72:エピローグ
アミルが突然ブルンデルクに現れてから三日後。
ウィルとクリス、それにアンソニーやジェシカも協力し、アミルを迎える準備を整えた。
ウィルとクリスは、アミルの書簡の件を、国王陛下に報告し、学園への入学手続きを進めた。私やアンソニーとジェシカは、アミルが過ごす部屋を整えた。もちろん、この国の文化に馴染んで欲しかった。その一方で、アミルがその大半を過ごした砂漠の民の文化も、感じられるようにしたいと思い……。何よりウィンスレット辺境伯家の離れの部屋は、広々していたから。
青いアラベスク文様の絨毯を敷き、ローソファとローテーブルを設置した。その周辺には、白や青のシースルーの布を、ベールのように飾った。砂漠でお馴染みのグリーンを調達し、観葉植物として配置する。よく磨き込まれた文机、青と白のモザイク模様の香炉も用意した。その一角は香りといい、雰囲気といい、オリエンタルムード満点だ。
今日、アミルはコンカドール魔術学園で、初めて授業を受けることになっていた。それが終わったら私達と一緒に、馬車でウィンスレット辺境伯家の屋敷へ帰る。そこで初めて私達が用意した部屋に、足を運ぶことになるのだ。
ちなみにアミルは、ギリス王国の第六皇子として、コンカドール魔術学園に入学する。そしてこれを機に、両国の友好関係を祝い、今後の経済・貿易、両国の行き来を簡易化する協定の調印式も行われることになっている。つまり、ギリス国王の代理として、アミルは早朝から王都で調印式に参加。その足で学校に登校という、なかなかのハードルスケジュールが予定されていた。
でもアミルは転移魔法で、王都とブルンデルクも簡単に行き来できる。だからこのスケジュールでも、なんら問題ない。ただ、この両国の歴史的な第一歩を、メディアは余すことなく取り材したいと考えている。だからアミルを取材する記者たちは、王都とブルンデルクで、それぞれ人を用意して待機だった。アミルのような王都とブルンデルク間の転移魔法なんて、そう簡単にできるわけがないからだ。
転移魔法は、便利な魔法。
でも魔力を使うし、並みの魔力では、王都とブルンデルクの転移は無理なこと。例え魔力が強い者でも、この転移をやれば、相当魔力を消費する。転移した後、魔力切れにだってなりかねない。よっぽど急ではないと、やらないだろう。それにクリスのように、自身の転移魔法で、四人も転移させるなんてことは……。クリス以外だと、この国では、大魔法使いメイズぐらいしかできないと思う。
そんなわけで今。
私達はアミルがコンカドール魔術学園に到着するのを、校舎の前で待っている。
正門には記者が溢れ、そこにはウィルと魔法騎士、そして教師が待機していた。転移魔法で転移してきたアミルを迎え、ウィルが校舎まで案内する手筈だ。まさに両国の王子が手と手をとりあい、共に学ぶことを決意するという、ニュースペーパーを飾るに相応しい演出になるだろう。
一方の在校生は、校舎前でこの二人を拍手で迎える。到着したアミルを校舎内へと案内するのは、ブルンデルクを守るウィンスレット辺境伯家のアンソニーとジェシカ。だから地元紙の記者は、校舎前に何人も集合している。ギリス王国の王子と辺境伯家の二人の子供が、交流する様子をカメラに収めるためだ。
「さあ、いよいよいらっしゃいますよ。皆さん、拍手で迎えてください」
フィッツ教頭の合図で、吹奏楽部がまず、メリア魔法国の国歌を演奏する。まだかなり遠いが、ウィルと並んで歩く、アミルの姿が見えてきた。すでに女生徒からは、アミルの眉目秀麗な姿にため息が漏れ始めている。
ウィルの周囲に魔法騎士、アミルの隣には校長。二人の姿を追う記者たちも後に続く。
いよいよアミルの姿がはっきり見える距離となり、女生徒達の拍手にも、熱がこもる。
