ヤニカスと僕
コンビニで買った新作スイーツはそこまでうまいと感じられず、変なストレスが溜まるばかりだった。雨上がりでベンチも湿っているし。この公園には初めて来る。いつもはまっすぐ学校に行くからだ。それが最寄り駅の一駅前で降り、スイーツを買って食べている。10mほど先には砂場で遊ぶ親子。隣の隣のベンチには灰色のセーターを着た年齢不詳の女がシャボン玉を量産している。
『やべえやつだな絶対…なんで大人がシャボン玉。タバコとかにしろよ。』
その思いが届いたのか、女はシャボン玉を止め、タバコを取り出した。しかし僕はタバコの煙が大嫌いだ。すぐに鞄を持って立ちあがる。
「高校生?」
女の声がした。僕は振り向く。作り笑いを浮かべ、
「あハイ」
一会釈。立ち去ろうとする。女は煙を吐き出して、
「タバコ嫌いか、ごめんな」
「大丈夫です」
大丈夫じゃない。有毒ガスをまき散らしながら言うな。背を向けて立ち去ろうとして数歩歩いたが、体操着を忘れたことに気づいた。振り返ると女が体操着の袋を持って追いかけようとしていた。
「ああ、スミマセン」
女はタバコの火を消し、袋を受け取ろうとした僕の手から袋を遠ざけた。
「あの」
受け取ろうとする。袋が遠のく。
「返してください」
「わかった」
返してくれない。
「わかったが、少し話をしてくれないか。10分でいい。」
「あぁ、、、」
10分でかえしてくれなかったら。力ずくか。やりたくねえ、、、。
「喋るので先に返してください」
「いいよ」
袋をやっと受け取り、女の隣のベンチに座る。
「いやすまないね。どうしても人と話したくて」
「ああ」
砂場の子供が何か嬉しそうに喚いて、また静かになった。
「どうしたんですかっていうか、なんでシャボン玉やってたんですか」
「これはだな、」
女は細い形のシャボン玉量産器を取り出した。
「とあるフェスで貰ったんだ」
「その時喋らなかったんですか、人と」
「喋ったけどダメだった」
「何がダメだったんですか?」
女はタバコを取り出そうと手をポケットにやりかけたが、すぐに膝の上に戻した
「警戒しちゃって」
「あぁ、、、」
「そう」
風が吹いた。少し冷たい。
「なんか、その場で泣いたりしたら多分声かけてくれる人はいるんだ。その場のほぼ全員が仲間みたいなフェスだったから。でも私は何をしてもらっても足りない気がする。」
ここで僕は気づいた。この話はあと7分ぐらいでは終わらない。僕が今からこの人と寝たって抱きしめたってこの人は変わらない。きっと僕には何もできずに別れの時が来て、その時この人は今よりもずっと傷ついている。
「私はどうすればいいのかわからない」
また風が吹いて、さっきより強く木の葉が揺れた。
「僕がタバコ吸える年齢だったら、もっとタバコ吸っちゃいます!僕だったら」
「そうだね、、、」
「電子タバコは健康にいいって言うし」
「そうだね。10分経った。ありがとう。」
「はい、、、」
僕はその人に背を向けて、立ち去った。ライターに火がともる音がした。