53:甘いため息をついたクリスは。
大変困り切った顔のクリスが、掠れた声で話し始めた。
「ニーナ、その、服を……いや、どうしたものか。ウィル達が戻るのを、待たないといけない。いつもの服だと暑いと思う。でも、その姿は……」
動揺していると思ったライラック色の瞳は、なんだか熱を帯びている。さらに頬の赤みは顔全体に広がり、耳まで赤くなってきていた。
「え……? クリス……?」
クリスは本当に、本当に困っているという顔をしているのだが。でも顔はもう真っ赤に近く、今度は首や胸元あたりまでうっすらとバラ色になってきている。
そうなるともう、なんだかよく分からなくなってきた。
とにかくクリスが艶っぽく見え、思わず色気さえ感じてしまう。
いや、色気とか感じている場合ではないわ、私。
一体、クリスはどうしてしまったの?
まさか具合が悪いのでは!?
「クリス、もしかして体調が優れないのかしら?」
心底心配し、尋ねると。
クリスが不意に私から視線を逸らした。
そのなんとも恥じらうような様子に、とんでもなくドキドキしてしまう。
「いや、具合は悪くないよ、ニーナ。だってようやくニーナと再会できたのだから。会いたくて、会いたくて、気が狂いそうだった」
クリスの言葉に、一気に気持ちが上向く。
私はクリスに釣り合わないのでは?という不安が、瞬時に解消された。
「見慣れていたつもりだった。でも間近で見ると……その、ああ、困ったな、ニーナ。僕はニーナのことが好きだから、どうしても……」
クリスが実に甘いため息をもらした。
ドキッとしてその顔を見上げると。
クリスが目を閉じてしまった。
え、クリス……?
そこでようやく気が付く。
じわじわと、今起きていることを認識する。
その瞬間、クリスと同じぐらい、私の顔は赤くなったと思う。
まさか。
まさか。
でも、さっきの言葉……。
間違い……ない、気がする。
クリスは服について、困惑しているのでは!?
だって、そうだよね、私の現在の服装!
服を着ているようで、着ていないに等しいですよね!
自分の露出高めの装いを思い出した瞬間。
悲鳴をあげそうになり、それを飲み込む。
ここで悲鳴をあげたら、非難の目は、クリスに向けられてしまう。
悲鳴を飲み込むことで、動揺する心を幾分鎮めることができた。
現状認識のため、周囲を改めて見ると。
なんだ。
部屋の中だ。
アミルの部屋と似た雰囲気。
黒い生地に金糸で編まれたアラベスク文様の絨毯、部屋中にベールのように飾られている白や藤色のシースルーの布、その布の向こうに大きな白いベッド、そして観葉植物などが見えている。全体的にオリエンタル雰囲気なところもそっくり。ということは、ここはメリア魔法国ではない。つまり朝食で訪れた市場に近い、けれどアミルから魔力を検知されない砂漠の町の宿。その一室にクリスと自分がいると確認できた。
って、そんなことよりも!
今の私の服と、困り切っているクリスを、なんとかしないといけない!! それにウィル達が戻って来ると言っていたから、他の誰かもいるということだ。ウィルはもちろん、他の誰かにも、こんな姿を見せるわけにはいかない。
「クリス、腕をはなしてもらってもいい?」
「うん。分かったよ、ニーナ」
まるでガラス細工を扱うような優しさで、クリスが私からはなれる。クリスのこの気遣いは、いつだって完璧だ。
改めて自分が着ている衣装を確認する。
もうビキニの水着も同然。
何よりもハーレムパンツの透け透け度合いに、ため息をつく。
チラリとクリスを見ると、同じハーレムパンツをはいているが、当然透けていないし、色は藤色だ。ちなみにクリスのすぐそばに、銀狼がいる。ミルキーはとっくに私の肩からジャンプして、銀狼の背中に乗り移っていた。
さてと。
服はどうしたものか。
ここは砂漠の町の宿の部屋だ。
着慣れたドレスでは暑すぎる。
うーん。
そうだ!
この白のハーレムパンツを、透けていない素材に変えればいい。そしてトップスは……。確か砂漠の民の衣装で、ガレーベヤというのがある。あれをウエスト丈にしてチュニック風にして着れば……。素材も透けないものにして。
というわけで、様々な魔法を駆使すること五分。
クリスはその間、私に背を向け待ってくれている。
黒い森の温泉の時といい、クリスは本当に紳士だ。
アミルはクリスが手を出さないことをバカにしたが。
そんなことは断じてない。
大切にしてくれているのだ、クリスは私のことを。
そんなこんなで衣装を変えることができた。
良し!
これで大丈夫だろう。
いや、まだだ。
一応、あれは見えないよう、反射魔法をかけよう。
アミルがつけたキスマーク。
これを見たらクリスは絶対に悲しむ。
反射魔法をかけ終えると。部屋にあった姿見で確認する。
問題なし。
クリスに声をかけた。
「クリス、もう平気。問題ないわ」
振り返ったクリスは……。
「ニーナ!」
私の露出がなくなったことを確認し、安堵の表情になる。
しかし安堵の表情はほんの一瞬。
すぐに喜びの表情となり、そして……。
改めてという感じで、私を抱きしめる。
クリスの肌の露出は当然気になるし、それどころか実際に触れると、途端に心臓が大騒ぎになる。肌はほんとすべすべで気持ちいいし、体温もほどよく、抱きしめられても暑苦しく感じない。
心臓はとんでもなく反応しているが。
それを落ち着けるよりも。
クリスと再会できたのだ。
その喜びを存分に味わいたい。
その結果しばらくは、ただ無言で何度も抱きしめ合い、お互いの存在を確認しあった。さらに「ニーナ」と甘く囁くクリスに頬を包まれ……。
何度もキスをして、想いを交わし合った。
お読みいただき、ありがとうございます!
甘々警報発動中(*/▽\*)
あー、この話、漫画で読みたいなー。
前話のクリスもそうだけど。
恥じらうクリスの顔が絵でみたいぃぃぃぃ!
そう読者様も思いませんか?
次回、ウィルとある人物が部屋に帰ってきます!
そしてプチサプライズ☆
明日、11時台の更新でお会いしましょう~
【お知らせ】
>>まさかの続編スタート<<
『断罪終了後に悪役令嬢だったと気付きました!
既に詰んだ後ですが、これ以上どうしろと……!?』
https://ncode.syosetu.com/n8030ib/
SSを用意しようとしたら、結構長くなりそう……。
ということで続編開始決定☆
本作をお読みいただいていた読者様。
よかったら4月29日(土)の12時台の更新を
ご確認くださいませ~

























































