18:嘘、嘘、嘘、嘘。
それは……。
そういう約束をしたのなら……。
でも……。
「もちろん、約束だから、果たす必要があるわよね。でも何でもと言われても……。できないことを言われても、それは無理だと思うわ」
するとアンソニーは綺麗な笑顔を見せる。
こんな笑顔をすると、アンソニーは本当に王子様みたいに見える。
「大丈夫。それは……絶対に無理なことではないから」
「そう、なのね」
「うん……」
返事をしながら、アンソニーは握っていた私の手を持ち上げ……。
手の甲にキスをした。
「……!?」
驚いて固まる私に、アンソニーが告げる。
「花畑に案内する。だからニーナ、僕と婚約して欲しい」
「……!」
まさかの言葉にフリーズしてしまう。
アンソニーは手を離すと、ゆっくり、私の眼鏡をはずす。
「ずっと、ニーナのことが……初めて会った時から、好きだった……」
嘘、嘘、嘘、嘘。
アンソニーは家族も同然、恋愛対象として考えたことなどない。
「ずっと、今の家で僕と一緒に暮らそう。ニーナのこと、大切にするから」
アンソニーの手が私の頬を包み込む。
昨晩のようにアンソニーの額が私の額に触れる。
「イエスと答えて、ニーナ」
アンソニーと婚約!?
いや、それは……。
アンソニーは……攻略対象ではない。
未来の辺境伯で、王子様みたいで、頭もいいし、性格だっていい。
で、でも。
家族、そう、家族にしか思えない。
ってちょ、つ!
アンソニーの唇が近づいている!
咄嗟に手で口を押さえていた。
「ご、ごめんなさい、アンソニー! き、気持ちは嬉しいのだけど、その、いきなり過ぎて気持ちも何かもが追いついていない。もちろん、アンソニーのことが嫌いなわけじゃないわ。でも……」
口を押える手を、アンソニーが掴んだ。
「ニーナ、それは時間が必要ということ?」
「時間……。分からないわ。だって、アンソニーは私にとって家族同然だから」
「……家族。それは……そんな風に育てられたけど、僕達は家族ではないから」
「それはもちろん分かっているわ。でも、そもそもそんな相手として、アンソニーのことを見ていないから」
アンソニーがじっと私のことを見ている。
「では今日からそういう相手として見てくれる?」
「え……」
「僕のこと、嫌いではないのだろう?」
「嫌いではないけど……」
いや、待って。
完全にアンソニーの話術で流されそうになっている気がする。
そうじゃなくて、そうじゃなくて……。
「ねえ、アンソニー、時間をかけても異性として見ることができなかったら?」
「それは……」
アンソニーは困ったような顔をしたが。
「いや、そうはならないよ。僕はニーナが好きになってくれるよう、遠慮なくアピールするから。家族にも僕の気持ちを伝え、ニーナを僕の好きな人として扱うから」
あ、無理……。
そんな外堀を埋めるようなことをされては。
ここはハッキリと、ノーと言わなければならない。
長引かせ、こじらせ、第二のセスのようになったら、大変だ。
「アンソニー、ごめんなさい。例え時間をかけても、変わらないと思うの。私のアンソニーに対する気持ちは10年近くかけて、家族として育まれてきたから、そう簡単には変わらないわ。残念だけど、諦めて欲しいの」
私がそう告げたまさにその時、馬車が止まった。
アンソニーは無言で私に眼鏡を返した。
御者により、すぐに扉が開けられる。
「お兄様、ニーナ!」
制服姿でスノーボールを肩にのせた笑顔のジェシカが待っていた。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
次回は「見事な社交術」を公開します。
明日もよろしくお願いいたします。
新たにブックマーク登録いただいた読者様。
いいねをくださった読者様。
ありがとうございます(*^^*)