52:クリスのことを想い……
アミルの考えが変わる前に帰ろう!
ミルキーを、しっかりと肩にのせた。
改めて左手を持ち上げる。
薬指には、クリスの瞳と同じライラック色の宝石とダイヤモンドが埋め込まれた、婚約指輪が輝いている。
クリスのことを想い、指輪に口づけをすると……。
「ニーナ、帰っておいで。僕の元に」
「! クリス!?」
思わず周囲を見回すが、クリスの姿はない。
でも大好きなクリスの声が聞こえた。
それだけで胸がいっぱいになり、涙もでそうになる。
「!」
眩しい!!
驚いて足元を見ると。
紋章を出し、魔法の詠唱を私はしていない。
でも足元には、とんでもない輝きを放つ円陣が出現している。
「なんだ、この強い輝きと魔力は!?」
アミルの叫び声が聞こえる。
なんとか床を見ると、そこに展開されているのは……。
円陣……ではない。こんな形、見たことがない。
七色に輝く、花びらの形のような幾何学模様が展開されている。
「な、なんだ、この形は!?」
今度はアミルの驚嘆する声が、遠くに聞こえる。
円陣の輝きはどんどん増していた。
もう目は開いていられない。
遂に目を閉じると、再びクリスの声が聞こえた。
そう、魔法を詠唱する時の凛とした声が。
「転移魔法展開 座標指定
クリストファー・ウィルヘルム・リーヴスへの元へ
<特殊陣形>」
「特殊陣形!?」
アミルの声が短く聞こえた次の瞬間。
七色に輝く花吹雪の中に、体が包まれた。
瞬きをして、目を開けると。
「おかえり、ニーナ」
私の体はクリスの腕に、抱きかかえられていた。
◇
込められた腕の力。
透明感のある清楚な香り。
肌から感じるぬくもり。
これは間違いない。
「クリス!」
感無量で、その首に両腕を絡める。
「ニーナ!」
帰って来られた!
クリスに会えた!!
喜び、安心、感涙。
嬉しさ、安堵、感動。
もうとにかく胸がいっぱいになり、声も出ない。
ただただ強く、クリスに抱きついていた。
クリスはそのまま私の体を床に降ろすと、私以上に強い力でぎゅっと抱きしめる。
「ニーナ、会いたかったよ……」
「私もずっと、クリスに会いたかった……」
ようやく会えた。
夢ではない。
本当にクリスだ!
アミルの部屋では何度となく、クリスがいるのでは?と勘違いし、クリスのことを夢で見た。その度にそれがアミルであると分かり、残念に感じていた。
でもこれは正真正銘のクリスだ。
間違いない。
再び大きく呼吸し、クリスの素敵な香りで胸を満たす。
クリスの胸の中にいると実感でき、心が歓喜していた。
「心配したよ。ニーナ。合図は送ったのに、なかなか戻って来なかったから」
「ごめんなさい、クリス」
そう言って、絡めていた腕の力を弱め、クリスの顔を見上げる。
顔を見ると同時に、クリスの上半身が目に飛び込んできたのだが。
驚きで固まる。
クリスはアミルと同じ、丈の短い襟の立っているベストのようなものを着ていた。色は青紫色で、銀糸でパルメット模様が刺繍されている。それはとても上品で、クリスにピッタリなのだが。
肌が……。
とても肌が露出している!!
そう言えばいつもよりクリスの体温を感じたと思ったが……。
感動の再会で心臓は、嬉しさでドキドキしていた。
でも今、クリスの裸にも近い上半身を見て、心臓は大きく脈打ち、とんでもない速度で鼓動を始めている。当然、血流はよくなり、全身が急激に熱くなってきた。
クリスの肌がそんなに露出しているのを見るのは、もちろん初めてだった。
そんなジロジロと見てはいけないと分かっているが、目が離せない。
なぜなら……。
その肌が白磁のようにすべすべであることは知っていた。
でもこんなに素晴らしい体をしているなんて……。
胸筋の引き締まりが見てとれたし、腹筋の割れ目も見えている。肩や上腕の筋肉も、彫像のような美しさだ。しかも贅肉がどこにもない。
これはまさに……。
究極の細マッチョの完成形が、ここにある!
もはやドキドキするのではなく、芸術的なまでの完璧さに、息を飲んで見入ってしまう。
多分、国宝級の芸術作品を目の当たりにしたり、世界遺産の建造物を目の前にしたら、こうやってガン見すると思うのです。今はもはやそんな心境。すごい。人間の体って究極的な完成形になると、こんなにも美しい姿になれるのね。
畏怖の念さえ感じながらその姿を見つめる。
クリスは公式のお墨付きで、既に魔力最強、頭脳明晰、運動神経抜群、容姿端麗、性格最高だった。それなのに最近は、料理上手であることも判明し、さらに脱いでもスゴイが加わってしまった……。
そう認識すると。
なんだか焦燥感がこみ上げる。
ど、どうしよう。
クリスがどんどんパーフェクトヒューマンに近づく一方で、私はどうなのだろうか?
本当にクリスの婚約者は、私でいいの……?
ここまですごいのだ。
そしてこの世界には、私なんかより容姿や魔力ともに優れた女性は沢山いる気がする。
クリスと私では釣り合いがとれないのではないか。
不意に心配になり、クリスを見ると……。
形の整ったが眉毛が八の字になっていた。
ライラック色の瞳が動揺を隠し切れずにいる。
その一方で頬はかなり赤くなっていた。
口はキュッと結ばれ、そして全体として「どうしたものか」というオーラが感じられる。
え、これって……。
大変困り切っている。
うん、これはものすごく困惑しているよね?
……!
やっぱりクリスも、私なんかじゃダメだと思っているのでは!?
料理はろくにできないし、学校の成績もずば抜けていいわけではない。ジェシカみたいな輝くようなブロンドの巻き毛ではなく、ユーリアみたいな妖艶さも私にはなかった。
やっぱり、私ではクリスに釣り合わない……。
大声で泣きたくなったが。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!!
ようやくクリスと再会!
でもクリスの上半身裸にも近い姿に大混乱のニーナは……。
このあと 12時台に もう1話公開します~
【御礼】
ブックマーク登録いただいた読者様。
いいね!していただいた読者様。
誤字脱字報告をしてくださった読者様。
応援、ありがとうございますo(⁎˃ᴗ˂⁎)o
月間 恋愛異世界転生/転移ランキングBEST300
44位にランクアップ↑↑↑
読者様の応援に心から感謝です。
ありがとうございます!

























































