57:アンソニーの想い
宿を急遽チェックアウトすることになり、その手続きをクリスとウィルがしている間、アンソニーと二人、ロビーで待つことになった。今回、アンソニーがこの地に来ていることは、私にとっては驚きだ。だから思わず尋ねていた。
「今回、アンソニーが来てくれていたこと、本当にビックリしたわ。ウィンスレット辺境伯も、よく許してくれたわね」
するとアンソニーは、とても真剣な表情で私を見た。
「ニーナ、僕は結局ここに来ても、何の役にも立てていないと思う。でもニーナは、僕の目の前でさらわれる事態になってしまった。あの日、ベリーを摘むために、あの場所に向かったよね。僕とニーナの二人で。ニーナ一人ではなく、僕と二人だった。これには意味がある。僕はニーナの護衛も兼ねていた。でも……守ることができなかった」
「アンソニー、でもそれは……」
悔しそうな表情で、アンソニーは話を続ける。
「ウィリアム様やクリストファー様は、僕の話を聞いて、『ニーナをさらったのは、とんでもない魔力の持ち主。だから仕方ないことだ』そう言ってくれた。父上、母上、ジェシカ……みんなそう言ってくれた。でも僕の気持ちが収まらなかった。『足手まといにはならないようにするから、連れていって欲しい』とウィリアム様とクリストファー様に頼んだ。父上にも同行したいと懇願し、許可をもらった」
「アンソニーが責任を感じる必要はないわ。何も悪くないのに。それに私のせいで、アンソニーの皆勤賞の記録が……途絶えてしまったわ」
そう。
アンソニーは、コンカドール魔術学園に入学してから、無遅刻無欠席だった。それで一年生の時も、二年生の時も、表彰されている。このまま三年生も無遅刻無欠席でいけば、三年間無遅刻無欠席で、学園から表彰されるはずだった。
「ニーナ、それこそ皆勤賞なんて気にしなくていいよ。皆勤賞よりも、ニーナの方がよっぽど重要だ。それに僕は既にいくつかの賞をもらっている。もう十分だよ」
確かにアンソニーは、試験で何度も学年一位をとっているし、文化祭や体育祭でも活躍している。屋敷のエントランスの棚には、アンソニーが手にした沢山のトロフィーや盾が並んでいる。
「それにしてもニーナ、自分が大変な目にあっていたのに。僕の皆勤賞のことを気にするなんて。お人好しというか、なんというか……」
私を見るアンソニーの碧い瞳に熱がこもり、思わず視線を逸らしてしまう。アンソニーは「しまった!」と思ったのか、慌ててこんなことを話し出す。
「いろいろな賞をもらったけど、今年はきついかな。何せ、ウィリアム様とクリストファー様が同学年だ。どう考えても二人は優秀だからね。ただ、僕も全力を尽くすつもりだよ」
その言葉に、視線をアンソニーに戻すと。
その顔に浮かぶ笑顔は、いつものアンソニーだ。
そしてそうやって笑顔を見せるアンソニーは、やっぱり王子様。
ウィルとクリスがあまりにも魔力が強く、アンソニーが霞んでしまいそうになる。だがあの二人がいなければ、間違いなくブルンデルクで一番は、アンソニーのはずだ。
「アンソニーには、アンソニーの良さがあると思うの。だから王族、大魔法使い見習いのことを意識し過ぎず、アンソニーらしくやっていけばいいと思うわ」
「ありがとう、ニーナ。僕もそう思う。むしろ二人から学んで、自分を成長させたいと思っているよ」
前向きだ。アンソニーは。
さすが未来の辺境伯。頼もしい。
「お待たせ、二人とも。ブルンデルクへ帰ろう」
ウィルの言葉に、アンソニーと私は立ち上がる。
そしてクリスのそばに集合した。
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このあと 12時台に もう1話公開します~
『本当に完璧。大好き、クリス。』をアップします♪
警報発動の兆しが……!

























































