66:まずは結論から
アミルに発動していたクリスの魔法が解除され、私達は席について話すことになった。
その座席の配置も絶妙だ。
クリスとウィルが隣り合わせで座ることになり、二人の隙間に、椅子を一歩後ろに下げておき、そこに私が座った。そしてその私の対面にあたる位置に、アミルが腰をおろしている。
私の後ろには、アンソニーとジェシカが座るテーブルがあり、2人の魔法騎士も同席していた。広場にはまだ、あちこちに魔法騎士が待機している。緊張状態は解けたものの、完全に解いたわけではない――というのがよく分かった。
一見すると、クリスもウィルも普通に話しているが……。いざとなれば、すぐ動ける状態であることは……間違いないだろう。ウィルはジャケットを着ていないし、紋章を隠すこともないのだから。
「お待たせしました」
魔法騎士がテーブルに飲み物を置いた。この季節にブルンデルクで人気の、四種のベリーのジュースだ。ストロベリー、ブルーベリー、クランベリー、ラズベリーを絞り、砂糖を加え煮詰めたものに、炭酸水が加えられている。
少しだけ温かいのが、この飲み物の特徴だ。ブルンデルクは北方の地で、新緑の季節でも、まだヒンヤリ感じることもある。だからこのほんのり温かいところが、人気の秘密。
アミルは初めて見るこの飲み物を興味深そうに眺め、そしてグラスに口をつける。
「……甘酸っぱくて温かくて美味しい」
純粋にドリンクの味を喜ぶアミルは……。
人畜無害にしか見えない。
その姿を見て、とんでもない魔力の持ち主だと気づける者はいないのではないか。
「それで。王族である僕の同席を求めるということは。ギリス王国、メリア魔法国、その両方に関わる、デカイ話なんだろうな?」
ウィルは警戒心丸出しで腕を組み、背もたれに体重をかけ、鋭い視線を送っている。こんなに横柄なウィルは見たことがない。多分、意図的にとっている態度だ。こんな態度をとられ、腹に一物あれば、反応せずにはいられないだろう。
「もちろん。だからこそ、えーっと、ウィル。メリア魔法国の第三王子であるウィルの同席をお願いした」
アミルはウィルの挑発には乗らず、いつも通りに受け答えをしている。
「では話してもらおうか」
ウィルに促されたアミルは……。
「まずは結論から。現在のギリス王国の王太子は、第一王子のスタンだが、変更になる。第四王子のベルディムが王太子になる。そしてベルディムとオレの母親であるアンジェラは、婚約した。オレは魔法についてちゃんと学ぶため、メリア魔法国に留学することにした。ギリス王国とメリア魔法国は、かつては敵対する国だった。そして今はただの隣国だが、これからは友好国になる予定だ。以上だよ」
ウィルはアミルの言葉にギョッとして、クリスを見る。
その思いは私も同感だ。
いろいろと「どういうこと!?」と尋ねたくなることばかり。
一方、落ち着いた様子のクリスは、ウィルに目配せをすると、静かに口を開く。
「第四王子のベルディムとアンジェラが婚約した。つまり、アンジェラのことを損得なしで心から愛していたのが、第四王子だったということだね。アンジェラの魔法を解術したのも、ベルディムということか。ニーナから聞いた話では、アンジェラの解術はアミル、君が自分自身でするつもりだったのでは?」
「最初はそのつもりだった。ただ、気になっていることがずっとあった。母さんの部屋を訪ねる人間なんて、三度の食事を運ぶ召使いと、週に一度の入浴を担当する召使い、それにオレしかいないと思っていた。……母さんが横になっていたカウチの傍にはテーブルがあり、そこに置かれた花瓶には、行く度に美しい花が生けられている。てっきり二人の召使いのどちらかが、花を替えてくれていると思っていた」
アミルはそこまで話すと、ジュースをごくごくと数口飲み、話を再開した。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
次回は明日 11時台に 以下を公開します。
なんだかアミルは友好的な提案をしていますが……。
『絶望だけじゃない。希望もあった。』
引き続き何卒よろしくお願いいたします♪

























































