54:理解の域を超えている
落ち着いたところで、廊下の方が騒がしく感じ、扉の方を見ると……。
ウィルとアンソニーが部屋に入って来て、私の姿を見ると、目を丸くして驚く。
二人して同時に「「ニーナ!」」と叫んでいる。
ウィルはクリスと同じ装いで、上衣の色は深緑、ハーレムパンツは涼し気なウォーターグリーン。アンソニーは、落ち着いたスモークブルーのガラベーヤを着ている。襟元の金糸の刺繍が美しい。
まずは再会を喜び合う。そして。
ウィルがお茶を注文し、それが届くと、ローソファに全員で腰をおろす。まずは状況報告を行うことになった。最初に話すよう言われたのは、私だ。
まずは私をさらった人物は、アミルというギリス王国の王族の一人であり、あのアンジェラの子供であること。さらいはしたが、対話により和解し、転移魔法でここに戻って来ることができたと説明した。つまり、追っ手がやってくる危険はないことを示したわけだ。
ならば落ち着いて話せるとなり、そのアミルについて詳しく話して欲しいと、ウィルに言われる。そこで私はアミルについて、さらに詳しく話したのだが……。どうもクリスは、既にアミルのことをかなり知っているようだ。でもウィルとアンソニーはすべて初耳のようで、私が話している間、ずっと驚愕しっぱなしだった。
アミルについてすべて話し終えると……。
「まさかニーナをさらったのが『ギリス王国の気まぐれの魔女』の子供だったとは……。さすがに予想外だった。なあ、クリス」
ウィルに振られたクリスは「そうだね」と頷く。
「アンジェラの子供に関する情報は、一切開示されていない。ただ、子供を産んだことは把握していたよ。でもアンジェラ自身、出産と同時に赤ん坊と離れ離れにされている。当然、成長した子供の姿を見ることもできていない。だからアンジェラの記憶を見ることになった時、子供の姿は、確認できなかった」
お茶を口にしたウィルが、クリスの言葉を受け、話を続ける。
「だがとんでもない魔力の持ち主であることは、クリスも分かっていたのだろう? 何度も追跡魔法で、ニーナが閉じ込められた部屋を確認している。あの部屋に使われている魔法を、すべて解析したのだから」
「追跡魔法でクリスは、私がいた部屋を、確認することができていた。でも転移魔法は……やっぱり難しかったのね」
単純に私は、自分の予想が当たっていた、そんな気持ちで今の言葉を口にしたのだが。
クリスは少し困った表情になってしまい、アンソニーがそれをフォローするように、話し出した。
「クリストファー様は、ニーナのことが、心配で、心配で……。ニーナが起きている間は、ほぼずっと追跡魔法を使っていたんだよ。しかも追跡魔法で、様子を確認しているとバレないように、いくつもの魔法を、同時発動で使っていた。そんなことできるの、クリストファー様だけだよ。魔力消費がとんでもないから。そんな状態で転移魔法を使うのは、さらに難易度が高いことだったと思うよ、ニーナ」
……! ほぼずっといくつもの魔法を同時発動!?
クリスに、とんでもない量の魔力を使わせてしまった。
それはもう本当に、申し訳なく思う。
申し訳ない気持ちになりながらも。
どうしても気になってしまうことがある。
私が起きている間、ずっと追跡魔法を使っていた。
つまり、ほぼほぼずっと、私を見ていた……。
もしやアミルが私に迫るところも、見られている……?
急に心臓が、ドキドキしてきた。
アミルが私を抱きしめたり、キスマークをつけたりするのも……見ていたの……?
背中に汗が伝う。
でもクリスは落ち着いた様子で話をしているので、ひとまず今気になった件は頭の片隅に追いやる。
「アンソニー、フォローしてくれてありがとう。確かに追跡魔法とそれ以外の魔法の同時行使には、多くの魔力を使っていた。でも、転移魔法が使えないわけではなかった。勿論、転移魔法を使うとなると、一筋縄ではいかない。今度は転移魔法と、転移魔法を使っていると悟られないようにするための、各種の魔法、部屋に展開されている諸々の魔法を抑える魔法……つまりさらに複数の魔法を、同時発動することになる」
クリスの言葉に、アンソニーは驚愕している。驚愕するのは……当然だ。転移魔法を、実は使うことができたというのだから。しかも転移魔法を使うために、さらに複数の魔法を同時発動する必要があった。とんでもない数の魔法の同時発動、その上で転移魔法を使う。もうそれは、理解の域を超えている。
一方のクリスは、淡々と話を続けていた。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!!
まさかのアンソニーが同行していたのでした☆
このあと 12時台に もう1話公開します~
本日は更新が多いのであわあわしています(@ @;)

























