今、コンカドール魔術学園では、アンソニーとウィルが、人気を二分している。そこにクリスが加わる予定だったが……。
クリスはあっさり、婚約者が私と宣言しているので、皆、表立ってクリスで騒ぐことはない。でもたまにレストルームで「クリストファー様、婚約者がいらっしゃいますが、やっぱり素敵ですよね」という声を聞くことがある。でもこれには目をつぶっていた。憧れの存在、というのは、この年頃には存在していて当たり前なのだから。そしてそんなクリスの代わりに間違いなく、女生徒の心をざわつかせるのは……アミルで間違いないだろう。
ギリス王国の国歌が演奏される中、ついにアミルが校舎前に到着した。フィッツ教頭、アンソニー、そしてジェシカが迎える。アミル、アンソニー、ジェシカの三人が手をとりあい、拍手の音も最大になる。フラッシュがいくつも光り、歓声が起きる。
生徒達の様子を見て微笑んでいるアミルのルビー色の瞳が、私を見つけ、一瞬光るように輝く。
アミルとはいろいろあった。
まさか同じ学園に在籍するなんて……。
ただ今回の騒動で、メリア魔法国とギリス王国の友好関係は、間違いなく深まっている。さらわれた時はホント、どうなるかと思ったけど。戦闘もなく、丸く収まってよかったと思う。
気づけば演奏も終わり、アミル達も既に校舎の中に入っている。記者達は正門へと向かい、生徒達は校舎の中へと入っていく。
「ニーナ、行こうか」
学校でもクリスは、いつも私をエスコートしてくれる。
その手に自分の手を重ね、歩き出す。
「記者もそうだけど、生徒達の熱狂ぶりもすごかったね」
クリスが、前を歩く興奮気味な女生徒を眺め、そんな言葉を呟く。
女生徒達は早速、「ウィリアム様、アンソニー様、アミル様なら、誰がいい?」で持ちきりだ。
「アミルのあのルビー色の瞳は珍しいわよね。容姿がまず、目を引くと思うわ。それに王子様だから。憧れてしまうのかも」
「ニーナも、王子様がいい?」
「それはもちろん!」
クリスがちょっぴり寂しそうな顔になった瞬間。
すぐに私が考える王子様について、説明する。
「私にとっての王子様は、私のことを一途に好きでいてくれて、守ってくれる人なの。そしてクリスは、私だけの王子様よ」
「ニーナ……」
ライラック色の瞳が、甘く輝く。
階段の踊り場で立ち止まったクリスは、すっと自然な動作で私を抱き寄せる。
え、まさか!?
そう思った時には。
もうキスは終わっている。
クリスは再び階段へと、歩き始めていた。
誰かに見られていたのではと心配になるが。
見る限り後ろ姿の生徒ばかりで、多分気づかれていないと思う。
安心するのと同時に。
とんでもない勢いでドキドキが始まり、全身が熱くなる。
前世から憧れていた、校舎の階段の踊り場でのキス。
まさかこんな形で叶うとは……!
嬉しいやら、恥ずかしいやら。
それに想定では、校舎内のキスは放課後にするものであり……。これから一限目の授業が始まるというのに。私の頭の中は、クリスでいっぱいになってしまった。
ああ、青春(アオハル)……。
幸せを噛みしめながら、階段をのぼった。
(Episode2・完→Episode3に続く)
Episode2を最後までお読みいただき、ありがとうございます!
新キャラクターも登場したので、物語はEpisode3へ続きます~
Episode3は溺愛ルート、甘々警報多発な展開です☆
●全6話でサクッと読める●
日間恋愛異世界転生ランキング2位☆感涙
『浮気三昧の婚約者に残念悪役令嬢は
華麗なざまぁを披露する
~フィクションではありません~』
https://ncode.syosetu.com/n8030im/
ページ下部に目次ページに飛ぶ
イラストバナーがあります!

























































