずは生でその姿を脳裏に刻むことにする。
ということでクリスがピアノを弾き始めると……。
皆、知っている歌なので、歌詞を自然と口ずさみ、手拍子を始めた。弾いているクリスも笑顔で歌詞を口ずさみ、そしてその指は軽やかに鍵盤の上で踊っている。その姿は、とっても楽しそう。優雅や優美とは違い、親しみやすさがあり、キュンとするものだった。
リストの超絶技巧練習曲のような、難易度高めの曲を弾きこなす姿。モーツアルトの幻想曲K.397のような曲を、表現力豊かに弾く姿も見たいが……。
この愛らしいキュンとする姿でも、十分萌えることができた。もし優雅や優美さが全開になる演奏だったら、腰が抜けていたかもしれない。
アミルへのおめでとうとクリスへのありがとうの気持ちを込め、思いっきり拍手をすると。
「ありがとう、みんな!」
アミルがロウソクの炎を吹き消した。
お腹空いてきます。
今日はこの後、12時台にも更新あります~!

























































