67:絶望だけじゃない。希望もあった。
アンジェラの部屋に飾られていた花。
美しい花をアンジェラに見せたいと願う人がいた。もしかしてそれが……。
「あの日、ニーナから解術方法を教えてもらい、母さんの部屋に向かったオレは、花束を持っていた。魔法が解け、人間の姿に戻れるかもしれないんだ。お祝いに花を渡したら、喜ぶかなって」
少し照れるアミルに、私は嬉しくなっていた。
誰かが喜ぶ姿を浮かべ、花束を買う。
そんな発想、これまでなかったはずだ。
それができるようになったことに。
アミルの成長を喜ばしく感じていた。
「それはとてもいい心がけだと思うわ」
思わずそう伝えると、クリスは困った顔で、ウィルは「やれやれ」という顔をしている。
アミルは私のことを、クリスとウィルの間から懸命に見ると、笑顔になった。それはやはり眉目秀麗な笑みだったので、背後でジェシカのため息が聞こえる。そしてアミルは話を再開した。
「母さんの部屋に行くと、丁度、お昼を運んでくれた召使いがいた。だからオレは、声をかけた。『いつも母さんに花をありがとう。今日はオレも花を持ってきたから、飾って欲しい』って。その召使いは、いつもオレを恐れるように見ている。でも声をかけた直後に表情が和らぎ、こう教えてくれた。『いつも花を持ってくるのは、第四王子のベルディムさまです』と」
「王族は、アンジェラのことを、強い魔力を生み出す道具と見ていたのでは?」
クリスに問われたアミルは頷いた。
「オレもそうだと思っていた。だから驚いたよ。母さんと話をする前に、その第四王子に会ってみることにした。丁度お昼時だ。食事をしているだろうが、執務を邪魔するわけではないと思い、第四王子の部屋へ向かった。オレが訪ねて、すんなり会ってくれるだろうか? そうも考えたが、ベルディムはちゃんと会ってくれた。会ってくれて、そして食事中だったが、その席にオレにも座るよう勧めてくれて……。席につくと召使いに、オレの分の料理を運ばせた。これは驚きだ。毒でも入っているかと思ったら、ベルディムは出てきた料理の皿を、自分の皿の料理と交換した。毒なんて入っていない。普通に美味しい料理だった」
その時のことを思い出しているのだろう。
驚き、でも純粋に嬉しかった。
そんな表情をしている。
王族から親切にされた経験がアミルにはない。
だからこそ、ベルディムの行動に驚いたが、感動もしたのだろう。
「その料理を食べながら、なぜ母さんに花を届けるのか尋ねた。するとベルディムは、自身の気持ちをオレに打ち明けてくれた」
そこでアミルは椅子の背もたれに体重を預け、大きく息をはいた。そして話を続ける。
「ベルディムは、側妃の子供だった。でもその側妃は、側妃の中でも一番爵位が低い。でもベルディムが生れ、優遇されるようになると、他の側妃からのいじめが始まった。結局、それで心労がたたり、ベルディムの母親は早くに亡くなっていた」
これには皆、黙り込むしかない。
王族であり、一夫多妻制であるとどうしてもこうなってしまうのだろうか。
「ベルディムは、オレが正妃や側妃から虐げられるのを見て、なんとかしたいと思っていた。だが、ベルディムの立場は弱い。他の王子に比べ、魔力だってそこまで強いわけではなかった。しかもベルディムの母親は既に亡くなっている。本来後ろ盾になる母親の実家の貴族も、金の無心をベルディムにするが、ベルディムに対する援助はない。だからオレを助けたいと思っても、正妃や側妃のことを止められなかった」
アミルの視線が地面へと落ちる。
メリア魔法国では一夫一妻制をとっているから、現在いる三人の王子は、すべて国王陛下夫妻の子供だ。ウィルは第三王子だが、ギリス王国のような差別を、王族の中で受けることはない。むしろ王位を継がないため、自由に動けることを、ウィルは楽しんでいると思う。
だからアミルのこの話を聞いて、ウィルはため息をついた。そのオパールグリーンの瞳には、アミルへの気遣いが浮かんでいる。
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