11:苺のタルトと猫の件
「これぐらいでいいか、ジェシカ?」
アンソニーが尋ねると。
籠いっぱいの果実を見て、ジェシカは頷く。
「ええ。本当はタルトを作りたいのですが、野外ではさすがに……。時間もかかってしまうわ。この果実は絞って、フレッシュジュースにしましょう」
ジェシカは、私がアンジェラにさらわれたあの日。見た目も味も完璧な苺のタルトを作り上げていた。でも私がさらわれたせいで、ウィルはタルトを食べているどころではなかった。
結局そのタルトは、自身とアンソニーとウィンスレット辺境伯夫人と、食べたようなのだが。
私のせいで、せっかくの手作りタルトを、ウィルに食べてもらう機会を逸してしまった。次の週末には、お茶会を提案し、そこでジェシカと一緒にタルトを作り、みんなに振舞おう。
そんなことを考えながら、ジェシカとアンソニーの方へ歩み寄った時だった。
「ジジッ」
ポケットの中のミルキーが顔を出し、威嚇するような声で鳴いた。
どうしたのかと思い、周囲を見ると。
紫色のクロカッスの花が咲く場所に、美しい猫がいた。
珍しい、ブルーの毛並みをしている。
瞳の色は、目が覚めるようなターコイズブルー。
「ねえ、ジェシカ、アンソニー、見て! 珍しい猫がいるわ」
既に泉の方へ向かい、歩き出していた二人が立ち止まり、こちらを振り返る。すぐにブルーの毛並みの猫を見つけ、驚きの声をあげた。
「まあ、本当に。珍しい毛色。そしてなんて綺麗な瞳の色をしているのかしら」
「これはただの猫ではないね。きっと守護霊獣だろう」
ジェシカは美しい猫を絶賛し、アンソニーは猫の正体を指摘する。私は二人に尋ねた。
「明日、銀狼が呼びかけたら、やってくるかしら?」
「ええ、きっと来ると思いますわ」
「うん。今日だけでも、とても多くの守護霊獣が集まった。魔力は無限ではないから、すべての保護ができたわけではない。だが明日には終わるとウィリアムさまも言っている。きっと保護漏れがないか、確認はされるだろう。大丈夫だよ、ニーナ」
アンソニーがいつもの王子様スマイルになる。
ウィルが離れに滞在するようになってから。アンソニーは、ウィルとクリスと一緒に、毎朝ウィンスレット辺境伯から武術の訓練を受けている。そして宿題の後の夕食までの時間、寝るまでの時間を使い、ウィルと話していることも多い。どうやらアンソニーは、ウィルからいろいろ教えを請うているようだ。ウィルは同級生なのに、アンソニーは師のように尊敬し、信頼している。その関係は、まるでクリスとウィルみたいだ。
ウィルは王太子ではないから、国王になることはない。でもウィルが国王になることがあれば、アンソニーは未来の辺境伯として、心から忠誠を誓うだろうと思えた。
そんなことを思いながら、再び先ほどのブルーの猫がいた方を見ると……。猫は丁度長い尻尾をこちらに向け、クロカッスの花の茂みの中へ入って行くところだった。
明日、また会おうね。
ちゃんと召喚者の元に返してあげるから。
心の中でブルーの猫に声をかけ、ジェシカとアンソニーの後を追った。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
次回は「久々に見たあの夢」ともう1話
合計2話を公開します。
1話目は、明日、11時台に公開します。
それでは引き続きよろしくお願いいたします!!

























































