26:とてもいい香りがする
え、いつの間に!?
なんの気配もなく、突然現れた眉目秀麗男子に、ただただ驚き、フリーズする。
「オレがお前のことを、全身全霊で愛する。その指輪の男のことは、忘れろ」
耳元で囁くと、さらにぎゅっと抱きしめられる。
そこで我に返り、必死にその腕の中から逃れようとする。
「やめて、はなして!」
振りほどこうとするが、まったく無駄だ。
むしろ動くことで、眉目秀麗男子の腕が、体のあちこちに触れ、それに……。
お互い、服を着ているようで着ていないような、露出の多い状態。いやでも眉目秀麗男子の体温を、背中やあちこちで感じてしまう。
さらに。
「とてもいい香りがする。女って……こんなに柔らかく、温かく、いい香りがするのか」
そんなことを言われ、全身がかーっと火照る。
クリス以外からこんな言葉を言われたくない!
思いっきり暴れようとしたが。
力では敵わない。
だったら……。
全身の力を抜いた。
背後から、驚く気配が感じられる。
「……お願いします。離してください」
冷静に告げると、ゆっくり腕がほどかれる。
心底安堵する。
それに眉目秀麗男子の体が、離れていくのも分かった。
慎重にベッドから起き上がる。
振りかえると、眉目秀麗男子は、ローソファのあるテーブルの方へ移動していた。よく見るとテーブルには、紙袋がいくつか置かれている。
眉目秀麗男子は、そのままどかっとローソファに腰をおろすと、私を見た。ルビー色の瞳の輝きに、意志の強さが現れている。
我が強そうなのに、さっきはよく解放してくれたと、驚かずにはいられない。
「こっちへ来いよ」
無視しようと思ったが。
離してくださいと丁寧に頼んだら、離してくれた。
礼儀をわきまえれば、紳士的な態度をとってくれるのかもしれない。
ミルキーを肩にのせ、テーブルの方へ向かうと。
それは、瞬きをしたほんの一瞬のこと。
テーブルには美味しそうな料理が並んでいる。
ピザのような具沢山のパン、山盛りのサラダ、ミートボールのような肉料理、白いふわふわのグラタンのようなものもある。
あの紙袋の中にあったものを、魔法で瞬時にお皿の上に並べたのだ。多分。
テーブルに近づくと、美味しそうな香りに、再びお腹が鳴りそうになり、なんとか呼吸を繰り返して、静める。
「……昼飯を食べたのか、聞かなかった。お腹、空いていたのでは?」
眉目秀麗男子はそう言いながら、隣に座るよう促す。
少し距離をとり、ローソファ―に腰をおろす。
「その……勝手にすみません。ベッドの横のテーブルにあった水を飲みました」
すると眉目秀麗男子は「ああ」という顔をする。
「飲んでもらって構わない。減っても勝手に増えるから。オレはあの水で栄養と水分をとるのに慣れているが、お前は普通に三食とっているのだろう? だから食事は、ちゃんと用意する」
気づくと眉目秀麗男子の足元には、守護霊獣のブルーの毛並みの猫、プラジュの姿があった。
「ありがとうございます。……その、あなたはあの水だけで、満足なのですか?」
すると眉目秀麗男子は、フッと笑う。
その笑みはなんだか自虐的で、痛々しく感じる。
「オレのために食事を用意したいと思う者なんて、いないだろうからな」
「えっ……」
この眉目秀麗男子は、『奇跡の子』ではないの?
王宮で手厚く育てられたわけではないの?
よく考えると、この男子のことは、何も分からない。
『奇跡の子』というのも、私の推測に過ぎない。
ならば聞くしかない。
そしてこの部屋や場所の情報を探ろう。
ここから逃げ出すために。
本日はここまでですが、明日は……
「可愛らしい響きだ」を
11時台 に公開します!!
眉目秀麗男子が自虐的な言葉が意味することは……?
引き続き明日もよろしくお願いいたします!


























































