7:なんて甘い笑顔
あ……。
なんて甘い笑顔……。
せっかく戻った全身の力が、瞬時に抜けてしまう。
「ニーナ、あの水たまりは、僕ではないからね。木の根については……うん。ちょっと魔法を使ったかな」
クスリと笑う、その笑顔も堪らない。
もう、どうしたらいいのだろう。
クリスの笑顔に耐性をつけないと、本当にヤバイです。
でも、どうやったら耐性がつくの!?
そんなことを思っていたら。
「さあ、到着だよ、ニーナ」
結局、水たまりはとっくに通り過ぎたのに。
目的地に到着してしまった。
結構な距離だったのに。
抱き上げられたまま、目的地に着いていた。
森の中だから、整備された道があるわけではない。
それこそ根が突然飛び出ているような場所もあれば、ちょっと大きな岩が転がっていたりもする。
クリスはそんなところも難なく私を抱きかかえて通り過ぎ、ここに到着している。いくら騎士の訓練を受けたとはいえ、その体力には脱帽してしまう。
マジパラのクリスの設定は、魔力の強さのみならず、頭脳明晰、運動神経抜群、容姿端麗、性格最高と非の打ち所のないパーフェクトヒューマン!! この設定がそのままであることを噛みしめる。そしてそんなクリスに愛されている自分に、感動してしまう。
「ここは確かに見渡しがいい。守護霊獣を集めるには、最適だな」
声に振り返ると、ウィルがジェシカをゆっくり地面におろしながら、言葉を発していた。
ウィルもまた、ジェシカを抱きかかえたまま、ここまで来たということ!?
いや、そうなのだろう。
さすがクリスに憧れていたウィルだけある。
クリスのようになりたいと、ウィルは体を鍛えたに違いない。
そう、私は予想していた。
そしてこれは正解だったと実感する。
「ウィリアムさまも、クリストファーさまも、共に体力がすごいね。ここに辿り着くまでの道は……道なんてないけれど、それなりに傾斜があった。それなのにジェシカとニーナをそれぞれ抱きかかえたまま登りきるなんて……。僕ももっと鍛えないとダメだな」
魔法騎士達とこの場所に到達したアンソニーが、この後の進め方について話すウィルとクリスを見て、目を丸くしている。するとこちらへ駆け寄ったジェシカが、頬赤らめ話し出す。
「私、何度も『おろしていただいて構わないのですよ』と申し上げたのです。でもウィリアムさまは、『ジェシカは紙みたいに軽いから』とおっしゃられて……。私、もう気絶するかと思いましたわ」
王都から戻ったウィルは、なんだかんだでジェシカといい感じだと思う。もちろん、いきなり恋愛関係になるとは思えない。それでもまずは友達として仲良くなり、次第にその仲が深まっていくといいな、と思える。
何より。
王都で見かけたヒロインのユーリアは。
自分が操作し、プレイしたユーリアとは、まったくの別人に思えた。ユーリアと言えば、清楚で、攻略対象を決めたら、一直線に突き進むタイプだったはずなのに。舞踏会で着ていた黒いドレスといい、色気満点で妖艶で、マジパラのイメージと全く違っている。それにウィルとフランシス王太子を天秤にかけ、筆頭公爵家のグレッグとも急接近していたと聞くと、どうも気が多いように思える。
そんなユーリアとウィルが恋人同士の姿なんて、想像できない。ユーリアなんかより、ジェシカと一緒にいるウィルの方が、断然らしいと思う。
だから。
このままジェシカとウィルが少しずつ距離を縮めていけるといいなと、しみじみ思ってしまうのだ。
「アンソニー、ジェシカ、ニーナ、こっちへ来てもらえるか? 魔法騎士のみんなも、こっちへ来てくれ」
クリスと話しを終えたウィルが、皆に集合の合図を送った。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
次回は「守護霊獣の保護活動」ともう1話
合計2話を公開します。
1話目は、明日、11時台に公開します。
それでは引き続きよろしくお願いいたします!!