42:いけるか、いけるだろうか。
いろいろこじらせているアミルに。
私はきちんと伝えなければならないと思った。
「アミル、辛い過去を思い切って私に話してくれてありがとう。今の話を聞いて、私の中のアミルに対する見方が変わったわ。ただ……」
「何、ニーナ?」
いまだ、アミルの瞳はキラキラしている。
ま、眩しい……。
つい流されそうになる心を鬼にして、話を続ける。
「アミルは今、これまで自分の中で作り上げた価値観を変えようとしている。そのきっかけは、私だったかもしれない。でも、その価値観を変える決断をするのは、アミル、あなた自身なの。その決断に、私を加えてはいけないわ」
アミルが不思議そうな顔で、私を見ている。
だから私は、言葉を重ねる。
「自分の存在意義のため、自分より魔力が強い人がいたら、魔力を奪う。それは止めた方がいいとニーナが言った。だから、ニーナがそう言うなら、自分の価値観を変えよう――それではダメなの。それは違うわ」
では何だという顔を、アミルはしている。
答えを提示するため、口を開く。
「自分の存在意義のため、自分より魔力が強い人がいたら、魔力を奪う。でもそれは正しい行いではないと、ニーナによって気付かされた。これから自分はどうすればいいのか。これまでの価値観のまま生きていくのか。それとも価値観を改めるのか。決断をするのは、アミル自身。そこにニーナは関係ないのよ」
とても寂しそうな顔を、アミルはしているが。
でもこれは、きちんと伝えないといけない。
「なぜなら、アミル。価値観を変えても変えなくても、その後を生きていくのは、あなた自身だから。そこに他者を巻き込んではダメ。だってアミルの人生なのだから。どちらの価値観で生きていくか、決めるのはアミル。その決断の責任も、アミルにある。それは分かってくれる?」
分かってくれと期待を込め、アミルを見る。
アミルはしばらく考え込む。
そしてゆっくり口を開く。
「オレの人生……。これまでの価値観で生きていくのもオレ。新しい価値観で生きていくのもオレ……。これまでの価値観で生きていくと、決断するのもオレ。新しい価値観で生きていくと、決断するのもオレ……。誰でもない、オレ自身の決断。その責任は、オレ自身にある。そうか……。うん、そうだと思う。ニーナの言う通りだ!」
思いっきり安堵する。
アミルが素直で良かった!
後は気づきを促し、決断できる状態まで持っていければ……。
「誰かの魔力を、アミルの自由で奪うことが、なぜ間違っているのか? それはね、アミルには、アミルの人生があるように、その相手にも、その相手の人生があるからよ。アミルだって、自分の人生を踏みにじられたら、嫌な気分になるでしょう。実際アミルは、王族の人達によって、人生をめちゃくちゃにされてしまった。でもね、だからって自分が嫌な気持ちになったことを、誰かにするのは止めた方がいいわ。そんなことをしても、ただ敵を作るだけで、自分の気持ちだって晴れることはないと思うの」
アミルはぐっと自身の唇をかむ。
きっと思い当たることがあるのだろう。
「魔力を奪った王族の人達のことも、ずっと忘れることができないでしょう? アミルは根が悪い人ではないのだから。気になっているはずよ。どこかで間違ったことをしたと、思っているのでは?」
「……なんで、なんでそんなことが分かるんだ、ニーナ?」
アミルは心底驚いたという顔で、私を見る。
正直、これが分かったのは、私が悪役令嬢として転生したからだ。
なぜ悪役令嬢ニーナが、最後に断罪されるのか。
その理由を考えたら、自ずと何がいけないことか、分かった。
誰かを陥れたり、いじめたり、嫌がらせをしたりしてはいけないと。
自分の身分や美貌や魔力の強さを鼻にかけてはいけないと。
そんなことをしてもただ敵を作るだけ。そして気持ちは晴れることはないと。
「まあ、私自身がそういう心がけで生きてきたから」
「……ニーナ、尊敬するよ」
!
これはいい兆し!
アミルの瞳が、これまでとは違う意味で、輝いている。
「アミル、それよ、それ! アミルの周りには、アミルを導いてくれる大人がこれまでいなかった。でもね、今、私が言ったようなことは、アミルの両親や弟や親戚とか、友達とか、学校の先生とかが教えてくれることなの。アミルは……きっと学校も行っていないのよね?」
アミルはこくりと頷く。
……これは本当に、ヒドイ話だ。
この部屋にある沢山の本。
きっとアミルはこの本で、必死に魔法やら何やらを学んだのだろう。
自力で6歳から今の今まで一人で生きてきた。
これは本当に立派だと思う。
「きっと私は、アミルにとって、人生の先生、師だと思うの。人生で大切なことを、気づかせてくれる存在。先生や師に対しては、尊敬の念を持つものなのよ。アミルは私を尊敬しているのでしょう? だから私は、アミルにとって、人生の師。そう思わない?」
「人生の師……。なるほど」
いけるか、いけるだろうか。
少し強引かもしれないが、ここは一気に畳みかけよう。
なんだかアミルの説得がうまくいきそうな予感!
続けて 13時迄に もう1話公開します~

























































