9:とても素敵な提案
アイスケーキを食べた後は、馬車に乗り、屋敷へと戻ることになった。
「ニーナ、今日のデートはどうだった?」
「最高だったわ。期末考査の最中に、このデートプランを考えてくれたのよね。本当に、素敵なデートをありがとう、クリス」
「ニーナが喜んでくれて良かったよ。期末考査の勉強も頑張っていたしね。ご褒美だよ」
そう言って笑うクリスは、私の手をぎゅと握る。
本当に、本当に、完璧なブルンデルクでの、初デートだった。
素敵なホテルのレストランで、絶品料理を満喫。動物庭園では、のんびりタイムを楽しんだ。アイスケーキでは、ラブラブできた。
もう、大満足である。
ミルキーも大満足のようで、膝の上で気持ちよさそうに眠っている。銀狼も、クリスの足元でゆったり休んでいる。守護霊獣は、普段とは違う場所に行くと、それを察知するという。そして召喚者同様、景色を楽しみ、周囲を観察するという。
ミルキーも銀狼も、楽しめて良かったね。
何よりも。
今日のデートで、いろいろ発見もあった。
クリスの笑顔で、ご飯は五杯ぐらいいけそうなこと。私からキスしてほしいと、クリスが思っているということ。フォークを使った食べさせあいっこをすると、クリスから男の色気と少年のような無邪気さを引き出せること。
二人きりのデート。できて本当によかったな。
制服であることは……もはやあんまり関係なかった。
結局。
クリスと二人でデートできれば、服装はなんでもよかった。
もちろん、オシャレは絶対にしたいけど。
「ニーナがそんなに笑顔になってくれるなら……。もっと早くに二人きりのデートを、提案すればよかったね」
握った手に力を込め、クリスが私を見る。
「でもみんないつも一緒だから……。クリスと私以外の全員の予定が埋まるなんて、これまでなかったから、仕方ないわ」
「うん。確かにそうだね。ただ、今後は……ニーナと二人でデートしたいから、ってみんなに言ってもいいのかな」
「……!」
それは想像していなかった。向かう場所も帰る場所も一緒で、帰宅してからも一緒に勉強をして、食事をしていた。一緒が当たり前になっていたけれど。そうか、言えばよかったのか。
「なるほど。そうしたら今度は……休みの日に、二人きりでデートしたいわ!」
「うん。休日にデートしよう。休みの日なら、遠出もできるから。ニーナは王都とブルンデルク以外は、どこか行ったことがある?」
マジパラをプレイしていた時は……。それこそイベント周回で、メリア魔法国内を飛び回っていたが。実際にこの世界に転生してからは……。わずかな期間を王都で過ごし、その後はひたすらブルンデルクだ。
「そう言われると……。クリスはメリア魔法国のいろいろな場所を、旅しているのよね? でも私は……。あ、でも、クリスが黒い森で、いろいろな場所へ案内してくれたでしょう? 氷の洞窟、大瀑布の滝壺、温泉……。私にとってはあれが冒険だったかな」
「ニーナ」
クリスが私の手をぎゅっと握りしめた。
「メリア魔法国は広い。氷の洞窟、大瀑布の滝壺、温泉も、すべて黒い森の一部にしか過ぎない。来週の今頃には、夏休みが始まるから、二人で旅行しよう。もちろん、みんなと過ごせる夏は今年が最後。来年の夏は、ニーナもウィルも僕も、王都にいるだろう。アミルはまだ学生だし、アンソニーとジェシカはブルンデルクだ。だから6人揃って過ごせる夏は、今年だけ。6人で最高の思い出を作ろう。だけどニーナと僕の思い出も、ちゃんと作ろうね」
それはとても素敵な提案だ。
クリスと二人きりの思い出は、もちろん作りたい。
でもクリスが言う通り、6人で過ごせる夏は、今年が最後。
絶対に、楽しい思い出をみんなと作りたい!
私は返事の代わりに、クリスの手を、ぎゅっと握り返す。
クリスはちゃんと私の意図に気づき、にっこり微笑む。
「でも、ニーナ、安心して。王都に戻って大魔法使いになっても、休暇はちゃんともらうから。それにウィルは学校を卒業しても、第三王子に変わりない。もちろん公務は増えると思うけど、ウィルのことだ。うまくやるだろう。だからアンソニーやジェシカ、アミルと絶対に会えないわけじゃない。もしニーナが必要と思うなら、ブルンデルクに僕達の別荘を持ってもいいし」
もうクリスは本当に、パーフェクトヒューマンだ。
私の心の隅々を、理解してくれている気がする。
「ありがとう、クリス! そうよね。来年の夏、絶対に会えないわけじゃない。それに、アンソニー、ジェシカ、アミルが、王都に遊びに行きたい、ってなるかもしれないわ。別荘は……ウィンスレット辺境伯に、離れを一つ譲ってもらう? もしくは離れを一つ増やしてしまう……とか? うん、きっと大丈夫。6人の絆は永遠だと思う」
「そうだよ、ニーナ」
クリスが明るい笑顔になり、私もそれにつられて笑顔になる。
馬車の窓からは、ウィンスレット辺境伯家が見えていた。
ひとまずデートは楽しく終わりましたが。
溺愛モードは止まりません!
明日も11時台に『ピュアなクリスのピュア過ぎる発想に悶絶』を公開します。
引き続きよろしくお願い致します!

























































