27:可愛らしい響きだ
食事を用意したいと思う者がいない。
それはつまり……。
「その、食事を用意してくれる召使いも、いないのですね。この建物には」
「ああ、いない。……建物、か。この部屋以外、何もないが」
この部屋以外、何もない!?
ということは、あの扉の外は、そのまま屋外……?
というか、ここは王宮ではないのね。
「そ、そうなのですね。でもこの部屋以外に、外には建物があるのでは? そこには召使いが」
「召使いはいない。他の建物もない。ここは砂漠のど真ん中だ」
とんでもない情報がもたらされた。
砂漠のど真ん中……!?
必死で頭の中で、ギリス王国の地図を展開する。
メリア魔法国は南北に国土が伸びているが、ギリス王国は東西に長い国だ。メリア魔法国と国境を接する場所に砂漠はないが、東南の方に、確か大きな砂漠があったはずだ。もし、その砂漠にいるなら……。
ブルンデルクは、とんでもなく遠い。
本当に、転移したの、私?
クリスは破格の魔力で、十の陣形を使っていた。
この眉目秀麗男子なら、十の陣形も使えそうだ。
それでも。そうであっても。
十の陣形で、転移できる距離なのだろうか……?
「食べないのか?」
「い、いただきます!」
とりあえず目の前にあったサラダを、自分の取り皿にのせる。
これは……レタスやキャベツではない。何?
食べて驚く。
これはパセリ!
刻んだパセリ、トマト、玉ねぎ、あとは麦? それにオリーブオイルにレモン汁、味はシンプルに塩味で、そしてこの清涼感。ミントの葉も混じっている。
こんな料理、前世でも、ブルンデルクでも食べたことがない。
でもサッパリして美味しい。
ここが砂漠であるならば……。この風味はすごく合うかも。
「口に合うか?」
「あ、はい。初めて食べましたが、美味しいです」
「これも食べてみろ」
そう言われたミートボールのようなものは……。
肉かと思ったが、違う。
これは……。
「それはひょこ豆に、にんにくや玉ねぎを加え、揚げたものだ」
なるほど。コロッケみたいだ。かかっているココナッツソースみたいな白いソースは、酸味があってよく合っている。
その後もすすめられるままに、料理を食べた。
「……久しぶりに固形物を食べたな」
その言葉に、思わず笑ってしまう。
「お前がいたからか。存外にうまく感じた」
それは……そうだろう。
一人で食事をするより、誰かと食事をした方が断然楽しいと、私は思っている。
それにしても。
王宮に閉じ込められ、部屋には眉目秀麗男子一人、かと思った。でもここは王宮ではなく、砂漠。
いったいどういう事情で、ここにいるのだろう?
いろいろ聞きたいが、焦ってはいけない。
情報を探っていると、バレないようにしないと。
「料理を作ってくれる人もいない。一緒に食べる人もいない。だからあの水を食事代わりに?」
「そういうことだ」
なぜ召使いがいないのだろう? なぜ一人なのだろう?
尋ねたいが、この質問は、リスキーな気がする。
だから……。
「誰もいないとなると、名前を呼ばれることもないのでは? でもこうやって一緒に食事もしたのですから、お名前を教えていただけませんか?」
「そうだな。まだ名乗りもしていなかったか。オレはアミル・A・セルジュークだ。アミルと呼んでくれ」
セルジューク……。
セルジュ……
え、セ、セルジューク!?
セ、セルジュークって……。
動揺が顔に出ないよう、目の前のデザートらしきものに手を伸ばす。
パニックになるのは、アミルがいなくなってからにしよう。
「お前の名は?」
そうだ。
人の名前を聞いておいて、自分が名乗らないとは。
名乗らずに、図々しくもデザートに手を伸ばすなんて……。
伯爵令嬢失格である。
伸ばしかけた手をひっこめ、深呼吸をする。
「私の名前は、ニーナ・コンスタンティ・ノヴァです。ノヴァ伯爵家の長女です」
「ニーナか。……可愛らしい響きだ。ニーナ……」
アミルは嬉しそうに私の名を呟く。
その表情はなんだか子供っぽく、調子が狂う。
だが。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
この投稿を新たに見つけていただけた方も、ありがとうございます!!
だが。……一体何があったのでしょう!?
その答えは……このあと 12時台に明らかに!
次話「この指輪はいらない」で解明します。
って、指輪がいらないってどういうことでしょうか!?
指輪ってまさか、あの大切な……!?
続きをお楽しみに!

























































