6:推しからのおねだり
既に昼食だけで、完全に骨抜きにされたのに。
食事の後に、クリスが連れて行ってくれたのは……なんとブルンデルク動物庭園!
ここは庭園と動物園が併設された国営施設で、5年前にできたもの。
オープニングセレモニーに招待され、ウィンスレット辺境伯夫妻とアンソニーやジェシカと来たことがある。でもその頃はまだ子供だったので、珍しい動物に大騒ぎし、庭園そっちのけだった。しかも園内を走り回り、かなりお転婆をしていた記憶がある。
つまり、成長し、庭園を楽しむ心の余裕が出来てから訪れるのは、これが初めて。しかも、もう一度行きたいという気持ちがあった場所だ。だからクリスがこの場所を選んでくれたことに、とても嬉しくなってしまう。
大人になり、庭園を楽しむ余裕ができた……そう思っていたが。
いざ中に入ると、どうしても動物たちに目が行ってしまう。
アミルが喜びそうなラクダがいたり、美しい羽を広げる孔雀がいたり、シマウマ、トラ、そしてゾウもいる。ウルフもいて、銀狼は不思議そうな顔で、ウルフのことを眺めている。小動物のコーナーでは、ウサギと共にハムスターもいて、ミルキーがその群れにダイブしたがるのを、止めるのに必死だった。
他にもキリン、サイ、ダチョウ、ワニ……本当に沢山の動物がいた。その動物たちを、クリスと手をつなぎ、ゆっくり歩いて眺める。餌を食べている様子や、せわしくなく動いている様子、水の中で微動だにしない様子などを、ただ眺めるだけなのだが……。
なんだかすごく癒される。
昼食の最中は、テンション上がりまくりだった。対してここは、のどかで落ち着いていた。さらにゆったり私をエスコートしてくれるクリスに、ただただ心が和み、ほんわかと気持ちが満たされる。
動物の展示の近くにベンチが置かれ、そのベンチを中心に庭園が展開されていた。あるベンチの周囲はチューリップが咲き誇り、別のベンチは東屋の中にあり、天井で藤の花が風に揺れている。
クリスは、フラミンゴが見えるベンチに腰を下ろした。そのベンチのそばには、マロニエの木があり、ピンク色にも見える白い花が沢山咲いている。甘い香りが漂い、ミツバチも飛んでいた。
クリスの足元でねそべる銀狼に、ミルキーは甘えるように寄り添っている。その姿はなんだか……クリスと私を見ているようで思わず笑みがこぼれた。
「ニーナ、結構歩いたけど、足は疲れていない?」
銀狼とミルキーを見て、ニヤニヤ顔の私に、爽やかな表情のクリスが尋ねる。
「大丈夫よ、クリス。気遣ってくれてありがとう。この動物庭園に来るのは5年ぶりなの。昔、ここに来た時は、駆けまわってばかりで。こんなに落ち着いて見学するのは初めて。とても和むし、落ち着くわ」
「ではここに案内したのは正解?」
「大正解。ありがとう、クリス」
そう言った私は……。
初めてクリスに、自分からキスをしてしまった。
もちろん、唇へのキスなんて無理で。
チークキスなのに、うっかり頬にキスしちゃいました!みたいなキスだった。
それなのにクリスは、信じられないぐらいライラック色の瞳を輝かせ、心がとろけるような笑顔を浮かべる。
「ニーナ、今のはとても……嬉しいよ。あまりにも感動して、心臓が止まりそうだ」
私のへたっぴな頬へのキスに、こんなに感動してくれるなんて……。
こちらこそ感極まって、心臓が止まりそうなのに。
そうか。
私からのキス、クリスは嬉しいと思ってくれるのか。
これからはたまに私からキスをしても……いい、かな。
いや、でも、とっても恥ずかしいし、やはり伯爵令嬢としてはおしとやかにしないと。
そう思ったのだが。
「もしニーナが恥ずかしいと思うなら、二人きりの時でいいから。これからもね、ニーナ。キスしてほしいな」
推しが私にキスをねだっている……!
瞬殺された私は、クリスの胸にもたれた。
いろいろな耐性がない私には、あまりにも刺激的なおねだりです。
もう何も考えられないです。
「ニーナ!? 大丈夫!?」
慌てるクリスは、これまた素敵で……。
幸せで緩やかな時間が、ゆっくり流れた。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!!
足が疲れていない?と尋ねられるクリスは、気配り男子~
もしニーナが疲れたと答えたら……。
お姫様抱っこ? 回復魔法?
溺愛デート、12時台更新で続きます~(*/▽\*)

























































