31:気ままな一人暮らし?
バスルームに入って驚いた。
召使いもいないから、お湯の準備をしなければならないと思ったのだが。
猫足のバスタブには、たっぷりのお湯が湯気をあげていた。面倒な準備なしで入浴できるにこしたことはない。
早速服を脱ぐ。
脱ぐといってもホント、服を着ていないも同然なので。
ドレスと違い、あっという間に入浴できる状態になった。
ということで、湯船に入りながら改めていろいろ考える。
きっとこのバスタブのお湯も魔法で満たしたのだろう。
ギリス王国の王族って、魔力がこんなにも強いのか。
まず部屋自体に、アミルしか魔法を使えないという魔法がかけられている。これは特殊な魔法だろうし、魔力の消費は相当だと思う。そして細かいところでは、あのベッドのそばに置かれている水、自動で灯るランプ、そしてこのバスタブのお湯。
こんなに日常的に魔力を使ったら……。
常に甘いものを食べ、何度も眠るなどして、休息をとらないと、やっていけないのではないか。
そう思ってしまうが。
アミルは普段、あの満腹感をもたらす水しか飲んでいないというし、それに眠そうな気配もない。
恐るべし、ギリス王国の王族。
しかし。
アミルは魔力暴走を起こしたことがあると言っていた。
魔力は強すぎても、制御が難しい。
今見る限りでは、魔力のコントロールに問題はないように思えるが……。
一体どんな状況で、暴走してしまったのだろう?
怪我人まで出ているとは……。
でも怪我人で済んだのは、不幸中の幸いだろう。
アミルのあの魔力が暴走したのなら、死者が出てもおかしくないはずだ。
それにしても。
バスタブの淵に腕をのせ、その腕に顔をのせる。
ミルキーが洗面台のところをウロウロしているのが見え、頬が緩む。
ミルキーを眺めながら、アミルの置かれた状況を考える。
魔力が暴走したのは……不運な事故だろう。
魔力暴走は、子供で起きることが多い。すると親はすぐに、魔力を抑える魔法を子供にかける。それで落ち着くのが普通。魔力暴走を起こしたからと、幽閉するなんて聞いたことがない。
……でも、そうするしかないぐらい、アミルの魔力は強く、危険だったのだろう。
そうだとしても。
砂漠の真ん中に一人ぼっちの状態で幽閉するって……。
確かに再び魔力が暴走しても、周囲には砂しかない。
怪我人は出ないだろう。
でもアミルは、仮にも王族の一人。
あまりにも冷たい扱いではないか。
ギリス王国にも、大魔法使いに当たる大魔術師がいると、授業で習っている。その大魔術師で、アミルの魔力を抑えることは、できなかったのだろうか?
ぽちゃん。
水滴が湯船に落ちる。
アミルが消え、この部屋に一人きりになった時。
このままここにずっと閉じ込められたらと、絶望的な気持ちになった。でもアミルは魔力が強いから、幽閉されても、自由に気ままにあちこち行ける。だからこんな気持ちにならなかったかもしれない。
そうだったとしても、どう考えても理不尽な状況だと思う。アミルがそれを許容しているのも謎だ。だが見方を変えると……。誰にも束縛されない、気軽な一人暮らしを満喫している……そんな感じなのだろうか……?
もしアミルのように強い魔力があり、どこへでも転移できる魔法を使えるとして。砂漠のど真ん中で、気ままな一人暮らしをする……いや、私には耐えられない。クリスと一緒にいたいし、ウィルやジェシカ、アンソニー……みんなといたい。
そこでふと気づく。
クリスもきっと銀狼の姿で黒い森に閉じ込められた時、同じように不安になったのではないか。クリスは間違いなく、私のことが大好きだった。でもあの黒い森から出られない。人の姿に戻れない。しかも私からは自身に関する記憶を消している。私が誰かと恋に落ちる可能性を考え、苦しかったのではないか。
あ、でも、私、その時は魔力も弱く、眼鏡っ子だったから。
いや、クリスには、そんなこと関係ないだろう。きっとクリスなら「魔力が弱かろうが、眼鏡をかけていようが、そんなこと関係ないよ。ニーナのことを好きになる男性が現れるのでは? そう考えて毎日のように心配していたよ」こんな風に言いそうだ。
クリス……。
会いたいよ。
クリスを想い、切ない気持ちになってしまう。
ということで本日の更新はここまでです。
明日は「ハムハムハム」を 11時台 に公開です。
ハムハムと言えばミルキー。
ミルキー、どうした……?
それでは引き続きよろしくお願いいたします!

























































