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プロローグ

 

「この婚約を白紙に戻していただきたいのです。本当に申し訳ございません!」


 “またか…”



 婚約者、今となっては元婚約者、の伯爵子息が深々と頭を下げる。

 こんなシーンを見るのは何度目だったか。



 “今回は最短だったなあ〜。記録更新よね。”



 もはや何の感慨もない。テレーザは虚ろな目で相手を眺めていた。



「…で、一応伺いますけど次のお相手はどなた?」



 目の前の男は頭を下げたままピクッと肩を揺らす。



 “やっぱりね。”



 普通はこんなこと訊ねない。まして貴族令嬢ともなれば、自ら品位を(おとし)めるようなことは言わない。テレーザは心が(すさ)んでいるのを自覚しながら、嫌味っぽい言葉になってしまうのを止められない。



「…私は自分の本当の気持ちに気付いてしまったのです。」


 “ああ、『本当の気持ち系』ね。”


「…そうですか。(わたくし)(てい)のいい当て馬だったというわけなのね。」


「そんな!滅相(めっそう)もございません!決してそのようなことは!」


 “結果としてそうなったら同じじゃない。”


「…もう結構ですわ。婚約解消のお話は承知いたしました。後ほど私の父からお宅へご連絡が差し上げると思います。」



 疲れ果てて相手の返事も待たずに席を立つ。相手が何か言おうとする気配はあったが、テレーザはもうそこに意識を()くことを(わずら)わしく感じ、さっさとその場を後にした。











「これで通算5件でございますね。お嬢様。」



 腹心(ふくしん)の侍女マヌエラがお茶を出しながら、事務的な伝達をするかのように話しかける。



「そうだったかしら。私も相当親切に思えてきたわ。」



 部屋着に着替えて人心地つき、伸びをする。



「明日の新聞の一面には、またお嬢様の記事が出ますね。」


「それはもう正直勘弁して欲しいわ。お父様も頭を抱えていらしたし。」


「間違いなく次の婚約志願者が殺到するでしょうからね。」



 テレーザは眉を(ひそ)めただけで、何も言わずにお茶を飲む。そんな主人も気にせずマヌエラは続けた。



「こんなに婚約破棄されても引きも切らず求婚が殺到するのは、この世の中広しと言えど、お嬢様ただお一人ですわね。」


「まっっっっっっっったく褒めてないわね。それに!」



 一旦言葉を切って、持っていたカップを受け皿に置く。



「婚約破棄じゃなくて()()よ!全部相手の都合じゃない!」


「『お嬢様のおかげ』、と皆様思っていそうですけど。」


「お嬢様!!」



 マヌエラに言い返そうと身構えた途端、開け放たれていた部屋の入り口から、年若い侍女が走り込んできた。



「カロリーナ、騒々しいわよ。」


「すみません、マヌエラさん。でも大変なんです。」


「どうしたのよ。」



 年若い侍女カロリーナは丸めて握り締めていた新聞をそっとマヌエラに差し出す。マヌエラはそれを受け取りさっと目を通してから自分の主人に手渡した。



「先ほどお使いで街に出ていたら、号外が配られていたのでもらってきました。」


「…早すぎない?」



 なんとなく予想はしていたけれど、想像以上で軽く頭を押さえた。



『愛の女神テレーザ姫、今度はキント伯爵子息の幼馴染(おさななじみ)愛を成就!』



 新聞の号外にデカデカと書かれた見出しと、テレーザの絵姿、そして先程婚約解消したばかりの伯爵子息が他の令嬢と手を取り合っている絵を見て、



「パパラッチがお屋敷の前で張っていたんでしょうね。それにしても、益々お嬢様の女神度が増していきますねえ。」



 マヌエラは全く動じず、新しくお茶を淹れなおした。カロリーナは目を輝かせてコクコク(うなず)いた。



「街の女の子たちの間では、テレーザ様のお姿を拝見すると恋が実るって評判なんです!近頃ではお嬢様の絵姿まで出回っていて、みんなお守りにと買い求めていますわ。」


「ああ、私もそれ、他のお屋敷に勤めている友人から聞きました。」


「私の友達はテレーザ様のお屋敷にお勤めできることを、とってもうらやましがっているんですよ!」



 きゃっきゃと嬉しそうに語るカロリーナと、それに淡々と受け答えするが明らかに楽しそうなマヌエラに、テレーザは何も話す気力が無くなった。



 “なぜこうなった。初めはそうじゃなかったのに…”

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