10:えええええええええええ。
「ごめん。急に腕を掴んでしまった。でも、ちょっと待ってよ。どういうことだ?」
私のことを抱きとめた男子は、真剣な表情で私の瞳を見ている。
「この魔力の痕跡。まさか……」
ちょっと待ってはこちらのセリフ。
22歳でこの世界に転生した私ですが、いわゆる喪女、彼氏いない歴=年齢ですから。
こんなハンサム男子に対する耐性はない……。
もちろん、アンソニーのおかげでイケメン耐性ゼロではないが、この距離の近さは……。
昨晩、アンソニーと額と額を触れ合う形になった。だがあの時、驚きはしたが、ドキドキすることはなかった。それはアンソニーが家族同然だからで、見知らぬハンサム男子にこんなことをされれば……。当然、心臓はフルスロットル。
「君、名前は? ブルンデルクにずっと住んでいるの? 今、何歳?」
矢継ぎ早の質問に目が丸くなる。
「すまない。遅刻しちゃうな。失礼して、抱き上げてもいい?」
「え!?」
私が驚いている間に、ハンサム男子は風魔法を唱える。
「遅刻しないために、御身を抱き上げさせてもらう」
「え、いえ、でも、その」
「それとも遅刻する?」
「そ、それは困ります」
そこでクスリと微笑んだハンサム男子は、私をお姫様抱っこして、一気に跳躍した。
「う、嘘!?」
「驚いた? でも君だって本来、これぐらいできるはずだ」
嘘、嘘、嘘。
できるわけがない。
これ、空を飛んでいるに等しい状態だから。
そんなことができる魔力、ないですから。
風魔法を使い、風の抵抗を極力減らし、足裏に思いっきり風を集め、地面を蹴る。そして前進し、再び地面に足が着くと、足裏に風を集め、地面を蹴る。
この繰り返しなのだが、一度の蹴りで飛行している時間が長く、まるで空を飛んでいるみたいだ。
こんなことできるって只者ではない。
どう考えても成績上位者。
学園内で有名人だろうに、知らない……。
あ、新入生なのか。
2年生や3年生なら文化祭や体育祭で活躍しているはずだから、知らないわけがない。こんなに魔力が強いと、すぐに学園内で有名人になりそうだ。
それに私のことをこうも軽々抱き上げるなんて……。
見た目から感じていたが、背中に感じる腕の筋肉といい、ちゃんと訓練をして体を鍛えていると分かる。朝からこんなハンサム男子に抱き上げられ、感無量になってしまう。
そうこうしているうちに校舎に到着した。
走っていたら、ギリギリセーフだが、ハンサム男子のおかげで、始業開始10分前に到着できた。
東門から入ると、そこは教職員専用の出入り口につく。生徒は正門から辿り着く昇降口へ回り込んで、校舎へ入る必要があるのだが。
教職員専用の出入り口に、数名の大人の姿が見える。
少し手前で降ろされ、並んで歩く形になった私に、ハンサム男子が話しかける。
「昼休み、一緒にお昼を食べないか? 君と話をしたい」
「え、なんで急にそんな……」
さっきも突然、年齢や名前などを矢継ぎ早に聞かれたが、一体なぜ私のことを知りたがるのだろう? それに魔力が封じられているとか、瞳が厄介なことになっているとか、言い出していた。
一体どういうこと……?
ただしイケメンに限るという言葉が、前世では流行ったことがある。イケメンだったら何をしても許される、ということを表現しているのだが。確かに隣を歩くのは、かなりのハンサム男子。それでもやはり見知らぬ相手だと、警戒心ゼロにではできない。
「君にとても興味がある。それに君が抱えている問題の解決に、力を貸せるかもしれない」
!?
問題の解決に、力を貸せる?
それって悪役令嬢のこと!?
まさかね。
悪役令嬢の件は、誰にも話したことがない。
そうなると、今、最も悩んでいることと言えば……。
瞳のことに触れられたが、確かに遠視は……治ってくれればいいな、とか、コンタクトレンズが発明されないかな、とは思っている。でもそこまで問題だと思っていない。
魔力が弱いのは……。まあ、これは今日に始まったことではない。もちろん魔力が8歳の頃のように戻ってくれたらとは思うけど……毎日このことで悩み、眠れないというわけでもない。
あとは……。
『ネモフィラの花畑の約束』の件は……気にはなっている。でも子供の頃の口約束。それにどうも相手はアンソニーみたいだから、解決する気がする。
「『ネモフィラの花畑の約束』、この言葉に聞き覚えはあるか?」
いきなり頭の中で考えていたことを、隣のハンサム男子が口にするので、心臓が跳び出そうになる。
もしかして……。
このハンサム男子が、『ネモフィラの花畑の約束』に登場する少年……とか?
そう思った時だ。
「ウィリアムさま、お待ちしていました。そちらのご令嬢は?」
ウィリアム……?
そう思い出した。
今の最大の悩みはウィリアムをいかに回避するかで、って、えええええええええええ。
ど、どうして、なんで?
目の前に、マジパラに登場する攻略対象の一人、筆頭魔法騎士ジェラルド・ヴァン・ウッドがいる。
本日もお読みいただき、ありがとうございます!
次回は「ハア……。かっこよかです。」を公開します。
かっこよか……完全に造語でカッコイイのことです。
それでは明日もよろしくお願いいたします。
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