71:まさかこんな風に、ムキになるなんて
可愛らしく返事をしたアミルにクリスが尋ねる。
「ところでアミル、君は今、3年生の制服を着ている。年齢は、17歳か18歳なのかい?」
「いや、15歳だ。6月で16歳になる」
「「え!!」」
クリスと私で、声を揃えて反応してしまう。
アミルのあの体つきは、とても15歳とは思えなかった。
何より、散々私のことを娶るとか、いい体をしている、抱きたいとか言っていなかった!? しかも何度も抱きつき、胸にキスマークをつけ、キスだってしようとしたよね!?
そのことを思い出し、私が顔を赤くしていると……。
アミルは気づいてしまった。
だから……。
「ギリス王国では、王族にのみ認められているんだ。男子は何歳でも結婚していいって」
頬を少し赤くしたアミルが、私を見ていることに気づいたクリスは……。
「なるほど。ギリス王国の王族は、だいぶおませなんだね。でもアミル、君は15歳だ。コンカドール魔術学園には、1年生として編入するべきだ。くれぐれも手続きを間違えない方がいい。それにメリア魔法国では、18歳から婚姻が認められている。ニーナは18歳になったら、僕と婚姻関係を結ぶことになっているから」
この広場全体に、とんでもない魔法をクリスは展開している。冷静に判断し、戦略を練り、落ち着いてアミルに対処していたのに。まさかここでこんな風にムキになるなんて……。しかも正直、最後の私との婚姻については、別に言う必要のない一言だ。それでも言わずにはいられなかったクリスを思うと……胸がキュンキュンしてしまう。
「そ、そうなのか……。18歳……。ニーナ、今は何歳なんだ?」
「アミル、ニーナは今、17歳だ。11月で18歳になる。ニーナとクリスは、相思相愛だ。もう邪魔しないであげてくれよ。それでこの国に留学する、コンカドール魔術学園に入学すると言っているが、用意はできているのか? まあ、こんな書簡を持ってきたぐらいだ。当然、滞在する場所も、学費の用意もあるのだろうな?」
クリスがこれ以上らしくない発言をするのを、ウィルは止めたかったのだろう。クリスに代わり、ピシャリとアミルを牽制してくれた。ウィルのこういう姿を見ると……。今は同学年になってしまったが、ウィルがクリスのことを尊敬し、大好きなのだと伝わってくる。
ピシャリと言われたアミルは、一瞬しょぼんとしたが、すぐにウィルに問われたことに、答える。
「学費はもちろん用意する……けど、ラクダ100頭とかでいいか? それとも」
「待て、待て。ギリス王国の通貨はリヤルだろう。せめてリヤルで払ってほしい」
ギリス王国は東西に広い国。
王都は、メリア魔法国と変わらない西洋文化が根付いているが、砂漠の民がいる辺りは、まさにオリエンタル文化。通貨より、ラクダの方が重んじられるのだろう。でも真顔でラクダ100頭と言われ、困惑するウィルを見ていると。思わずクスリと笑ってしまう。
「リヤル……通貨。分かった。用意しよう。住まいについては問題ない。あの部屋から通うから」
背後からアンソニーが、むせている気配が伝わってくる。ジェシカの「お兄様、どうされましたか!?」と気遣う声も聞こえてきた。目の前ではウィルが固まり、飲み物を手にしたクリスも、フリーズしている。
「ま、待て、アミル。いくら魔力が強いからって無駄遣いするな」
ウィルに指摘されたアミルは「魔力の無駄遣い」という言葉に何か思い出したようだ。
ルビー色の瞳を輝かせ、ウィルとクリスの間を見た。
つまり、私を見ている。
「ニーナに言われた通り、砂漠にオアシスを作り、畑も家も作った。そこに住まないかと誘ったら、何人かが引っ越してきたよ。ニーナに提案されたこと、やってみてよかったよ」
「そ、それは良かったわ、アミル」
ウィルが「ニーナ、一体何をアミルに言ったのだ!?」という顔で私を見て、クリスは苦笑している。
「アミル、僕の話を聞け。転移魔法で行ったり来たりはせず、ここ、ブルンデルクに住むんだ。コンカドール魔術学園に通うなら」
「なんで? ギリス王国の王都に転移するのも、コンカドール魔術学園に転移するのも、たいして変らないのに」
「そういう問題じゃない!」
この後しばらくウィルは、アミルにコンカドール魔術学園に通うために必要なことを説明しようとしたのだが……。途中で悟りを開いたようだ。それはあまりにもアミルがキョトンとした顔で、ウィルの話を聞いていたからだった。つまり、説明し、それをアミルに実行させることは、あきらめた。代わりにウィルは……。
明日の放課後、コンカドール魔術学園に来るようにとアミルに告げた。入学の手続きは、ウィル同席の元、進めることにしたようだ。そして住まいについては、ウィンスレット辺境伯に確認すると伝えた。どうやら自分が滞在している離れの一室に、アミルが滞在してもいいか、交渉するつもりらしい。
なぜ第三王子であるウィルが、アミルの世話をこんなに必死するのかと不思議に思ったが……。
ひとまずアミルを帰らせ、広場から屋敷に戻る馬車の中で、ウィルはこんなことを話した。
「僕は子供の頃、クリスにいろいろなことを、手取り足取り教えてもらった。僕に何か教える時のクリスは、嫌な顔一つせず、僕のために時間を割いてくれた。だからこそ、今の僕がある。アミルは15歳で、僕より年下だ。そして慣れないブルンデルクの地で、学校に通おうとしている。クリスに世話になった分のお返しを、後輩であるアミルにしているだけだ。それに入学の手続きは最近したばかりで、慣れているから」
そんなウィルにクリスは……。
「それを言うなら、僕の方が最近、入学手続きをしたばかりだ。だから僕も手伝うよ、ウィル」
その言葉にウィルは「もう僕は子供じゃないから、大丈夫だよ」と言いつつも、なんだか嬉しそうだ。兄弟のように過ごしたクリスとウィルの姿を垣間見た気がして、思わず微笑ましくなった。
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このあと 12時台に もう1話公開します~


























































